ドリームという映画の広告が、本日の朝刊の真ん中に両面見開きで出ていました。私はこの映画の原作を先月読み、大変面白かったので、映画も観にいきました。内容は、広告や映画会社のホームページで知ることができますので詳しく書きませんが、作品概要をウェブから引用します。
「1962年に米国人として初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士ジョン・グレンの功績を影で支えた、NASAの3人の黒人系女性スタッフ、キャサリン・ジョンソン、ドロシー・ボーン、メアリー・ジャクソンの知られざる物語を描いたドラマ。」派手な映画ではないのですが、まったく飽きることがありませんでした。ひとことで言えば「地味に痛快」という感じです。
映画では、当時のアメリカの人種差別の様子が描かれています。黒人女性のキャサリンが抜群の能力(計算と解析)を認められてエリート集団の部署に異動します。しかし、職場がある建物には「有色人種用トイレ」がないので、片道800m離れた元の職場まで走って行ったり、コーヒーポットに「有色人種用」というシールを貼られたり、色々と(地味な)差別にあいます。原作の本を読むとわかりますが、小説ではなく伝記です。60年代は私が子供の頃でしたので、絵空事には思えませんでした。
それでも全編を通してとても明るい映画なので、楽しんで観ることができました。特に面白かったのは、主人公の1人、ドロシー・ボーンが子供をつれて公共図書館に行ったときのエピソードです。本を選んでいると「ここには有色人種用の本は無い」と警備員につまみ出されるのですが、こっそり1冊持ち出してきます。子供が「盗んだの?」と聞くと、「私の税金で買ったの」と答えます。その本が、後にドロシー・ボーン率いる黒人女性だけの計算チームを大きく飛躍させることになります。その本のタイトルを見たとき、思わず「おお!」と唸ってしまいました。私が読んだそれには「77」が付いていました・・・と言えば何の本かおわかりの方も多いと思います。
ただひとつこの映画に文句があるとすれば、ドリームという邦題です。原題は「Hidden Figures」隠された人物たち、歴史に埋もれた影の功労者たちというくらいの意味です。映画の中でも、字幕に「夢」とあった部分は会話ではimpossibleでした。ドリームというと夢物語をイメージします。映画は、主人公たちがimpossibleをpossibleにして行く内容なので、ちょっと似つかわしくありません。むしろ、映画「ワンダーウーマン」の方がよっぽどドリームで、「ドリーム」の方がよっぽどワンダーウーマン(ウィメン)を描いているように思います。
原作本も同じ「ドリーム」というタイトルが付いてますが、こちらは1940年代のNASAの前身の機関から描かれており、大変興味深い内容になっています。ぜひご一読ください。
さて、画像は、本人の名前が冠されたNASAの建物の前で車椅子に座るキャサリン・ジョンソンさんです。2015年、アメリカで文民に贈られる最高位の「大統領自由勲章」を授与されました。現在99歳とのこと。こうした人物をHiddenにしておかないところがアメリカの凄いところです。