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スペイン

 我が家の冷蔵庫に、もう3年近く次のような文言が書かれた紙が貼ってある。

  ワレ天地ヲモッテ棺槨(カンカク)トナシ、
  日月ヲモッテ連璧(レンペキ)トナシ、
  星辰を珠璣(シュキ)トナシ、
  万物ヲ齎送(シソウ)トナス。
  ワガ葬具ハアニ備ワザランヤ。
  何ヲモッテカコレニ加エン。

娘がセンター試験の前後に突然この紙を貼り付けたときはちょっとぎょっとした。何故なら、この漢文の意味が、荘子が危篤になり、弟子達が手厚く埋葬する相談をしていた時に、荘子が彼らに向かって
 『そんな必要はない。私が死んだら天地を棺にして、太陽や月を宝石に、星たちを真珠にし、その他自然のすべてを埋葬品にすればいいじゃないか』
と言ったという内容だからである。
 18になるかならないかの娘がこの文言のどこに惹かれたのか知らないが、受験勉強のプレッシャーに負けて死の誘惑と戦っているのかしらと、時が時だけに余計な心配をしてしまった。黙っているのも変だと思って、
 「どうしてこんな言葉を書いて貼ったんだ?」
 「これは、トイレにおいてある『マンガ老荘の思想』を読んでいて、きれいな言葉が並んでるなとちょっと感動したから。日月や星辰を連璧や珠璣になぞらえているんだよ。雄大ですごく詩的だと思わない?」
 これを聞いて、受験勉強のさなかでも、文章の美しさにこれほど浸れる心の余裕があるなら大丈夫だと胸をなでおろした。そのときの記念なのか、ただの不精なのか、3つ下の息子が受験勉強をする年になった今年もまだ同じ所に貼ってある。息子にもこの文章を愛でるくらいの余裕があればいいのに、と密かに思っているのだが、どうだろう。

 この娘が今月の12日からスペインに友達と二人で旅行に行くことになっている。去年のイタリア、今春の台湾、そして今度はスペインとパスポートを最大限利用しようとしているのかと言いたくなるほどの海外旅行三昧だが、娘に言わせれば、「4回生になったら院入試に備えなければならないし、もし落ちたら就職活動に回らなければならないから、今年中に行けるときに行っておく」なのだそうだ。最初は、トルコに行きたいといってきたが、中東情勢が予断を許さない現在、イスラム圏の国に行くのは危険だから、絶対に駄目だと答えてやったら、次にはポーランドやチェコという東ヨーロッパならどう?と打診してきた。東欧は治安がよくないんじゃないかと難色を示したら、「それならスペインならいいでしょう、スペインにする、もう決めた」などと勝手に交渉を打ち切ってしまった。まあ、スペインなら仕方ないかとこちらも追認してしまったが、外国旅行はどこに行っても心配だ。
 ナゴヤドームでのSMAPコンサートを見るために月曜から帰ってきていたが、スペインに持っていくスーツケースを買いたいと言って、妻と一緒に買いに行ってきた。
 

何でも、スーツケースとしては世界最軽量なのだそうだ。実際に持ってみたら、大きいけど本当に軽い。何でできているのかは聞いていないが、丈夫そうだ。取っ手や車輪もついているから、ガラガラと運んでいけて便利そうだ。いい買い物だ。
 大分旅慣れてきただろうが、それだから余計に心配になる。くれぐれも気を抜かずに楽しい旅をしてきて欲しいと思う。また、しばらくは心配な日が続く・・
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