【「世界平和」テーマのかかしは58点が参加】
奈良県明日香村の稲渕(いなぶち)地区は農村の原風景といわれる棚田で有名。「日本棚田百選」にも選ばれている。その稲渕で9月24、25の両日「彼岸花祭り」「案山子コンテスト」が開催中。案山子(かかし)コンテストは今回で27回目。ただ彼岸花祭りは新型コロナ禍で2年連続中止だったため、同時開催は3年ぶり。24日には多くの見物客が黄金色に染まる稲穂と見頃を迎えた彼岸花に加え、“案山子ロード”に飾られたかかしを見ながら秋晴れのひと時を楽しんでいた。
案山子コンテストは毎年テーマを決めて作品を募っている。以前かかし見物で訪れたのは8年前の2014年。その年のテーマは「童謡⋅唱歌⋅わらべ歌のものがたり」だった。今年のテーマは「世界平和」で58点が寄せられた。近鉄飛鳥駅前から無料シャトルバスで午前9時半ごろ稲渕へ。早速、棚田を巡る案山子ロードに向かった。最初に目を引いたのが真っ赤な彼岸花の間に展示された『世界平和なら任せろ! 野原一家ファイアー!!』というタイトルのかかし。世界平和→家族団欒→クレヨンしんちゃん……という発想で、野原一家の平和な家庭を表現したという。製作者は「万葉クリニックデイケア」。
先に進むと『トットちゃん』と題したかかしがあった。黒柳徹子さんを模した作品で、「平和活動をするたまねぎおばさん」という説明が添えられていた。それにしてもよく似ている。頭髪の形だけでなく、服装や目元・口元も。つい、しばし見入ってしまった。
その先に立っていたのはジャンボかかし『お地蔵さま』。これは主催者NPO法人明日香の未来を創る会が「世界平和への祈りを込めて建立した」。『まもるくん』というかかしは小学3年生の男児が中心になって作った。鳩を描いたまもるくんの平和の「かさ」の下に世界各国の国旗が吊り下げられ、中央に一回り大きいウクライナとロシアの国旗が飾られていた。
案山子ロードの脇では薄紫色のフジバカマが咲き誇り、オレンジ色の蝶が舞っていた。ツマグロヒョウモンか。 フジバカマは長距離を移動する“渡り蝶”として有名なアサギマダラが好む野草としても知られる。もうしばらくすると、秋に南下するアサギマダラの姿がここでも見られるかもしれない。
次に目に留まったかかしは『明日香の里の片隅で世界平和を祈る』。製作者は「大西啓運・久子」で、作品紹介欄には「竹とわらをベースに先祖が残してくれた布を使った一体のお地蔵様と六地蔵様です。お地蔵様に世界平和の祈りと、世界中で苦しむ子供達の命と健康をお祈りする為に作品作りに取り組みました」と書かれていた。
『世界の子供達と手をつなごう』の製作者は軽費老人ホーム明日香楽園。「あすか丸」という一つの船に世界各国の子どもたちが楽しそうに一緒に乗っている場面を表現している。
案山子ロードも終点の高台「稲渕朝日峠広場」に近づいてきた。見下ろすと、棚田が緩やかに弧を描き、黄金色の稲穂の間で赤い彼岸花が咲いていた。土手にも白や黄色の花々。黄花は彼岸花の仲間のショウキズイセンだ。花びらの縁が波打つ様子を、鐘馗さまのひげにたとえて名付けられた。白いシロバナヒガンバナは一般的な赤い彼岸花とショウキズイセンの自然交雑種といわれる。高台に張られたテントでは明日香産農産品の販売などが行われていた。
高台の一角に『世界一小さな合唱団』と題したかかしがあった。製作者は「日暮雅夫・美智代」。「まん中で歌うのはウクライナの少女。そのまわりには世界の国・地域の子どもたち……どこの子どもたちにも明るい未来が訪れますように」との言葉が添えられていた。
ロシアが隣国ウクライナに侵攻して約7カ月。それだけに「世界平和」をテーマにした案山子コンテストに寄せられた作品は、いずれも戦争のない平和な社会への祈りと願いが込められた力作ばかりだった。優秀作は来場者の投票によって決まる。私もここで取り上げた作品の中から2点に投票した。結果の発表と表彰式は25日午後2時頃に行われる予定だ。