【77作品+山中麻須美「奇跡の一本松」特別出展】
最古の歌集「万葉集」には約4500首のうち3分の1に当たる約1500首に植物が詠み込まれている。その種類は海藻類を含めると160種。それらのほぼ半数の77種を描いた〝ボタニカルアート〟の展示会が3月26日~5月18日、平城宮跡歴史公園(奈良市)の平城宮いざない館で開かれた。題して「万葉植物画展~アートと万葉歌の出逢い」。77作品に加え英国キュー王立植物園の専属ボタニカルアーティスト山中麻須美さんが描いた「奇跡の一本松」も特別出展されていた。同展は今後、長野や東京など各地を巡回する。
作品制作の中心となったのは「日本植物画倶楽部」の会員たち。同倶楽部は植物画の愛好者が集まり1991年に発足した。これまでに『日本の帰化植物図譜』や『日本の固有植物図譜』なども刊行している。会員が描いた万葉植物画はフジ、ハス、ネムノキ、ヒメユリ、オミナエシ、サネカズラなど75点。これにキュー植物園の主席画家クリスタベル・キングさんに描いてもらったカラタチと山中麻須美さんが描いたカツラの2点を加えて展示した。
それぞれの作品の下にはその植物が登場する万葉歌と解説文。例えばヤブツバキには「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を」(坂門人足)、アシビには「磯の上に生ふるあしびを手折らめど見すべき君がありといはなくに」(大伯皇女)の歌が添えられていた。いずれの作品もリアルで細密な描写は目を瞠るばかり。中でもキュー植物園の2人の作品はさすが一級のプロ、としばし見入ってしまった。主席画家のキングさんは世界で最も権威のある植物画雑誌『カーティス・ボタニカル・マガジン』(1787年創刊)に40年以上執筆を続けているそうだ。
山中さんは2007年に日本人として初めてキュー植物園の公認画家となった。19年には英国王立園芸協会主催の植物画コンクールで審査員も務めている。いつだったか、山中さんの活躍ぶりを紹介するテレビ番組を見たことがあった。「奇跡の1本松」は2人の万葉植物画の左側に展示されていた。東日本大震災の復興のシンボルとなっていたこの1本松を描いたのは6年前の2016年3月。その後、キュー植物園から「高田松原津波復興祈念公園」内の国営追悼・祈念施設に寄贈された。今回はそれを借りての特別展示。無数の松葉の一つひとつに山中さんの思いが込められているのを感じながら、顔を近づけては離れを繰り返しながら何度も拝見させていただいた。