【和名「カガリビバナ」、芳香を放つ品種も】
サクラソウ科で、原産地は地中海東北部から中近東にかけての地域。シクラメンの名前は学名の「Cyclamen」から。ギリシャ語で渦巻きやサイクルを意味する「Cyklos(キクロス)」から来ているという。花が咲き終わり結実すると花茎がくるくると丸まることに由来する。16世紀終わりごろヨーロッパに渡り、その後、ドイツなどで野生種の1種「シクラメン・ペルシカム」から多くの栽培品種が生まれた。
日本には100年ほど前の明治時代に入ってきた。今では花色も赤、白、ピンク、紫、黄色と多彩だが、もともとは赤花が中心。植物学者の牧野富太郎はその燃えるような花びらから「カガリビバナ(篝火花)」と名付けた。英名の「sow bread(雌豚のパン)」の和訳から「ブタノマンジュウ(豚の饅頭)」の異名もある。球根を野生の豚が好んで食べたことによるらしいが、この和名が使われることはあまりない。
シクラメンを歌ったものとして有名なのが布施明の「シクラメンのかほり」(小椋桂作詞・作曲)。1975年のヒット曲だが、実際にいい香りを放つ〝芳香シクラメン〟が誕生したのはそれから21年後。それまでシクラメンにはほとんど香りがないか、あっても乾燥した木材のような匂いだった。開発したのは埼玉県の園芸研究所。バイオ技術を使って園芸種と芳香を持つ野生種を交配してオリジナル品種の育成に成功した。「バラとヒヤシンスを合わせたような香り」といい、2008年には3品種のうち「麗しの香り」と「孤高の香り」の2つが品種登録された。
国内での年間出荷量は約2040万鉢(2011年度の農林水産統計)で、鉢物全体の8%を占める。出荷量が最も多いのは長野県で、次いで愛知、茨城、栃木と続く。買い求める際には花が葉の数にほぼ比例するため、葉の枚数の多いものを選ぶといいそうだ。自家用のほかクリスマスや正月の贈答用としての人気も高く、冬の花としてのイメージが強いが、俳句では春の季語になっている。「シクラメン風吹き過ぎる街の角」(飯田龍太)。