【「コウノトリ野生復帰と連動した円山川下流部の自然再生」テーマに】
近畿大学農学部(奈良市)で10日、一般公開の里山学連続講座が開かれた。環境管理学科里山専門委員会の主催で、10年前から毎年5回開催。通算51回目に当たる今回は兵庫県豊岡市のNPO法人「コウノトリ湿地ネット」代表の佐竹節夫さんと、養父市森林組合業務統括課長の西垣司さんの2人を講師に迎えた。(写真はいずれも昨年9月、豊岡市の県立コウノトリの郷公園で)
わが国のコウノトリは生息環境の悪化で激減し、野生のものは1971年に絶滅した。しかし、兵庫県立コウノトリの郷公園(豊岡市)をはじめ行政、研究者、地元農家などが一体となった野生復帰の取り組みが実を結び、2005年秋に秋篠宮さまをお迎えして5羽を初放鳥、以来着実に増えてきた。昨年12月現在、野外で暮らすコウノトリは78羽、飼育中のコウノトリは96羽に上る。
講師の佐竹さんは近畿大学卒業後、豊岡市役所に入庁し、コウノトリ共生課の課長として郷公園の整備や野生復帰運動を主導してきた。現在はNPOで餌場になる湿地の保全・再生、人と自然が共生する仕組みづくりなどに取り組む。この日は「コウノトリの野生復帰と連動した円山川下流部の自然再生」をテーマに、これまでの歩みや今後の課題などについて講演した。
コウノトリは大食漢の肉食。魚のほかカエルやネズミ、ヘビなど目の前で動くものなら何でも丸飲みするという。生後1カ月のヒナでさえ、1日に1キロ以上欲しがるそうだ。そのため「大きな生態系(食物連鎖)のピラミッドが機能していないと暮らしていけない」。くちばしの長さから水深が浅くて緩やかな流れの明るい水辺環境が欠かせない。水深は15cm以下が好ましいという。
「コウノトリがすめる環境は人間にとっても豊かな環境」。共生社会づくりはこうしたイメージの共有から始まった。各界各層から成る野生復帰推進連絡協議会が採った手法は成功事例を1つずつ積み上げネットワーク化していく〝見試し〟。現状調査→仮説を立てる→試行→モニタリング→修正と進む。農家は田植え後の中干しをオタマジャクシがカエルになるまで控え、2~3月に産卵するアカガエルのため冬の間も湛水した。コウノトリに優しい農法は拡大を続け、地元の学校給食にも〝コウノトリ育むお米〟が使われている。
円山川水系では10年前から自然再生計画に基づき、約8キロにわたって河川敷の掘り下げ・湿地化工事が行われた。国は2つめの大規模湿地を造成中という。各地の河川では多くの魚類が遡ることができるよう段差の解消工事も進む。佐竹さんは「(こうした取り組みの中で)川に多様な生き物が戻りつつある。いずれはぜひ(川遊びを楽しむ)川ガキも戻したい」と話す。
新聞報道によると、奈良市池田町の広大寺池で昨年11月から12月にかけて1羽のコウノトリが目撃された。このコウノトリ、足輪の番号から2013年春に京都府京丹後市で生まれたメスで、豊岡市内で放鳥されたコウノトリの孫に当たることが分かった。12月初め、早速確認しようと出かけたが、その時は残念ながら空振りだった。コウノトリが長居できる水辺環境が、豊岡周辺だけでなく全国各地に広がることを願うばかりだ。