(前回からの続きです)私は、経営理念をいったん「廃止」して、しばらくしてから理念を作り直してはどうかと提案しました。
「経営理念が社員に浸透していないなら、無くしてしまっても何の影響もないだろう? なぜ支障が出ると言いきれる?」
「確かに、今の経営理念の内容は浸透はしていません。しかし、そこに理念が“在る”というのはとても大事なことです。だから、なくなってしまうと本当に困るのは社員なんです。」
「なんだかよくわからないが、そういうものか。」
その後、この会社の役員会で経営理念を廃止しホームページ上からも消そうという話しになりました。
数日後、そのことが社内に伝わると、管理職に不満を言う社員が何人か現れました。
「なにも廃止することはないですよ」、「経営理念が無いなんて、お客さんに知れたら恥ずかしいです」そんな声も経営者の耳に届くようになりました。
そこで廃止するのはいったん止めて、社員にアンケートをとってみました。
すると9割以上が「経営理念は必要」と回答していたのです。
「必要と言っているのに浸透していないのはなぜだろう?」
社長にそう質問された私は「浸透できない経営理念だからです。」と答えました。
「できない、とはどういう意味かな?」
「正直、社員にとってあまりピンと来ないメッセージだからです。」
「そんなことはないだろう。私の尊敬する稲盛和夫氏が創業した京セラの”全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること”や、本田技研の”わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。”を見習って作ったんだ。」
社長は不満そうでしたが、私はこういいました。
「では、京セラとホンダの経営理念を入れ替えてみてください。違和感がありますか?」
「え?・・・いや、それはないな。どちらも立派な会社だからねえ・・・」
「だったら、他の会社もコピペして使えば良いのではないでしょうか。」
「そんな単純な話じゃないよ。世の中の会社が全部京セラやホンダじゃあるまいし。」
「そうですよね。両社の経営理念は、実は理念がすでに浸透したから理念になったんです。」
「どういうこと?」
「ホンダの会社案内の”ヒストリー”のページを見てください※。トップに小型のエンジンの付いた自転車の画像があります。」
「その上にこう書いてあります。“これができたら、みんな喜ぶだろうなぁ”」
「これは経営理念ではありませんが、社長以下全社員の本当の気持ちですよね。」
「この言葉を見るたびに、自分が勤めている会社はこういうことを実現しようとしているんだな、というのが実感できます。浸透するというのはそういうことです。」
「うーん、誰もが実感できる言葉ねぇ。理念はそれが社員に浸透したときに作れば良いのか。」
「そうです。その言葉を生み出すのが社長の仕事です。コンサルに頼るなんてもってのほかです。」
この会社はその後、「私たちの思い」という形で新しい「経営理念の素」を作りました。
もちろん社長も社員も気に入っているようで、誰に聞いてもすぐに答えてくれます。
立派な経営理念をお持ちでありながら、社員に浸透していないとお悩みの経営者の皆さん、一度「廃止」を宣言してみてはいかがでしょうか。
(今回はいくつかの顧客の事例を元に書きました。”うちのことかな?”と思われた社長様、どうぞお許し下さい)