【相国寺承天閣美術館、前期12月15日まで】
江戸中期を代表する絵師・円山応挙(1733~95)。「円山四条派」の祖として〝応門十哲〟をはじめ多くの門弟を育て、その流れは今の京都画壇にもつながる。相国寺承天閣美術館(京都市)で開催中の「開館30周年記念 円山応挙展」には、最高傑作といわれる「七難七福図巻」や気品に満ちた「牡丹孔雀図」などの代表作のほか、高弟で「四条派」を興した呉春(1752~1811)や長沢芦雪(1754~99)の作品も出品されている。
「七難七福図巻」(重文)は福寿巻、人災巻、天災巻からなり、3巻合わせると全長が約36mに達する超大作。近江・円満院の祐常門主から「従来の仏説で説かれる地獄・極楽はあくまでも想像の世界。見る者によりリアルな現実感を与えたい」と依頼されて制作した。30代半ばに知遇を得た祐常は応挙にとって豪商の三井家とともに大切なパトロン。応挙は渾身の力を注ぎ3年の歳月をかけて36歳の時に完成させた。
福寿巻には花見や舟遊び、還暦の宴などが描かれ人々の表情も柔和だが、人災巻になると一変する。描かれているのは強盗や切腹、一家心中、水責め、のこぎり引きの刑、牛引きの刑など血生臭い場面ばかり。生々しい描写に、見ていた女性の1人は「恐ろしい」と目をそむけていた。天災巻にも地震、大火(上の写真)、台風、大雨による堤の決壊などの場面がリアルに描かれている。会場には祐常が自ら描いて応挙が参考にしたという「七難七福図下絵」も展示されている。
「牡丹孔雀図」(重文、上の写真=部分)はつがいのクジャクとボタンの花を描いたもので、39歳の時の作品。雄のクジャクが乗っている岩は中国で〝太湖石〟と呼ばれて珍重された銘石という。動植物の「写生図」や「写生帖」も目を引く。その精密な描写はまるで鳥類や植物の図鑑。写生を重視し懐にいつも写生帖をしのばせていたという応挙の真骨頂がそこにあった。高さ3.6mもある「大瀑布図」や応挙には珍しい仏画「釈迦十六善神像」、「浜松群鶴図屏風」なども出品されている。
門弟の作品は呉春2点と芦雪3点の計5点。呉春の「竹図屏風」は霧に煙る竹林を描いた幽玄・静謐な作品。呉春は与謝蕪村に絵と俳諧を学んだが、この絵は蕪村亡き後、応挙の門下に入ってから描いたもの。芦雪の「獅子図屏風」は2匹の獅子が激しくにらみ合い、まさに飛びかかろうとする一瞬をとらえた作品。応挙とは作風を異にするが、芦雪の大胆な構図には豪放な魅力があふれている。
同展は12月15日に前期が終了し、同21日から後期が始まる(来年3月23日まで)。後期には美術館初公開という応挙・応瑞親子の大作「相国寺開山堂襖絵」20面や円満院旧障壁画「山渓樵蘇図」5面などが出品される。