快風丸

俺の船に乗らないか。

となりの駄犬

2009-03-23 00:47:06 | Weblog
 よく吠える犬の声で目が覚めた。
ひとり暮らしのおばあさんと茶色の小型犬。
おばあさんが出かけると、その間中吠え続けるのだ。
 
 だからおばあさんは、その犬が吠えていることを知る由もない。
だんなさんは、もう20年も前に亡くなった。とてもやさしい人だったという。

 道路脇の松の古木はあまりにも大きかった。
ある夏の日、毛虫が大量発生して、松の木を切らざるを得なくなった。
大工の棟梁がチェーンソーを構えたが、道路にはみ出している大木をどう切って良いものやら思案に暮れたという。
 通りがかっただんなさんは土建業だった。無言のうちに、クレーン車を持ってきて、松の木を吊り支えたという。

 見事、松の木は天寿を全うした。
見守る隣人たちの感謝の言葉に、会釈することもなく、無言のクレーンはだんなさんを乗せて帰って行ったと。

 このご夫婦には美人の姉妹がいた。妹の方が同級生だった。
まだ、家の裏が海だったころ、幼稚園のころ、よく堤防で遊んだ。
「わたしもちんちんあるよ」
と見せてくれた。

 このあたりは、今でも海風のせいで、何でもすぐに錆びる。トタン葺きの壁、置き去りの自転車、廃屋になった鉄工所。

 駄犬のくせに思い出させやがってちくしょうめ。