少し前にNHK BSで放送された「英国王のスピーチ」という映画を見ました。これは吃音症に苦しむ英国王ジョージ6世と、その治療に尽力したオーストラリア出身で平民の言語療法士 ライオネル・ローグの2人の実話に基づく映画です。
吃音症に苦しむジョージ6世(当時はヨーク公)は様々な医師の治療を受けるのですが、そのどれもうまくいかず、結果ライオネル・ローグの一風変わった治療を受けることとなるのです。その過程でのやり取りは今で言えばコーチングの一つと言えるのではないかと思いました。
ローグの治療で特徴的なのは、単なる治療だけでなく、相手が国王であろうとも信頼と対等な関係を求めたことです。王室に対する礼儀作法に反してジョージ6世を愛称の「バーティ」と呼び、自身のことはライオネルと呼ばせたのです。
当初、ジョージ6世はバーティと呼ばれることに拒否反応を示し、何度もぶつかり合う2人でしたが、徐々に治療は着実に成果を上げ始めます。
やがてジョージ6世が語る幼少期の辛い体験に対し、ローグは「辛かっただろう。」と心から共感することなどを通じて、お互いの信頼関係も築かれていきます。
この映画の最大の見所は、第2次世界大戦開戦時の国民へのジョージ6世の9分にも及ぶスピーチのシーンです。スピーチが決まってから実際に放送が終わるまでのジョージ6世の緊張感が実にリアルに描かれていて、見ているこちらも思わず緊張してしまうほどでした。
放送に立会ったローグは、緊張の極地のジョージ6世に対し、「頭を空にして私に向かって言うんだ。私だけに、友として」と語りかけます。
ジョージ6世はローグのフォローもあり、見事に最初の戦争スピーチをやり遂げたのです。
これをただ単に治療の、翻って指導の成功例として捉えることもできるでしょう。
しかし、私はこの映画の肝は単なる治療の成功物語でなく、治療を通じて信頼関係が作られ、友情を結ぶまでの人間関係の物語と捉えました。
何より研修においても単に知識やテクニックを教えるだけでなく、それが本当に受講者の身について実務で生かすには、受講者との間に一定の信頼関係が必要なのではないかということを示唆しているようにも感じました。
弊社も研修では多くの皆様とお会いしますが、通常は多くの研修は数日程度です。
その短い時間の中で数十名の受講者と信頼関係を作り、最大限の成果をあげることは現実には非常に難しいことです。初めはお互いに緊張していて、ようやく慣れて調子が出てきたなと思う頃には研修の終わりが近づいているということはよくあります。
中でも単に知識やノウハウを教えるだけでなく、受講者に信頼されるに足る講師になるべく、研修を行うことを心がけていきたいと思います。
ところで、私がこの映画で一番好きなシーンは、最初の戦争スピーチを無事に終えたジョージ6世がローグに「お手柄だ。我が友よ。」と労ったのに対し、ローグはスピーチが無事成功したことでもう治療は終わって対等な関係は必要ないと思ったのか、初めて「ありがとう、「陛下」」と答える場面です。
私はこの瞬間こそ、二人に本当の友情が芽生えたと思うのですが、皆さんはどのように感じられるでしょうか。
(冒頭の写真はwikipediaより)
(人材育成社)