【奈良市人権市民講演会「人間らしく生きることのできる社会の実現のために」】
奈良市人権市民講演会「日本の未来を考えるつどい―困窮した若者を救う」が27日、中部公民館で行われた。講師は反貧困ネットワーク事務局長でNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事の湯浅誠さんで、演題は「人間らしく生きることのできる社会の実現のために」。会場には約300人が詰め掛け、これまでの活動を踏まえた説得力のある講演に聴き入った。
湯浅さんは1969年生まれ。90年代からホームレス支援に携わり、2008~09年の「年越し派遣村」では村長を務めた。09年から通算2年間、内閣府参与。著書に第8回大仏次郎論壇賞を受賞した「反貧困」や「どんとこい!貧困」、最新刊に「ヒーローを待っていても世界は変わらない」がある。
湯浅さんはまず急カーブを描いて上昇を続ける未婚率を紹介した。30代前半の男性の未婚率は2005年時点で47%(1975年11%)とほぼ2人に1人、女性は32%(同8%)と3人に1人に上る。なぜか。非正規雇用の増加などで、女性が結婚相手に求める経済力と実際の男性の年収に開きが出ていることが大きい。仮に本人同士が納得しても、男性の収入が不安定な場合、女性側の家族の理解を得にくいという事情もある。
未婚率の上昇に伴って少子化と未婚者の高齢化が進む。50歳の男性未婚者は昭和20年代には100人に1人、同40年代には100人に2人程度だったが、今では5人に1人(女性は10人に1人)に上るという。それに伴って親と同居する40~50代の未婚者は250万人に達し、その7割を男性が占める。「収入がなければ親の年金が頼り。慣れない親の介護でストレスもたまる」。その結果、自殺や介護虐待、年金詐欺なども増える。
湯浅さんはこれまで家族は「正社員(の夫)」、正社員は「企業」、企業は「国」という3つの傘に守られてきたと指摘する。「母子家庭や日雇い労働者は元々その傘の外に置かれていたが、バブル崩壊以降の失われた20年に、3つの傘がしぼみ雨に濡れる人が増えてきた」。しかも傘の内と外は「断崖絶壁」。一度落ちたら這い上がれないため、傘の中の人もストレスにさらされ無理する。その結果、職場うつなども増える。
現状を打開するにはどうすればいいか。湯浅さんは「絶壁ではなく階段にすべきだ」と主張する。「老若男女がそれぞれの状態に合わせて活躍できるステージが用意され、活動をきちんと評価してくれる社会。そうなれば世の中も活性化する」。年間3万人の自殺は「1.9兆円の経済的損失」という厚生労働省の試算があるそうだ。「人々の生命と暮らしを支えることは社会的にも大きな利益につながる」。昨年の自殺者は15年ぶりに3万人を下回った。