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永世竜王

 私は将棋が苦手だ。何手も先を読むなんて芸当は私にはできない。当然将棋は弱い。弱ければ研究して強くなればいいものを、先を読むことがどうにも苦手で、いつからか将棋を指すこと自体もやめてしまった。
 そんな私がどうして竜王戦に興味を持ったのだろう。12月11日の午前9時過ぎ、起きたばかりのボーっとした頭でTVのチャンネルをあちこち変えていたら、たまたまNHK-BS2で竜王戦の中継をやっていた。何気なく見ていたら、渡辺明竜王に羽生善治名人が挑戦して6局目になっているのが分かった。戦績は羽生が3連勝した後渡辺が巻き返して2連勝し、通算成績は羽生の3勝2敗という状況だった。「大盤解説」解説と称して、プロ棋士があれこれ説明してくれるが、私にはちっとも分からない。普段ならすぐにチャンネルを変えてしまっただろうが、渡辺は現在竜王位を4期連続で獲得しており、今年も防衛に成功すると「永世竜王」の称号を獲得すると何度も繰り返される。一方の羽生も過去6回竜王位を獲得しており、今回竜王位を奪還すれば、通算7回獲得したことになるので、規定により彼も「永世竜王位」に就くことになるのだそうだ。すなわち、どちらが勝っても史上初の永世竜王が誕生するということになるため、将棋界やその関係者のかなり興奮している様子がTVの画面を通して伝わってきた。
 「これは面白い!」
と細かなことは何も知らない私ではあるが、思わずTV画面から目を離せなくなってしまった。と言っても、早打ちの将棋などではないので、まったく一手も進まぬうちにどんどん時間が過ぎていってしまう。しかし、長考しているそれぞれの棋士の真剣な面持ちは、半分寝ぼけていた私の頭をかなりしゃきっとしてくれた。と同時に、今まで味わったことのない将棋の面白さに、ほんの少しではあるが、目覚めさせてくれたようにも思った。
 その日は結局渡辺竜王が勝ち、3勝3敗のタイになり、勝負は第7局に持ち越されることになった。決戦の場所は将棋の駒の生産地として有名な天童市。まるで始めから意図されたような段取りには驚かされたが、私も初日の17日には午前9時からの中継開始を心待ちにしていた。「竜王」が将棋界の最高峰のタイトルであり、どちらが勝つにせよ、この7局で「永世竜王」が誕生するわけだから、その勝負の行方を少しでも知りたいと少なからずワクワクしていた。
 初日は9時から10時までで中継が終わってしまったが、「難解な中盤」から始まった第二日目は9時から1時間だけでなく、午後4時からも3時間近く中継する予定だという。慌てて録画の予約をしたが、将棋の中継を予約録画したなんてことは今まで一度もない。なんとかして歴史的瞬間に立ち会いたいという思いがそうさせたのかもしれない。中継が終わった後も、少しでも戦況を知りたくて、ネットで調べたりしたが、棋譜を見せられても私にはちんぷんかんぷんだ。どちらが有利なのかさえ教えてくれればいいのだが、そうしたサイトは見つからなかった。
 どうなったんだろうな?と戦いの様子が伝わってこない苛立ちが募り始めた頃、
 「将棋の第21期竜王戦七番勝負の第7局が17日から山形県天童市の「ほほえみの宿 滝の湯」で行われ、18日午後7時半、140手で渡辺明竜王(24)が挑戦者の羽生善治名人(38)を降し、4勝3敗で防衛した。渡辺は5連覇を達成し、初代の永世竜王の資格を獲得した。羽生の史上初の「永世7冠」はならなかった」
という記事をPCで見つけた。「そうか、渡辺が勝ったのか!3連敗したあと4連勝したのか、すごいな!」と胸が熱くなった。これは将棋のタイトル戦七番勝負史上初の大逆転勝利なのだそうで、まさしく私も歴史的な勝負を見守ったことになる。なんだかうれしい・・。
 TVの解説で、「渡辺竜王は竜王戦になると120%の力が出るようだ」と評していたが、羽生名人に土壇場まで追い詰められたのを凌いで、大逆転をしてしまうのだから、この若者は真に強い力を持った男なんだろう。いや、ひょっとした「魔太郎」の実写版として何か得体の知れない力を持っているのかもしれない。

  

 よく似てるよなあ、本当に・・。おめでとう!!
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