【三浦雅之さん「大和伝統野菜は気候風土に適し、おいしく作りやすい」】
近畿大学農学部(奈良市)の「里山学連続講座」2015年度第1回公開講座が17日「里山を食べる」を総合テーマに開かれた。同講座は今年で10年目、通算では47回目の講座。NPO法人「清澄(きよすみ)の里」代表の三浦雅之さんが「大和伝統野菜を守る、食する~プロジェクト粟のとりくみ」、農学部准教授の鶴田格さん(農学博士)が「昆虫食の世界」と題して講演した。
三浦さんは大和伝統野菜の保全・栽培・利用などを目的に、NPOと株式会社粟、集落営農組織の五ケ谷営農協議会という3つの組織で「プロジェクト粟」を展開中。栽培する野菜は奈良の地元野菜を中心に内外約120種類に上る。2002年に正暦寺近くに伝統野菜を食材とする農家レストラン「清澄の里 粟」を開業、09年には姉妹店「粟ならまち店」を開店した。さらに今月7日にはならまちセンター内に奈良市との官民共同事業として「coto coto(コトコト)」をオープン。展示スペースも備え、奈良の食材と地域情報の発信拠点として期待されている。(写真はレストラン「清澄の里 粟」と、のんびり草を食むレストランで飼っているヤギたち)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/ac/bf4406f1d2b665d5add142f8be333a22.jpg)
三浦さんは伝統野菜と伝統文化、生物の多様性には相関関係があると指摘する。「伝統野菜が残っている地域には祭りなどの伝統文化が残っており、昆虫など多くの生き物も生息している」。三浦さんが農家の方々になぜ伝統野菜づくりを続けてきたか問うたところ、異口同音に「おいしくて、つくりやすいから」という答えが返ってきたという。「作りやすいのは気候・風土に適しているということ。いずれの方たちももうかるからではなく、家族や近隣の人が食べて喜ぶかどうかを基準に野菜を作ってきた」。
地域の足元を見直し、歴史的・文化的なものを大切にしていこうという動きが〝地元学〟として注目されている。その中で重視されるのが「七つの風」。風土・風味・風景・風物・風習・風俗(ふぞく)・風情。三浦さんは伝統野菜の中にこそ、この七つの風がバランス良く取り入れられていると考える。「(日用品の中に〝用の美〟があると)柳宗悦が提唱した民芸運動の役割を、これからは伝統野菜が果たすのではないか。伝統野菜にはその力があると期待している」。
昆虫食について講演した鶴田さんはまず「動物の中で圧倒的な種数を誇る昆虫は地上最大の未利用生物資源。栄養価から見ても昆虫は他の食料と同等か、より優れている」と指摘した。国連のFAO(食糧農業機関)も2013年の報告書で、動物性タンパク質の生産コストの上昇、食料安全保障、環境負担軽減などから、従来の家畜や飼料源の代替物として昆虫食の可能性を評価しているそうだ。
昆虫食は現在でも世界各地で重要な食料の一部になっており、とりわけ東南アジアは昆虫食が盛んな地域として知られる。「日本でもかつては昆虫食が盛んで、里山の暮らしの一部だった」。約100年前の1919年の全国調査によると、ハチやガ、バッタ、甲虫類など計55種が日常的に食されており、何らかの虫を食していると回答した府県は41に達した。第二次大戦前後、イナゴはカルシウムに富む栄養価の高い食物として学校給食にも取り入れられていたという。
今もイナゴやハチの子、カイコの蛹の佃煮や甘露煮などが長野県などではごく普通に販売されている。鶴田さんは「昆虫食は他の食料が入手できないという貧しさからではなく、それがおいしく好きだから食べられてきた。それぞれの地域の食文化として根付いているもので、昆虫食を気持ち悪いと思うのは文化的な偏見。(日本人の好物の)タコを〝デビル(悪魔の)フィッシュ〟として食べない国もある」などと話した。