【「旧山口氏南都別邸庭園」を復元整備】
奈良県が奈良市高畑町裁判所跡地に整備を進めてきた「瑜伽山(ゆうがやま)園地(旧山口氏南都別邸庭園)」がこのほど開園した。奈良公園といえば、シカがあちこちで遊ぶ春日野園地や飛火野園地など広大な芝生公園を連想するが、この新しい園地は巨石を使った滝や池、古い石灯籠や十三重の石塔などを随所に配置した回遊式の和風庭園。東側半分は無数の孟宗竹が林立する竹林になっており、周囲も屋根付きの築地塀で囲まれ、これまでの開放的な園地とは趣を異にする。
場所は浮見堂で有名な鷺池のすぐ南側一帯。ここには大阪で銀行を経営していた実業家で〝山口財閥〟の当主、4代目山口吉郎兵衛(1883~1951)の別荘があった。戦後は国有地になり1995年までは奈良家庭裁判所分室・官舎として使われていたが、2005年に奈良県が買い取って活用方法を検討していた。その後、発掘調査の結果、庭園遺構としての価値が高いと分かったことから、16年から約6億円を投じ復元整備に取り組んでいた。
山口氏は陶磁器など古美術品の収集家として知られ、同時に茶道家として「滴翠」という雅号も持っていた。別荘内には庭園の一角に茶室も設けられていた。〝高畑サロン〟と呼ばれた小説家志賀直哉の旧居が近くにあり、別荘には志賀直哉や武者小路実篤ら文化人もしばしば訪れたという。兵庫県芦屋市にあった洋館の邸宅は山口氏の没後、コレクションを一般公開するため改装されて「滴翠美術館」になっている。
瑜伽山園地の全体面積は約1.3ヘクタール。このうち約0.75ヘクタールの庭園部分が一足早く開園した。小高い瑜伽山の自然の高低さを生かした庭園で、高さ2mを超える巨石を立てた滝から水が流れ落ち、石組みの水路を伝って横に長い池に流れ込む。池には平たい石橋と新しい木製の反橋。歴史を感じさせる古い灯籠の中には火袋の側面などにシカを彫ったものもあった。池の東側から竹林に沿って石畳の園路が緩やかに上る。天を衝くほど高い孟宗竹が風に揺れる光景は実に圧巻だった。
新園地内では県の公募に応じた民間事業者が建設・運営する交流・飲食施設と高級宿泊施設もほぼ完成、6月5日のオープンに向け開業準備に追われていた。宿泊施設「ふふ奈良」は建築家隈研吾氏のデザイン。客室は5タイプ全30室で、宿泊料金はネットによると1泊2人で6万2000円~18万円(税別)。この施設を巡っては近隣住民が都市公園法に違反するとして、県を相手取り宿泊施設設置許可の取り消しを求め提訴していた。同法施行令は都市公園内の宿泊施設について「特に必要があると認められる場合のほかこれを設けてはならない」と制限している。ただ奈良地方裁判所は今年3月この請求を棄却した。