ビリヤードキューのバットとシャ
フトの連結には様々なネジが
使われている。
古くはすべてが5/16-18山だった。
それはそれがインチネジの60°角
のユニファイネジのアメリカ
での一般的な普及品だったからだ。
だが、5/16-14山という特殊ネジ
がジョイントねじとして登場して
から以降、いろいろなネジがビリ
ヤードキューに使用されるよう
になった。
あくまで私見だが、それらは他者
との差別化の為に導入されたのが
第一目的かと思う。台形ネジなど
はまさにそうだ。自分の所の製品
を他では連結して使えないように
するための。ネジにまで自己
刻印を施すのもその現れだろう。
そして、そのうちネジそのものが
種類により優れた打感や連結強度
を持つかのように販売宣伝される
ようになり、主として日本のマス
プロメーカーにより特殊なネジと
連結方法のキューが売り出された。
ビリヤードキュー程度の外力の
作用度において、ネジの種類に
よる結合性の良否は果たして発
生するのか。ネジの密着度数は
規定許容数値の上下の規定径の
精度によるのが工業界の常識だ
が、それを覆す物理的なものが、
果たしてビリヤードキューに
使用のネジで発生するのか。
誰も科学的に証明した人はいない。
だが、自己のオリジナルネジこそ
が最高とマスプロ各社やカスタム
ビルダーは謳う。
ビリヤードキューにおいて、打感
や一体感、振動特性の違いはネジ
種類によるものではなく、連
結の方式による影響のほうが強い
と思われる。極言すればネジは何
を使おうが同じだ。オスメス両木
ねじ以外。
そして、私自身の最大の疑問があ
る。
撞いてみて、「これは何という
ネジ」と私は特定できない。全く。
できる人が世の中にいるのだろう
か。
出来上がって研ぎ上げた日本刀を
見て「これは四方詰めで作られた」
と特定できる人は存在しないよう
に、ネジ特定は無理なのでは。
(刀は研ぎ減ると本三枚系のみは
それとなく推定はできますが、
それとて割鋼かどうかの類別断定
は切断してエッジングして顕微鏡
観察しないと特定はできません)
ビリヤードキューのジョイントの
ネジの種類の多さは、他者との
区別のみが実態効力としてあり、
工業的な、つまり力学的な作用は
ビリヤードキュー程度の衝撃物
では生じていないのでは、という
のが私の推測です。
明確な差異が存在するならば、
鋼材硬度のブリネルやロックウェ
ルやヴィッカースのような科学的
な試験で証明する何らかの方法を
キューの世界でも示して優位性を
強調するのでは、と思われる。
しかし、誰もそれはやらずに、
自社採用のネジは高度な優秀性を
持つと主張している。
何か違うように思えるのである。
私が5/16-18山にこだわるのは、
TADがそうであり、ジナがそうで
あるからで、かつてのアメリカの
スタンダードのネジだったから
だ。
日本のメートル法のネジでも
標準ピッチが存在するように。
いわゆる、標準品のど真ん中。
それを頑なに使用し続けるTADと
ジナとメウチには私は敬意を持つ。
流されていない、と。
多くのジョイントネジの種類を見
ていると、「他者との差別化」
がメインの目的だな、という
実相が浮かび上がって見えて
来る。
そして、ネジ本体でキューの性能
差は実は無いに等しい、という
事も。(木ねじは除く)
私は5/16-18山が好きなのである。
これは、歴史性云々を抜きにして、
完全なる個人的な好みとして。
一番締め込むのに回転数を要する
のが5/16-18山だ。
クイックリリースではない。真逆。
だが、それが良い。
手間のかかる和服の着物の帯を締
めるのが、もしマジックテープで
ちょちょいのチョイだったら、
それはあまりに味気ない、と
思えるように。
墨汁は便利だが、やはり毛筆の書
は墨を磨って書きたい、というよ
うな感覚に近い。
5/16-18山はお手軽ポンではない
ところが今の時代において貴重だ。
また、キューの世界ではかつては
全部18山だったのに、21世紀の
現代では18山は圧倒的少数派に
なった。
だからこそ良い。古式墨守で。
硯で磨る墨を守る。温故知新。
5/16-18山は、その空気を持って
いるように感じる。