goo

「カムイ外伝」

 映画「カムイ外伝」を見た。9月から順次公開された「BALLAD」「TAJOMARU」とこの「カムイ外伝」は必ず見ようと見ようと決めていたから、やっとその思いを果たせてすっきりした。特にこの「カムイ外伝」が3作の中で一番見たいと思っていただけに、台風の近づくのも物ともせずに出かけた。
 スト-リーは、

『十七世紀の日本。身分制度の最下層の出身であるカムイは貧しさから伊賀の忍になるが、自由を求めて抜け忍となる。ある日彼は伊賀の追い忍達との戦いの直後、領主の愛馬の白い足を切り落とした半兵衛という漁師に出会う。途中半兵衛によって船から突き落とされたカムイは半死半生で半兵衛の住む島に流れ着くが、そこにはかつてカムイが仕留め損ね、今は半兵衛の妻・お鹿として生きる同じ伊賀の抜け忍・スガルがいた・・』

と簡単にまとめられるだろう。しかし、私のように「カムイ外伝」を始め、白戸三平の作品はほとんど読んだことのある者にとっては、物語の背景が分かっているので、映画だけを見てもある程度は理解できるが、そうした下知識なしに見始めた人にとっては、なぜカムイが抜け忍とならねばならなかったのか、どうして抜け忍となった者の命を追い忍たちが執拗に狙うのか、少しばかり理解ができなかったのではないだろうか。確かに山崎努がナレーターとして最初に物語の成り立ちを説明してくれているが、いくらその語りの見事さに感心しても、もう少し実際の映像でその辺りの事情を丁寧に描写してくれたら理解しやすかったのではないだろうか。原作を読んでくるのが映画を見る者たちに課せられた予習だということはないだろうし・・。
 妻は見終わって「詰まらなかった」と言った。妻も白戸三平の原作はいくつか読んでいるはずだから、物語の芯となるべきはずの江戸時代の身分制度の苛烈さが十分描かれていなかった、という感想を持ったようだが、私もそれに同意した。だが、そうした物足りなさをかなりの程度補ったのが、松山ケンイチだったと私は思う。私は「デスノート」で初めて彼を知ったのだが、彼の演じたLは完全に藤原竜也のライトを圧倒していた。藤原のファンの妻の手前、その時はそうそう松山ケンイチを持ち上げられなかったが、それ以来若手俳優の中では私のもっとも注目する役者となった。都会的ではない彼の風貌が、影のような存在であるカムイにぴったりだったとも言えるだろうし、朴訥な雰囲気が人を決して信じることのできないカムイの孤独を反映しているようでもあった。CGばかりが目だって、超人的な動きをする忍者に現実感が削がれてしまう中、松山の人間くささがギリギリのところでこの映画を人間ドラマにしたんではないだろうか、そんな気さえした。

 

 その逆の意味でスガル役の小雪も適役だと思った。元々私は彼女の能面のような顔が好きではなかった(稲垣吾郎と共演したTVドラマ「佐々木夫妻の仁義なき戦い」の役柄があまりにひどかったのが一番の原因のような気がする・・)が、この映画の中では反ってその無表情さが抜け人の悲哀を体現しているようで、初めて小雪っていいなと思った。もちろんその夫役の小林薫がいい味出しているのは当然のことであるが、勿体無いと思ったのは、バカ殿を佐藤浩市が演じたことだった。佐藤浩市もあんな下らぬ役を引き受けなくてもいいのに、とかなり残念に思った。
 
 この時代劇3作を見終わって自分なりの評価を付けるなら、「BALLAD」>「カムイ外伝」>「TAJOMARU」の順になるように思う。「BALLAD」はなかなかの興行収入を上げているようだが、誰が見ても楽しめる映画というのはそうざらにないだろうから、この映画のようにどの世代にも見るように勧められる作品は稀だと思う。その点で言えば、「カムイ外伝」は松山ケンイチを見たい人には彼の魅力が伝わってくる映画だろうな、と思う。だが、白戸三平の「カムイ外伝」ファンが、この映画を見たなら、「原作ってもっと違っただろう」と物足りなさから、改めてページを開くきっかけになるような気がする・・。。
 私もどこにやったのか本を探さねばならない。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする