今年のノーベル物理学賞は、青色発光ダイオード(LED)を発明した名城大の赤崎勇教授、名古屋大の天野浩教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授の3名が受賞しました。受賞後、3名の中で特に注目されたのは中村教授でした。
すでにご存じの方も多いと思いますが、中村教授は特許の対価に対して古巣の日亜化学工業に20億円の支払いを求める訴訟を起こしました(最終的には8億5千万円で和解しました)。この件で、中村教授は従業員の発明対する日本企業の対応を激しく批判しています。
「技術者は企業の奴隷じゃない。イチロー並みの給料を要求して何が悪い」とは、中村教授の言葉です。
一方、「社員が発明した特許について原則として企業帰属にすべき。個人の発明であっても、企業の資金や設備、同僚の協力なしに発明を実現するのは難しいのが現実であり、一定の報酬を支払う代わりに法人に帰属させることは、合理的」とは、現在政府内部で検討されている考え方です。
この点については、評論家の池田信夫氏が次のように述べています。
「青色レーザーのような成果が出る確率は、控えめにみても1/10000ぐらいだから、(確実に成果を得ようとするなら)中村氏に投資した5億円の研究開発投資の1万倍、つまり5兆円の資金が必要だ。」
「イノベーションとは賭けである。事後的には価値を生み出した人が半分取るのがフェアにみえるが、それは9999人の失敗した人の犠牲の上に生まれた偶然だ。企業の研究者の大部分は会社の金で自分の成果を出すフリーライダー(タダ乗り)なのだ。」
つまり、企業は「賭け」にお金をつぎ込んでいるのだから、失敗した分のコストも負担しているのであるというわけです。
私は、この考え方は半分正しく、半分間違っているように思います。
たしかに研究開発は、膨大なコストとリスクを負う賭けですが、その構造はサイコロを転がすような単純な確率ゲームではありません。強いて言えば、競馬のような賭けではないかと思います。
研究開発に従事して企業に利益をもたらすことができる人材は、間違いなく抜群に優秀な頭脳の持ち主でしょう。そして研究に必要な設備機器やサポートスタッフ、その他の開発環境を用意できるのは企業しかありません。
まさに研究開発に必要な様々なコストを負担する企業は馬主、研究者は騎手ではないでしょうか。
競馬での勝利は確率的な事象です。レースでどのくらい勝って賞金を手にできるかは、事前には分かりません(それが分かっていればなあ・・・)。
まず、馬主は勝てる馬(開発環境)を持とうとしますが、それには膨大なお金がかかります。とはいえ、レースに勝ったら全部馬主のモノで、騎手には固定給しか払わないとなれば優秀な騎手はやって来ません。どんなに良い馬を持っていても勝てないでしょう。
優秀な騎手に乗ってもらうにはそれなりの対価が必要です。その対価が「レースに勝つ」確率を高めます。その結果、勝利の多い騎手の収入は他の騎手よりも多くなります。
企業と研究者がお互いWin-Winになれるのは、この「競馬モデル」だと思うのですが、いかがでしょうか。
(人材育成社)