これは江戸時代初期の儒学者、貝原益軒(かいばらえきけん)の言葉です。生涯で60部270余巻の著作があると言いますから、今で言えば超ベストセラー作家ということになります。
著書の多くは平易な文体で書かれており、自ら見聞し、体験した内容が中心でした。有名な「養生訓」は、一般大衆向けの「健康生活の心得」といった本ですが、なんと83歳のときの著作ですから説得力があります。
知って行わざれば知らずに同じ。どんな良いことを知っていても行動に移さなければ、それを知らないことと同じであるという意味です。
この言葉を聞くと、自らを省みてハッとする人も多いことでしょう(私もそうです)。ところが、この言葉に全く反応しない人も少数ですが存在します。
私は研修で年に延べ千人近くの方々(多いところでは1社で200人超の会社もあります)を対象に講義をします。受講者の中には「知っていることばかりで退屈だった」とか「新しい知識が得られると思ったが期待外れだった」と口にする人がいます。比率としては1%未満なのですが。
研修で学ぶ知識について、こうした「知ってる君」は確実に「やらない君」でもあります。貝原先生に言わせれば、無知な人と同類ということになります。
実際に見たわけでもないのになぜ「やらない君」だとわかるの?という疑問が浮かんだ方もいらっしゃるでしょう。
それは、研修の中で行うロープレ(ロールプレイング)を見ているとわかるのです。
「知ってる君」はとにかくロープレが全くダメなのです。妙に躊躇してしまったり、トンチンカンなやりとりをしてしまったり、目も当てられないくらいひどいのです。挙句に「こんなお遊戯みたいなことやっても実践では使えないよ!」などと言ったりもします。
いやいや、お遊戯すらできない人が実践で使えるわけがありません。
研修で初めて学んだ知識を素直にロープレで試してみて、職場で何度か使ってみることでようやく「できる」ようになるのです。繰り返し実行することが「知ること」であり、その逆ではありません。
残念なことに「知ってる君」につける薬はいまだに発明されていません。