★ 春休み最後の日曜日。今日も好天に恵まれ、桜は満開だ。
★ 福永武彦さんの「草の花」(新潮文庫)を読んだ。物語は終戦からそれほど遠くないある冬から始まる。舞台は郊外のサナトリウムで、主人公(語り手)は他の患者と共に結核の療養をしている。彼はそこで汐見茂思という同じ年頃の男性と出会う。
★ 汐見は病状が重く、友人からの自重を勧める声に迷うこともなく、当時まだ危険であった片肺の全摘手術を希望する。手術は始め順調に進んでいたが、やがて血圧が低下し、亡くなってしまう。
★ 主人公は汐見から2冊のノートを託されていた。それを読みながら、彼の死が術中死なのか、それとも彼が自ら望んでの体の良い自殺だったのか思いを巡らす。
★ 2冊のノートには汐見が経験した2つの失恋が描かれていた。
★ 理知的で純粋であるがゆえに苦悩も大きかったようだ。神の愛か地上の愛か。信仰に篤くない私などには理解できない領域だ。ただ文章が巧いので思わず物語に引き込まれる。
★ この物語は作家自身の体験が下敷きになった私小説だという。作家は主人公に死を与えることによって、自らは生きることができたのではないかと思った。