「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「給与が今よりも高い会社に転職をすることにしました」
これは、先日知り合い40代前半の男性から聞いた言葉です。彼は長年製造業で監督職として活躍していましたが、このたび給与を上げたいと考えていたのだそうです。詳しく話を聞いたところ、現在の業務や会社自体には大きな不満はなかったそうですが、彼が言うには年齢的にもラストチャンスであり、今後必要となる子どもの教育費などのことも考え、転職を決断したのだそうです。
近年、人材の採用難に対する施策の一つとして給与を上げる会社が増えています。雇用される側としても給与は高いに越したことはありませんので、それ自体は歓迎できることで特に問題はないと思います。
この給与が上がることを動機づけ理論の視点で考えると、外発的動機づけであると言えます。外発的動機づけとは、外部からの報酬や罰などの力によってやる気にさせるもので、たとえば金銭的報酬を得たり、ペナルティを避けたりすることなどを目的として行動を起こさせるものです。一般的に外発的動機づけは人を動かす強い力になりますので、有効な手法とされています。ただし外発的動機づけには問題点もあり、報酬や罰などの刺激を与え続けていないと、いずれやる気が失われてしまうことです。
そのように考えると、給与が高い会社に転職をすることはやる気の向上に寄与することにはなりますが、やがては時間の経過とともに上がった給与にも慣れてしまい、だんだんとやる気が失われていってしまわないとも限りません。
先日、高崎市にある「かみつけの里」博物館に行く機会がありました。ここは、榛名山東南麓で出土した5世紀後半(古墳時代)の人物・動物などの埴輪を模型にして、当時の様子を再現し展示している博物館です。館内の一部では「八幡塚古墳」についても紹介しているのですが、まず古墳を作るための工事費は現在の金銭に換算すると10億円ほどであり、そのほぼ全てが人件費に該当したとのことです。しかし、当時は報酬という概念がなかったため、労力の9割を占める村人たちは食事や少しの褒美を与えられるくらいで労働力を提供したと考えられるのだそうです。
それでは、そうした村人達が古墳を作ることへのモチベーションをどのようにして維持できたのかということについて疑問を持ちますが、村人たちは古墳の造営という壮大なプロジェクトに参加できるということが彼らにとってのステータスになったとも考えられるとのことです。現在のように機械はなく人力のみで古墳を作るとなると、強制されムチで打たれて労働力を提供させられていたようなイメージの、これまでの見方は変える必要があるのかもしれないとも紹介されていました。
このことは、まさに現在でいうところの内発的動機付けに当たるものだと思います。内発的動機づけとは、報酬などのためではなく自身の内部から湧き出る意思で動くことであり、私たちは仕事にやりがいを感じられたり何らかのステータスを感じられたりすると、やる気をもって前向きに働くことができるということです。
人材をなかなか採用できない、あるいは貴重な人材に転職や退職をされてしまうことを避けるためには、報酬が上がるという外発的動機付けが手段として有効であることは確かですが、同時にそれだけでは自ずと限界もあります。
したがって、外発的動機付けと内発的動機付けのどちらか一方だけに取組むのではなく、両者をバランスよく組み合わせながら、継続的に社員のやる気を引き出していくことが大切なのです。そのためには、適切なタイミングで報酬や福利厚生などを見直していくとともに、現在の仕事の魅力ややりがいをあらためて理解してもらうことです。将来の展望やそれに向けた計画などを具体的に示すなどにより、引き続き社員にやる気・モチベーションを持ち続けてもらえるようにバランスよく取組んでいくことが大切だと考えています。