★ 少々季節は早いが、浅田次郎さんの「薔薇盗人」(新潮文庫)から「ひなまつり」を読んだ。
★ 主人公は小学6年生の女の子。「お雛様は二月の風に当てなければいけない」という祖母の言葉を信じて、少女雑誌の付録についていた紙製のひな人形をせっせと作っている。
★ 女の子の母親はシングルマザー。夜の仕事に出ているので、彼女は一人アパートで夜を過ごしている。以前は隣に住む12歳年上の男性と懇意にしていたが、少し前に引っ越してしまった。
★ 男性は女の子をまるで娘のようにかわいがってくれた。女の子はこの男性が父親になってくれたらいいなぁと思っていた。ところが男性にとって12歳年上の母親との間に何かがあったようだ。小学生の女の子には大人の事情はわからない。
★ 引っ越したとはいえ、夜を一人で暮らす女の子を心配して、男性は時々訪問してくれる。そして今夜は、本物のひな人形をプレゼントしてくれた。大喜びの女の子。
★ 時代は1964年の東京オリンピック直前。テレビが高級品だった時代。変わりゆく東京が舞台。オリンピックで景気が良くなり、みんなの生活が豊かになるはずだったのに、女の子の生活はほとんど変わらない。
★ 男性が女の子に優しくするのにも理由があった。彼もまた孤児として大陸から引き揚げた経験をもってした。男性は女の子の寂しさが痛いほどわかったのだ。
★ どうするこもできない境遇。女の子の純粋な想いが心に響く。いつもながら、浅田次郎さんにはホロリとさせられる。
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