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議員

 日曜日の午前中、塾で授業をやっていたら、階下で「こんにちは」と呼ぶ声がする。宅急便かなと思って出て行くと、「○○○○でございます、ご無沙汰しております」などと、ご丁寧な挨拶が始まった。よく見れば県会議員の人だ。この人は私の父の遠縁にあたるとかいう人で、選挙のたびごとに親戚付き合いが始まる。4年に1度親戚の絆を強調するのだが、父よりも高齢なため、もう75歳は超えているだろう。背筋がぴんとして肌のつやもよく、チラッと見ただけではそんな年には見えないが、年齢を詐称するわけにも行かず、来年の県会議員選挙には引退を表明する手紙が少し前に来ていた。自分の長男を後継に指名したなどと、どうでもいいことを大げさに書き連ねてある可笑しな手紙であった。
「お父さんはおみえになりますか?」
「いえ、畑に行ってます」
「ああ、そうですか、お元気で何よりですね」
あんたの方こそ爺だろう、などと意地悪なことを思っていたら、
「私、このたび政界を引退する決意をいたしました。色々お世話になりましてありがとうございます。つきましては、後継者としてこちらにおります私の長男を・・」
と、横にいた息子を紹介し始めた。この息子というのは私の中学・高校の1学年下の後輩で、話したことはないが、顔ぐらい知っている。父親によく似て狐のような顔をしているので、なかなか忘れられる顔ではない。
「△△△△でございます。よろしくお願いします」
見れば、だいぶ太ったが、顔は狐のままである。赤いカッターシャツを着てネクタイを締めている。上着を着ていないので、赤シャツが目立つ。『何で白のシャツを着てこないんだ、バカか・・』などと心では思ったが、「はあ、どうも」などと名刺を受け取ってしまった。
「授業中ですか?」
と聞くから、
「見れば分かるだろう」といいたい気持ちを我慢して、「ええ」とだけにこやかに答える。私も大人の対応ができるようになったものだ。
「それはお忙しいところをお邪魔しました、なにとぞよろしくお願いいたします」と父親が如才ない挨拶をして立ち去ろうとしたから、私もつい「がんばって下さい」と完璧な社交辞令を言ってしまった。いやな奴だなあ・・・
 それにしても、あいつだって私が先輩だということくらい知っているだろう。嘘でも、「先輩助けてください」とでも言えばいいのに。そうしたら私だって、握手の1つくらいしたかもしれないのに・・・

 それにしても、この男は何のために立候補しようというのだろう。市会議員を何期か務めてから県会へというのが普通の道筋のように思うが、どうしてまた県会からスタートしようとするのか。親の後継というのを錦の御旗にして当選できるつもりなのかもしれないが、経歴を見ても、大して政治経験を積んできていないように思われる男が、わずか半年余りの活動で簡単に当選できるはずもないだろう。
 まあ、この父親というのも、たいした政治信条など持ち合わせていない人だから仕方ない。始まりは確か自民党だったと思うが、新自由クラブができたらすぐにそこに加わり、その後は政党の離合集散を象徴するかのように立候補するたびに党籍が変わっていた。県会議員を何期か務めた後、いきなり市長選に出馬して落選、その後は県会に戻ろうとして苦杯をなめた末に何とか返り咲いたが、今はいったい何党に属しているのか全く分からない。息子がくれた名刺を見たら、民主党・・・とかいう肩書きが書いてあったから、きっと民主党なんだろう。
 あ~あ、全くこんなに簡単に、即席で議員になれると思っている輩ばかりなのだろうか。たいした考えもないまま、勢いで議員になって、何も勉強しないで偉そうなことを言うようになる。今の世の中二世・三世議員ばかりだが、議員という商売はそれほど魅力的なんだろうか。困った風潮だが、少なくともこの男はきっと落選するだろうから、それから勉強し直せば少しはマシな人間になれるかもしれない。ぜひとも、そうならなきゃね。
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