先日、お会いしたセミナーの受講者のAさんは社会人3年目で、新卒で入社した会社を1年半で退職した理由を次のように話してくれました。
Aさん:「一部上場の製造業で売上高も数千億円ありましたし、社員数も3,000名位の会社でした。名前もある程度知られているところでしたから、内定が出たときには両親も喜んでいました。私も第一志望の会社ではなかったのですが、できる限り長く勤めるつもりで、期待に胸を弾ませて入社したのです。配属先が営業になることは入社前からわかっていましたので、営業職に就くことにも抵抗はなかったのです。ですから、自分でもまさか1年半で退職を決断することになるとは、想像もしていなかったです」
私:「退職を決意した理由は何だったのですか?」
Aさん:「辞めることを決断した理由は、いろいろあります。一番嫌だったのが、お客様が求めているものではなくて、利益率の高いものを売るように言われることでした。会社の利益ばかりを優先して、お客様のニーズとは明らかに異なっているものを提案することに耐えられなくなったのです。
おまけに、上司もノルマの数字を抱えているためか、我々新人を育てようという余裕がないのか、上司から指導をされたこともほとんどなかったのです。
そして、もう一つ不満に思ったのが、上司が帰るまでは帰宅できなかったことです。上司より先には帰れない雰囲気だったので、会社を出るのが10時位になることも珍しくなかったです」
私:「周囲に相談はされたのですか?」
Aさん:「関東エリアに配属された同期の半分は既に辞めてしまいました。1人減り2人減りと徐々に減っていく中で、どんどん気持ちが焦っていきました。私もできるだけ長く勤めようと考えていましたけれど、将来が全く想像できなかったのです。10年後に自分がどうなっているのか、この会社でどうしたいのかがイメージできなかったのです」
結局、Aさんは退職前に転職活動を始め、現在はアパレル会社に転職し販売の仕事をしているそうです。「今は毎日が勉強の連続ですので、充実しています。思い切って転職して良かったと思っています」とおしゃっています。
生き生きとした表情で話をするAさんを見て、良かったと思う反面、一部上場のある程度名前の知れた企業の実態を伺って、正直びっくりしました。
顧客の希望に応えずに、自社の利益を優先した商品を販売するように命じる企業姿勢や、部下の育成を放棄して自分の数字だけを追っている上司の姿勢、さらに「お付き合い残業」をしなければならない企業風土・・・
流行りの言葉で言えば「ブラック」と言えそうな、これらの悪しき習慣が数十年もの歴史の中で築かれ、受け継がれてきたわけです。
Aさんの話を伺いながら、最近は営業職を敬遠する若者が多い中で、営業職の魅力を伝えたり、営業スキルを身に付ける研修を行なったり、営業のコンサルティングを提供する者の一人として、何とも憤懣やるかたない気持ちになりました。
規模の大小を問わず、このような営業を強いる企業の姿勢が営業職を敬遠させる結果に繋がってしまっていることがとても残念だと思うと同時に、弊社ではこれまで以上に営業に関する研修やコンサルティングに力を入れようと思った出来事でした。
(人材育成社)