【27歳最後の日に奈良県橿原文化会館で】
若手バイオリニスト、松田理奈のバイオリンリサイタルが29日、奈良県橿原文化会館で開かれた。前半はブラームスのバイオリンソナタなど2曲、後半はクライスラー、サラサーテなど名バイオリニストとしても活躍した作曲家の作品で固めた構成。翌30日が28歳の誕生日とあって、アンコールの合間にピアノ伴奏に合わせ会場から「パッピバースデーツゥーユー」の歌が湧き上がるなど、温かいリサイタルとなった。
松田理奈
松田は東京芸大付属音楽高校卒業後、桐朋学園大ソリスト・ディプロマコースを経てドイツ・ニュルンベルク音大に留学。2007年に同大学、10年に同大学院をいずれも首席で卒業。その間の04年の日本音楽コンクールで第1位に輝き、さらに07年のサラサーテ国際コンクールに入賞と、実力は折り紙つき。今年1月には第23回新日鉄住金音楽賞も受賞している。
リサイタル前半はフランスの作曲家ルクレールとブラームスの各バイオリンソナタ第3番。ブラームスの第3番では第1、第2楽章の消え入る最後の繊細な響きが美しい。第3楽章の歯切れのいいピチカート、第4楽章の力強い演奏も印象的だった。ピアノ伴奏の江口玲(あきら)=東京芸大ピアノ科准教授=のバイオリンを引き立てる抑制の利いた演奏も光った。
後半は発表会などでもよく耳にするクライスラーの作品から始まった。「ブニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」に次いで「ロンドンデリーの歌」「美しきロスマリン」「シンコペーション」。緩急のメリハリが利いた演奏に加え、松田の豊かな表情にも引き付けられた。バイオリニストとしては珍しくリサイタルの時にはいつも素足という。この日も華やかなドレス姿に素足というスタイルだった。
クライスラーの5曲目「プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット」の後は、ブラームスの原曲を基にハイフェッツが作曲した「コンテンプレーション」。〝瞑想〟を意味するとあって優しい音色に癒やされた。結びはサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」。松田の技術の高さを改めて証明する名演奏で、滑らかな指使いや終盤のピチカートも聴きごたえがあった。
アンコールはラフマニノフの「ヴォカリーズ」とマスネの「タイスの瞑想曲」。いずれも1つ1つの音に神経が行き届いた抒情性にあふれた演奏。自身も「リハーサルの時より本番のほうがよく響いていると感じながら演奏できた」と満足げな様子だった。演奏が終わるたびに、会場の拍手に笑顔で応える姿にも好感が持てた。