【パラカス~ナスカ、インカの多彩な土器⋅木器を一堂に】
世界の民俗資料と考古美術の博物館「天理大学付属天理参考館」(奈良県天理市)で企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編」が始まった。3年前に開催した「ペルー北部地域編」の続編。ペルー南部からボリビアにかけて栄えた古代アンデス地域の土器や木器を、紀元前のパラカス文化からナスカ、インカ文化まで時代を追って紹介している。6月3日まで。
パラカス文化は紀元前800年から紀元後100年頃にかけてペルー南海岸北部で栄えた。神や動物などを組み合わせた複雑なモチーフの織物が作られ、土器には幾何学文様や信仰の対象だったネコ科動物が多く描かれた。下の写真はパラカス前期の幾何学文皿。
巨大な地上絵で知られるナスカ文化が栄えたのは紀元後100年頃から650年頃にかけて。土器のモチーフには陸上動物や魚類、海獣、栽培作物などが選ばれ、最盛期には10~12種もの顔料が使い分けられたという。
写真㊤はナスカ前期の鳥が描かれた橋形把手付き双注口壷。鳥は猛禽類のオナガハヤブサと推定されている。写真㊦はナスカ後期の深鉢。胴の上部に海の最強の生き物シャチが擬人化されて大きく口を開き、中央と下部に女性の顔が描かれている。
ボリビア~ペルー南部の高地では紀元後500年頃から1150年頃までティワナク文化が栄えた。一方、ペルー中央海岸北部では1000年頃から1470年頃にかけ、独自のチャンカイ文化が花開いた。チャンカイの土器は白い化粧土の上に黒色顔料で幾何学文様や動物⋅人物などを描いたのが特徴。写真は双耳壷。左側の把手基部にサルとみられる塑像が取り付けられている。
15世紀半ばから16世紀前半にかけ勢力を拡大しアンデス一帯を支配下に治めたのがインカ帝国。広大な領域内はインカ道と呼ばれる道路網で結ばれ、様々な産物が運ばれた。インカの土器を代表するのが把手付きの皿。写真の皿には幾何学文様の両側にフクシアとみられる花の蜜を吸う鳥が描かれている。
この企画展では真作の土器や木器に加え、「再生産、消費される古代文化」コーナーに贋作も展示。贋作の多くは当初、盗掘などで破損した部分を補修して完成品に見せかけていたが、1950年代以降はナスカ土器を中心に贋作が堂々と作り続けられているという。写真はいずれも贋作または部分的贋作と推定される壷。
企画展会場では山形大学のナスカ研究所と付属博物館の協力で、ナスカの地上絵に関するパネルも展示中。山形大学が地上絵の分布調査を始めたのは20年前の2004年。12年には現地に研究所を設立し、これまでに新たに多くの地上絵を発見してきた。(MBS 毎日放送の番組案内によると、4月21日午後6時放送の世界遺産「空から迫る『ナスカ地上絵の秘密』」で山形大学新発見の地上絵も登場)
地上絵があるのはペルーの南海岸から約50㎞内陸の砂漠台地(標高約500m)。砂礫層を掘ったり積んだりして様々な動植物などが描かれ、ユネスコの世界文化遺産になっている。その制作目的は? パネルによると、豊作を祈願するためという説が有力とのこと。長く残っているのは①極乾燥地で植物が生えない②風で礫(小石)が移動しない③流水の影響のない場所に描かれたーーなどによるそうだ。