じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

三島の「憂国」を読む

2008-11-26 08:05:36 | 
★ 11月25日は三島由紀夫が自刃した日だそうだ。それを昼の「思いっきりテレビ」で知って本屋へ駆け込んだ。

★ 三島の作品では「金閣寺」を読んだことがある。「潮騒」は内容だけ知っている。この機会に「豊饒の海」を読もうかと思ったが、長編を読む意欲が湧いて来なかったので、短編集「花ざかりの森・憂国」を購入。「憂国」を読んだ。

★ 題名からして、勇ましい軍人の活劇かと思ったが、予想に反し、作者が言っているように「エロスと大義との完全な融合と相互作用」の所産であった。

★ 基本的には夫婦愛、読むうちにそれは昇華して人間愛を感じた。血潮が溢れ出るような生臭い作品で、私の目から見れば「死」の大義が明確ではなく、自らの手で生を終焉することへの美的陶酔が感じられたが、それはそれで純粋性を極限まで突き詰めた結果なのだろうか。

★ 場面設定はニ・ニ六事件であるが、別段、この事件にこだわる必要はない。江戸時代でもいいし、現代にも当てはまるかもしれない。「皇軍相打つ」的葛藤は、どの時代にもありうることであろう。

★ 文体の美しさは今さら言うまでもない。豊富な語彙があるべき場所でそれぞれの光を放ち、それらがお互いに励ましあって光沢を一層豊かにしている。文章の美しさを味わうだけでも読む価値がある。

★ 女性の白い肌、白無垢の衣裳と割腹によって溢れ出る血潮の赤。この色彩の鮮やかさは鮮烈だ。

★ 夫婦で繰り広げられる激しい性の営みは生の高揚感を謳歌し、割腹の苦痛の中で生のクライマックスが感じられる。夫婦が対峙する中で事が進展する有り様からは、劇場的な空間が感じられる。

★ この作品の10年後に三島は自刃する。1970年といえば学生運動の末期。三島は学生運動の鎮圧に自衛隊が出動し、クーデターによる憲法改正をめざしたという。自ら「盾の会」という民兵組織をつくったという。新左翼がテロ行為を繰り返す中での動きであろう。今から思えば、自衛官の論文であれこれ言っているのとは緊張感が違う。

★ 三島は殉教者の如く死して名を残したのであろうか。それが彼の周到な計画なのだろうか。彼の生き方(死に方)についてはナルシズムとか美学とか評される。果たしてそうなのか。もっと三島の文章に酔いしれたいものである。
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