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わかりやすいアンケートは要注意?

2016年04月03日 | コンサルティング

あなたがある会社に転職したとします。あなたの適性に合った職場はA課とB課の2つあり、人事部はどちらを選んでも構わないと言っています。

「A課の課長は仕事はとてもよくできますが、人間的には冷たいところがあります。B課の課長は時々仕事でミスをすることもありますが、人間的にはとてもあたたかい人です。あなたはどちらの課を選びますか?」

ある研修で、この質問を書いた紙を受講者20人に渡して回答してもらいました。Aを選んだ人が8人、Bが12人でした。

「仕事ができる」とか「人間的に冷たい」というのは、とてもわかりやすい表現です。しかし、仕事ができるとはどういうことなのか、あえて定義しようとするとなかなか難しいと思います。さらに、人間的に冷たい/あたたかいとなるとかなり主観的、曖昧になります。

このように、私たちのまわりには正確に説明しようとすると意外に手間取ることがたくさんあります。

「運転しやすい自動車」、「使いやすいスマホ」程度なら統計分析手法(たとえば主成分分析や因子分析※)を使ってかなり正確に定義できるかもしれません。しかし、「おしゃれな服」や「おいしいお菓子」となると好き嫌いが判断基準ですから、そうした手法を使ってもかなり曖昧な結果になると思います。

では、「わかりにくい」とはどういうことでしょう。

よく「専門家の説明はわかりにくい」という人がいます。専門家は概念を正確に伝えようとするため、曖昧さを極力排除しようとします。専門家は、わざとわかりにくくしているのではなく、正確に伝えようと努力をしているのです。

その結果、正しく伝えようとすればするほど言葉や説明が多くなり、わかりやすく伝えることができなくなってしまいます。すべての場合がそうであるとは言いませんが、わかりやすいということは正確さを犠牲にすることです。

問題があるとすれば、専門家が「煙に巻くためわざと難しくしている」かもしれないことです。しかし、実はもっとたちが悪いのはわかりやすさを装った誘導です。アンケートはわかりやすい言葉で質問をすることが原則ですが、わかりやすさを利用(悪用?)して望ましい答えに誘導することです。

さて・・・

あなたがある会社に転職したとしますあなたの適性に合った職場はA課とB課の2つあり、人事部はどちらを選んでも構わないと言っています。

「A課の課長は人間的には冷たいところがありますが、仕事はとてもよくできます。B課の課長は人間的にはとてもあたたかいのですが、時々仕事でミスをします。あなたはどちらの課を選びますか?」 

ある研修で、この質問を書いた紙を受講者20人に渡して回答してもらいました。Aを選んだ人が15人、Bが5人でした。

この質問と冒頭の質問とでは、A課とB課を選んだ人数は逆転しています。

しかし、もう一度読み返していただければわかりますが、両課長それぞれに関する記述は「人間性」と「仕事」の順番を変えただけで、内容は全く同じです。ちなみに、この20人の回答者と冒頭の20人の回答者は、同じ会社の同じ階層に属しています。

このように、わかりやすい表現を上手く使えば結論を操作しやすくなります。

アンケートに限ったことではありませんが、たとえ「わかりにくい」と非難されても、時間をとってしっかり説明し、正確に伝えなければならないことはたくさんあります。

そのことを忘れないように仕事をしていきたいと思います。

(人材育成社)

 両者の定義はここを参照してください→ 主成分分析は因子分析ではない!