【「美術・解体新書」展、後期展示作を集中鑑賞】
奈良県立美術館で開催中の企画展「美術・解体新書」の会期(~8/28)も残すところ約10日となった。所蔵品の中から選りすぐりの名品約150点を展示中だが、一部作品は前後期で展示替えが行われた。今回約1カ月ぶりに再訪したのも後期展示作品に絞って鑑賞するため。その中には縁起のいい画題の浮世絵が多く含まれていた。
この企画展の見どころの一つが、会場入り口正面に週替わりで飾られる“今週のお宝”。これまでに伝雪舟筆『秋冬山水図屏風』、曽我蕭白の『美人図』などが展示されてきたが、第5週目のいま展示中の作品は『富嶽三十六景』などで知られる江戸後期の浮世絵師、葛飾北斎の『瑞亀図』。泉から亀が現れたのを長命のしるしと白髪の老夫婦が喜んで亀に酒を飲ませる光景がユーモラスに描かれている。画面に「北斎宗理画」と記されていることから、宗理(そうり)の号を用いた北斎30代後半の作品とみられる。
北斎より少し年長で「美人大首絵」で人気を博した喜多川歌麿の作品は、初夢に見ると縁起がいいといわれる『一富士二鷹三茄子』を展示中。富士と松原を背景に船上の男女と鷹を手に乗せた若者、ナスが入った籠を持つ少年が描かれている。江戸中期の浮世絵師、磯田湖龍斎の『七福神乗宝船』は横約12cm、縦約69cmの縦長の柱絵。七福神信仰は室町時代から広まり、江戸時代になると木版印刷の七福神図が多く制作された。江戸後期の窪俊満の『初鰹図』(写真㊦、部分)は青光りするカツオ一尾の周りに、蜀山人(大田南畝)らが狂歌を書き添えている。
明治時代に活躍した小林清親(1847~1915)は江戸の名所や事件、出来事を多く描き残した。『浜町より写両国大火』は1881年1月に東京の下町を焼き尽くした両国の大火を描いたもの。小林は“最後の浮世絵師”といわれ、光と影を効果的に用いた技法は「光線画」として人気を集めた。後期展示作品の中には東洲斎写楽『市川男女蔵の奴一平』や江戸初期に描かれた美人画『伝吉野太夫画像』なども。館を後にする前、上村松園の『春宵』と竹内栖鳳の六曲屏風『保津川図』=いずれも通期展示作品=をもう一度じっくり観させてもらった。