760) 世界中で膵臓がんが増えている

図:日本における肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がんの年間死亡数(男女合計、全年齢)の年次推移(1958年から2019年)を示す。胃がんと肝臓がんは死亡数が減少している。一方、肺がん、大腸がん、膵臓がんは死亡数が急激に増加している。(出典:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」)

760) 世界中で膵臓がんが増えている

【がん細胞が発生して臨床がんに成長するまでに10年から30年くらいかかる】
がんの種類や個体によって様々ですが、1個のがん細胞が発生してから「がん(癌)」という病気(臨床がん)に至るのに10〜30年かかるといわれています。
腫瘍組織の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(doubling time)といいますが、一個の細胞からスタートして1グラムの腫瘍組織になるためには30回分の体積倍加時間が必要となる計算です。つまり30回分裂すると2の30乗で約10億個の細胞になり、これが約1グラムに相当し、1グラムのがん組織がさらにもう10回分の体積倍加時間を経ると約1kgのがん組織になる計算です(図)。

図:がんの発生初期にはがん細胞の塊は顕微鏡レベルであり、肉眼的に認められない(微小がん、潜在がん)。がんが臨床的に発見しうるレベルの大きさ(1g以上)に達したときには、がん発生過程の長い自然史においてすでに最終段階にあると言える。通常、1個のがん細胞の発生から臨床的にがんが見つかるまで、数年から十数年間かかっている。

がん細胞をフラスコの中で栄養のよい状態で培養するような実験では、がん細胞は数日、早いものでは1日で2倍になります。このような極めて栄養のよい特殊な条件下では、一個のがん細胞が1グラムにまで増えるのに一ヵ月から数ヵ月で済む計算になります。
しかし、体内でのがん組織の倍加時間は一般に極めて長いことがわかっています。
その原因として、がん組織の中では酸素や栄養の供給が不十分になりやすいこと、細胞分裂する一方で、がん細胞自らがアポトーシスを起こしたり、免疫細胞による攻撃を受けたりして消失することなどが挙げられています。
多くのがんの体積倍加時間は数十日から数百日のレベルにあることが報告されています。体積倍加時間はがんの種類や組織型によって異なり、10日前後で2倍になるような悪性度の高いがんがある一方、何年間もほとんど大きくならないおとなしいがんもあります。
一般的にがんが画像診断などで臨床的に診断ができるのは、がん細胞の塊が1グラム位になってからです。臓器によってはもっと早く見つかる場合もありますが、1グラムでも診断が困難ながんもあります。
最初のがん細胞が1個発生して、それが1グラムの腫瘍になるのに30回分の体積倍加時間が経過しています。体積倍加時間の平均が100日だと仮定すると、30回分の体積倍加時間は3000日(約8年)かかっています。
したがって、がんの発生から臨床的にがんが見つかるほどの大きさになるのに、通常は数年から十数年の月日を要することになります。
非常におとなしいがんの場合は、20年以上かかっている場合もあります。

【がんは遺伝子が変異して発生する】
がんが発生するには遺伝子変異を起こす原因が必要です。遺伝子変異を起こす原因としては、内因性(DNA複製時のエラー)外因性(喫煙や放射線などの発がん物質による遺伝子変異)の発がん因子のうちどちらの寄与が大きいかという点は議論があります。
毎日、体の200分の1の細胞がアポトーシスで死滅し、細胞分裂で新しい細胞が生まれています。細胞分裂する体内細胞が10兆個として、成人で1日に500億回以上のDNA複製が起こっていることになります。このDNA複製時のエラーによる遺伝子変異の寄与が大きいという意見があります。
一方で、喫煙が発がん率を顕著に高めることや、放射線被曝が発がん率を高めることや、加工肉が大腸がんの発生率を高めることなど、多くの疫学研究は発がんにおける外因性の発がん要因の重要性を指摘しています。
いずれにしても、様々な原因によって細胞の遺伝子に変異が蓄積してがん細胞を発生しています。(下図)

図:がん細胞は「組織幹細胞の遺伝子変異の蓄積」によって発生する。この遺伝子変異の発生において、内因性(DNA複製時のエラー)と外因性(喫煙や放射線などの発がん物質による遺伝子変異や親から受け継いだ遺伝的要因)の要因がある。

【がんの発生率は、食生活や生活習慣や生活環境によって大きな影響を受ける】

世の中には、がんの発生を促進する因子(発がん促進因子)と、がんの発生を抑制する因子(発がん抑制因子)があり、そのバランスによってがんの発生リスクが決まります。

発がん促進因子の代表は喫煙や飲酒や糖質や動物性脂肪の多い食事です。その他、放射線や紫外線やディーゼルエンジンやガソリンエンジンの排ガスなども発がんリスクを高めます。


世界保健機関(WHO)の付属組織で人間への発がんリスクの評価を専門に行っている国際がん研究機関(IARC)は、発がんリスクを5段階に分けて報告しています。

たばこ、紫外線、B型・C型肝炎ウイルス、放射線、アスベストなどは発がんリスクがある(Group 1)と分類されています。

ディーゼルエンジンの排ガスは発がんリスクの可能性が高い(Group 2A)、ガソリンエンジンの排ガスは発がんリスクの可能性がある(Group 2B)に分類されています。

2011年にIARCは携帯電話の電磁波が脳腫瘍の一種であるグリオーマや耳の神経の腫瘍のリスクを高める可能性がある(group 2B)と発表しています。
家電製品などから出る超低周波の電磁波も発がんの原因となる可能性がある(group 2B)と分類しています。

2007年には概日リズムを乱す交代制の仕事(shift-work)を、発がん作用の可能性が高い(group 2A)と分類して発表しています。夜勤の多い看護師や、国際線の乗務員のように概日リズムが慢性的に乱れやすい職業の人では、他の職業の人に比べて、乳がんや前立腺がんの発生率が高いことが報告されています。

放射線については、発がん作用があるのは確かですが、発がんリスクはその被曝量に比例します。累積被曝量が100ミリシーベルト以下では発がんのリスクは無視できるというのが一般的な意見ですが、それに反対する意見(低線量被曝でも発がんリスクに影響する)もあります。
 日本人の場合、CTなどの放射線検査による医療放射線被曝量(年間一人平均2~3ミリシーベルト)が自然被曝量(年間一人平均1.5ミリシーベルト)を超えていることが問題視され、医療放射線と自然放射線による年間一人平均3~4ミリシーベルトの放射線被曝が日本人に発生するがんの原因の3%程度を占めていると推測されています。3%というのは年間2万人のがん発生に相当します。(医療放射線被曝の問題については226話参照)

このような発がんリスクの原因をみると、社会の人為的な発がん原因が増加し、それによって人類のがんが増えているのではないかという推測ができます。


図:現代社会においてがんの発生が増えているのは、人為的な発がん要因が社会の近代化とともに増えているためである。タバコ、オゾン層破壊による紫外線増加、排気ガスによる大気汚染、環境や医療目的での放射能被爆、電磁波(携帯電話など)、飲酒(アルコール)、運動不足、高糖質高脂肪食、肥満、糖尿病、ストレス、交代制勤務、加工肉や食品添加物、薬品や発がん物質などの発がん促進要因は近代社会になって出現し、年々増加している。がんの発生を予防するためには、食生活や生活習慣や生活環境の中から発がん要因を避ける努力が最も大切で、さらに積極的にがん予防の対策(免疫力・抗酸化力・解毒力の増強など)を実践することが重要である。

がんは汚染や食事などの環境因子によって引き起こされる現代病で,ヒトによってつくり出された可能性が高い」とする研究結果が報告されています。
例えば、古い時代のミイラの遺体を検査した研究などで、古代においてはがんは極めてまれな疾患であったと推測されています。 がんの罹患率は産業革命以降、劇的に増加し、特に小児がんで顕著であったことから、がんの増加は単に寿命延長の影響ではないことが示唆されるとしています。
「古代の自然環境にはがんの要因になるものは存在せず,がんは環境汚染や食事・ライフスタイルの変化が原因の人為的疾患と考えざるをえない」という意見です。
日本においてがんが年々増えていますが、この数十年に関しては、人口の高齢化が一番の原因です。がんは加齢とともに発生率が増えてくるからです。
しかし、この数百年間のがんの発生率の増加をみると、高齢化よりも、近代工業化に伴って人為的な発がん要因が増えてきたことの方が重要のようです。
大気汚染や医療放射線被曝による発がんが増えています。交代制勤務による概日リズムの乱れや、ストレスの増大も発がんを促進するようです。アスベストや電磁波や食品添加物などここ数十年に出現した新たな発がん要因もあります。
近代化に伴って、生活は便利になり、寿命も伸びてきましたが、このような社会環境の変化ががんを増やす要因にもなっている点も注意する必要があります。
いずれにしろ、「がんの発生率は食生活や生活習慣や生活環境によって大きな影響を受ける」という事実を理解しておくことが大切です。これが、がんの予防が可能な根拠です。

【今後、増えるがんと減るがんがある】
前述のように、がんの発生は食事や生活習慣や生活環境に大きく影響を受けるため、今後増えるがんと減るがんがあります。
ある種のがんを発生する原因が減少すれば、20年くらいの時間を経て、そのがんの発生数や死亡数は減少してきます。
例えば、タバコ(喫煙)は肺がんの発生を増やします。米国では喫煙率は1970年ころをピークにしてそれ以降は減少しています。肺がんの発生数は1990年頃をピークに減少しています。タバコの消費量が減少して20年くらい経過してから肺がんの発生が減少しています。

図:米国ではタバコの消費量は1970年ころをピークにしてそれ以降は減少している。肺がんの発生数は1990年頃をピークに減少している。つまり、タバコの消費量が減少して20年くらい経過してから肺がんの発生も減少している。 

日本の場合は、以前から喫煙率は少しづつ減少していますが、米国に比べるとまだ喫煙率は高い状況が続いています。
JTの調査の推移をみると、日本での成人男性の喫煙率は1966年の83.7%をピークにほぼ一貫して減少を続け、2018年では27.8%となっており、成人女性も1966年の18.0%をピークに少しずつ減少を続け、2018年では8.7%となっています。
2000年頃から医師会やがん学会が喫煙の害を積極的に宣伝する様になり、禁煙外来ができたり、職場や飲食店での喫煙が規制される様になったので、そのうち日本でも肺がんの罹患や死亡が減少することが予想されています。(下図)

図:日本人男性の肺がん死亡は2020年代をピークに減少すると予測されている

肝臓がんによる死亡者数は1980年代から急激に増え始め、2000年前後にピークになり(年間死亡数約35,000人)、2019年では1年間に約25,000人(男性が16,750人、女性が8,514人)になっています。
肝臓がん患者が近年減少しているのは、1985 年度からの B 型肝炎母子感染防止事業や、1989年にC型肝炎ウイルス (HCV) の遺伝子が発見され、輸血用血液のHCVのスクリーニングの導入によって新規の肝炎ウイルス感染者が激減したためです。さらに、B型肝炎ワクチンや抗ウイルス薬の開発などによって肝臓がんの発生率が減少し、さらに肝臓がんの治療法が向上して死亡率が低下しています。

図:日本の肝臓がんによる死亡者数は2000年頃をピークにして、それ以降は急速に減少している。

胃がんは、かつては日本人のがん死亡の1位でしたが、現在は肺がんと大腸がんに次いで3位です。日本における2019年のがん死亡数(男女合計)は、肺がん(約75,000人)、大腸がん(約51,000人)、胃がん(約43,000人)、膵臓(約36,000人)、肝臓がん(約25,000人)の順です。
胃がんの発生数(年齢調整罹患率と発生数)は年々減少しています。年齢調整罹患率で比較すると、最近は1975年頃の半分くらいになっています。数年以内に、がん死亡において胃がんは膵臓がんに抜かれると予想できます。

図:胃がんの年齢調整罹患率は減少を続けており、最近の胃がんの年齢調整罹患率は1975年の半分くらいに減少している。

胃がんの罹患率と死亡率の急激な低下は良く知られています。罹患率の低下に関しては「冷蔵庫のおかげ」というのがコンセンサスになっています。
冷蔵庫は1960年代にテレビ・洗濯機と共に家庭内の三種の神器ともてはやされ、急激に普及率を伸ばし、1965年には冷蔵庫の普及率あ50%を超え、1975年頃には普及率は99%に達しています。
食料の貯蔵方法として塩蔵が主体であったものが、冷蔵庫の普及とハイウェイの整備によ り,大型トラック による冷凍生鮮食品の輸送体制が完成したことが、胃がんの罹患率の低下の大きな要因と考えられています。
胃がんは、塩分の高い食事やピロリ菌が原因に挙げられています。冷蔵庫が普及して、塩漬けする必要もなくなり、新鮮で清潔な食物を食べるようになって、胃がんの発生が減少したということです。

【膵臓がんの発生数と死亡数は人口の高齢化によって確実に増加する】
日本人の1年間のがん死亡数は2020年で約38万人です。男性が約22万人、女性が16万人です。全がんの罹患数は約101万人(男性が約58万人、女性が約43万人)です。
現在日本では膵臓がんで亡くなる人の数は年間36000人を超えています。2020年のデータで男性と女性はほぼ同じで約18,400人で、男女計で約36,700人です。全がんの死亡数の約10%が膵臓がんによるものです。
罹患数は2015年のデータで男女計で約37,500人です。年齢調整罹患率で比べると膵臓がんの罹患率は大腸がん、胃がん、肺がんについで4番目です。
膵臓がんの発生数は全がんの4%以下ですが、死亡数は全がんの10%を占めることは、膵臓がんの予後が悪いことを示唆しています。

図:日本における大腸がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がんの年齢調整罹患率の年次推移。胃がんと肝臓がんは減少しているが、大腸がん、肺がん、膵臓がんは増えている。

死亡数では、男性では肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんについで5番目に死亡数の多いがんです。女性では大腸がん、肺がんに次いで3番目です。男女計では、肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4番目です。ただし、数年後には胃がんを抜いて3位になるのは間違いない様です。(トップの図)

膵臓がんは男性に多いがんと一般に考えられています。膵臓がんのリスク要因は喫煙、飲酒、糖尿病、肥満などで、これらはいずれも女性より男性に多く見られるリスク要因です。
実際に人口10万人当たりの罹患率でみると、女性の膵臓がん罹患率は男性の3分の2くらいです。しかし、実際に膵臓がんになる人も死亡数も男女比は最近のデータでは1:0.93程度と大差はありません。その理由は、膵臓がんが高齢者に多いがんだからです。

膵臓がんの罹患率の男女差は高齢になるほど少なくなってきます。膵臓がんは60歳以上になると増えてきます。65歳以上で急速に増えます。日本の場合、平成29年9月15日の時点で65歳以上は3514万人で、男性は1525万人、女性は1988万人で、女性は男性の1.3倍の人口です。
つまり、膵臓がんの増える65歳以上の人口は女性の方が1.3倍も多いので、膵臓がんになるリスク要因(飲酒や喫煙など)が少なくても、高齢という要因によって、罹患数と死亡数はほとんど同じになるのです。
高齢になるほど女性の割合がさらに増えるので、将来的には膵臓がんの発生数と死亡数は女性が男性を超える可能性が高いと言えます

図:膵臓がんは加齢とともに発生数が増える。女性の膵臓がん罹患率は男性の3分の2くらいであるが、女性の方が高齢者が多いので、最近では膵臓がんの罹患数は男女がほぼ同数となっている。

【糖尿病は膵臓がんの発生率を増やす】
膵臓がんでは、糖尿病との関連も重要です。糖尿病は膵臓がん発生のリスクを高めますが、日本では糖尿病患者が増加しているからです。
厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の人口(約1億500万人)のうち、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、12.1%(男性16.3%、女性9.3%) で、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%(12.2%、女性12.1%)となっています。つまり、「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備軍)」はそれぞれ1,000 万人以上で、「糖尿病あるいは糖尿病の可能性のある人」は2000万人を超えています。糖尿病は1960年代くらいまでは極めて稀な病気でしたが、現在では5人に一人が糖尿病と言われるくらいに増えています。

図:日本における2型糖尿病の有病率(糖尿病+糖尿病予備軍)の年次推移を示す。1960年代まで糖尿病は極めて稀な疾患であったが、現在では人口の20%を超えている。

多くの疫学研究で、糖尿病が発がんリスクを高めることが確認されています。日本で行なわれた大規模調査では、糖尿病と診断されたことのある人はない人に比べ、20~30パーセントほどがんの発生率が高くなることが報告されています。
最近のメタアナリシスによると,糖尿病は非ホジキンリンパ腫,膀胱がん,乳がん,大腸がん,子宮内膜がん,肝がん,膵がんなどの発症リスクを高めることが示されています。
 
さらに、糖尿病があるとがんの進行が早く転移しやすいことも指摘されています。高血糖や高インスリン血症ががん細胞の増殖を促進するからです。

糖尿病は様々なメカニズムでがんの発生や進展を促進するので、日本で糖尿病患者が増えていることは、がんの発生が増えている原因の一つと言えます。 日本や欧米で膵臓がんが増えている理由として糖尿病の増加が関与していることが指摘されています。米国からの研究報告では、2型糖尿病があると膵臓がんの発症率が2倍以上になることが報告されています。

Type 2 diabetes mellitus is associated with increased risk of pancreatic cancer: A veteran administration registry study(2型糖尿病は、膵臓がんの発症リスクの増加と関連している:退役軍人管理局登録研究)SAGE Open Med. 2016; 4: 2050312116682257.

米国の退役軍人管理局のデータベースを用いて、2型糖尿病と膵臓がんの発症リスクの関連を後ろ向きコホート研究で検討した結果が報告されています。2型糖尿病を有する約11万人と、性別と年齢と医療施設などをマッチさせた非糖尿病の約21万人を対象にして比較しています。
解析の結果、糖尿病の無い群に比べて、2型糖尿病患者は膵臓がんの発症率の調整ハザード比が2.17(95%信頼区間:1.70–2.77)でした(p < 10−9)。つまり、2型糖尿病があると膵臓がんの発生率は2倍程度に上昇するという結果です。

 【米国でも膵臓がんが急激に増えている】
米国ではこの30年間で肥満(BMIが30以上)は2倍以上、小児の肥満や成人の高度の肥満(BMI35以上)は3倍になっています。
米国の人口の3分の1が肥満(BMI30以上)、3分の1が過体重(BMIが25~30)です。

日本ではBMIが30以上は人口の3%程度で、日本肥満学会では、BMI25以上を肥満にしていますが、米国ではBMI25以上はオーバーウェイト(overweight:過体重)で30以上を肥満にしています。日本と同じ基準にすると人口の70%が肥満に分類されてしまいます。
この「肥満の流行」と形容される急激な肥満の増加の原因として最も可能性が高いのがフルクトース(果糖)の過剰摂取と言われています。とくに、高濃度のフルクトースを添加したコーンシロップ(高果糖コーンシロップ:High-Fructose Corn Syrup; HFCS)の摂取量が1970年代以降、急激に増えており、これが米国における肥満と糖尿病の増加の元凶だという意見が研究者の間ではコンセンサスになっています。
その事実が認識されるようになったため、最近は高フルクトース・コーンシロップの消費は減少傾向にありますが、しかし、業界団体の政治的圧力で、規制されるまでには行っていないようです。

米国では、1990年代に肥満や糖尿病が急激に増加しているので、肥満や糖尿病によって発生リスクが高まるがんの発生率は2010年ころから上昇する可能性があります。
その代表が膵臓がんのようです。実際、米国では膵臓がんが少しづつ増えており、その状況を危惧する意見が増えています。
肥満や糖尿病では多くのがんのリスクが高まるのですが、多くのがんは診断法や治療法の進歩の恩恵を受け、発生率が上昇しても死亡率は減っています。
しかし、難治性がんの代表である膵臓がんは、いまだに5年生存率は一桁(日米とも6%程度)という状況で、発生数と死亡数がほぼイコールというがんなので、特に膵臓がんの死亡率の上昇が目立ってくるというわけです。
米国における膵臓がんの発生率はがんの中では10番目ですが、死亡率では男女とも4番目です。男性では、肺がん(28%)、前立腺がん(10%)、結腸直腸がん(9%)、膵臓がん(6%)の順です。女性では、肺がん(26%)、乳がん(14%)、結腸直腸がん(9%)、膵臓がん(7%)です。
このうち、診断法や治療法の進歩やその恩恵によって、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、前立腺がんによる死亡率(年齢調整)は1990年以降確実に減少(20~40%程度)しています。
しかし、膵臓がんは、1980年ころから最近までほぼ一定でしたが、最近は年齢調整した発生率も死亡率も少しづつ上昇しています。そして、将来的にさらに上昇を続けることが予想されています。
2004年から2008年の間に膵臓がんの発生率は年平均で男性は1.8%上昇、女性で1.4%の上昇が認められました。
2010年から2030年の間に膵臓がんの発生率(罹患率)が55%増加するという推定があります。

米国は、禁煙の達成によって肺がんを含め多くのがんの発生率を減らすことに成功しましたが、肥満の流行(Obesity Epidemic)によって、別のがんの発生が問題になってきたという事です。したがって、最近のがん研究の分野でも、メタボリック症候群や肥満や糖尿病とがんとの関連が重視されています。

図:米国では1980年代から肥満が年々増えており「肥満の流行(Obesity Epidemic)」と言われる状況にある(①)。肥満増加の原因の一つが1980年代から急激に摂取量が増えている高果糖コーンシロップ(high-fructose corn syrup: HFCS)と言われている(②)。肥満の増加に合わせて糖尿病の患者数も急激に増えている(③)。果糖はがん細胞の増殖を促進し、肥満によるインスリン抵抗性に起因する高インスリン血症と、糖尿病による高血糖はいずれも膵臓がんの発生リスクを高める。米国では年齢調整死亡率で比較すると、多くのがんが減少しているが、膵臓がんは男女とも増加している。現在、米国ではがん死の原因として膵臓がんは男女とも4位に位置するが、数年後には2位になると推定されている(④)。肥満や糖尿病や果糖の過剰摂取が膵臓がんの発生リスクを高めることと、治療成績が他のがんに比べて極端に低いことが主な理由である。

中国でも、膵臓がんが急速に増えています。2035年には1年間に13万人が膵臓癌で死亡すると推定されています。

日本も、膵臓がんが将来的に増え続けることが予想されています(下図)。

現在、膵臓がんは世界中で1年間に33万人以上が発症し、その多くが数年以内に死亡しています。
診断されても、治療が極めて困難です。
今後、膵臓がんは世界中で増加すると考えられており、社会や医療において膵臓がんの負担が急速に増えることが予想されています。

膵臓がんの補完・補完代替療法は多数の種類があります。その一部を以下の書籍でまとめています。

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