がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
407)ケモカイン受容体CXCR4の阻害をターゲットにしたがん治療(その2)
図:がん組織に存在する線維芽細胞(がん関連線維芽細胞)から分泌されるケモカインのCXCL12はがん細胞に発現するケモカイン受容体CXCR4に結合することによって、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進する。がん組織から産生されるCXCL12は骨髄から血管内皮前駆細胞(CXCR4を発現している)をがん組織に動員して腫瘍血管を増生する。高用量の抗がん剤治療はがん細胞のCXCR4の発現を高め、がん関連線維芽細胞からのCXCL12の産生を増やすことによって、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進する。したがって、抗がん剤治療中はがん細胞のCXCR4の発現や活性を阻害すると、抗がん剤治療に伴うがん細胞の悪化を防げる。そのような方法として、シリマリン、ジインドリルメタン、ジクロロ酢酸ナトリウム、2-デオキシグルコース、ラパマイシン、生薬の川芎に含まれるテトラメチルピラジン、白ウコン(花ショウガ)に含まれるゼルンボンなどがある。抗がん剤治療にこれらを組み合わせると、抗腫瘍効果を高めることができる。
407)ケモカイン受容体CXCR4の阻害をターゲットにしたがん治療(その2)
【高用量の抗がん剤投与はがん細胞の浸潤性や転移を促進する】
標準治療における抗がん剤治療は、最大耐用量(副作用に耐えられる最大量)の抗がん剤を投与することが基本になっています。
抗がん剤の投与量を増やせば増やすほど、がん細胞を死滅させる効果は強くなります。しかし一方、抗がん剤の投与量が増えれば増えるほど正常細胞のダメージによる副作用が強くなり、投与量が限界を超えれば患者さん自身が抗がん剤によって死亡してしまいます。
患者さんが副作用に耐えられる(死なない)範囲で最大限の投与量を設定するのが最も抗腫瘍効果が高いというのが、現在の抗がん剤治療の基本になっています。
この方法は白血病や悪性リンパ腫のように抗がん剤が効きやすい腫瘍の場合は有効ですが、抗がん剤が効きにくい腫瘍の場合は、むしろ高用量の抗がん剤投与は、正常細胞のダメージによる副作用が強くなるだけでなく、がん細胞の増殖や浸潤や転移を刺激する可能性が指摘されています。
例えば、高用量の抗がん剤投与によってがん組織が強くダメージを受けると、がん細胞やがん組織の間質にいる線維芽細胞(がん関連線維芽細胞:cancer associated fibroblast)などからダメージを受けたがん組織を修復するため様々な炎症性サイトカインやケモカインや増殖因子などが産生されます。このような因子によって血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells)が骨髄から動員されて、血管形成が促進されて、がん細胞の増殖や転移が促進することが明らかになっています。(397話参照)
骨髄の血管内皮前駆細胞はケモカイン受容体のCXCR4を持っているので、がん組織から産生されるケモカインのCXCL12によってがん組織に動員されて血管新生が促進されることを前回(406話)解説しています。
抗がん剤投与ががん細胞の増殖能や浸潤能を高めることも指摘されています。次のような報告があります。
An undesired effect of chemotherapy: gemcitabine promotes pancreatic cancer cell invasiveness through reactive oxygen species-dependent, nuclear factor κB- and hypoxia-inducible factor 1α-mediated up-regulation of CXCR4. (抗がん剤治療の好ましくない作用:ゲムシタビンは活性酸素の産生に依存した、NF-κBと低酸素誘導因子-1の転写活性により誘導されるCXCR4の発現上昇によって膵臓がん細胞の浸潤性を亢進する)J Biol Chem. 288(29):21197-207.2013年
米国の南アラバマ大学のMitchell Cancer Institute(ミッチェルがん研究所)からの報告です。論文の概要は以下です。
抗がん剤はがん細胞にダメージを与えて死滅させることを目的にしています。しかし、抗がん剤治療によって、がん細胞がさらに悪性化したり、増殖が盛んになることがあります。
膵臓がんの治療に使われている抗がん剤のゲムシタビンに対する膵臓がん細胞の耐性のメカニズムとして、ケモカインのCXCL12とその受容体CXCR4のシグナル伝達系が重要な関与をしていることが報告されています。
この論文では、膵臓がん細胞株2つ(MiaPaCaとColo357)を使った実験で、ゲムシタビン投与が、用量依存性および時間依存性に培養膵臓がん細胞におけるCXCR4の発現を亢進する結果を報告しています。
具体的には、CXCR4の発現量は、ゲムシタビンの低用量の投与で3~4倍、高用量の投与で最大40倍の発現量の増加が認められています。膵臓がん細胞の培養液にゲムシタビン添加後1時間でmRNAが増えだし、48時間後にはmRNAは30倍、蛋白質は20倍に増加したと報告しています。
膵臓がん細胞におけるゲムシタビンによるCXCR4発現誘導は、細胞を抗酸化剤のN-アセチル-L-システインで前処理すると消失するので、活性酸素の産生に依存していることを示しています。
そして、CXCR4の発現誘導は、がん細胞におけるNF-κBとHIF-1αの蓄積と相関していました。
つまり、ゲムシタビンによって活性酸素の産生が高まって酸化ストレスが亢進すると、増殖シグナル伝達系のERK1/2とAktが活性化され、さらに転写因子のNF-κBと低酸素誘導因子-1α(HIF-1α)の活性が亢進します。このNF-κBとHIF-1αはどちらもCXCR4遺伝子の発現を促進する作用があります。
培養細胞の実験では、膵臓がん細胞をゲムシタビンで処理すると、CXCL12勾配に対する膵臓がん細胞の移動性と浸潤性が高まることが示されています。
ゲムシタビン治療によって生き延びた膵臓がん細胞は、より運動性と浸潤性が高まるということです。つまり、標準治療で行われている高用量のゲムシタビン治療は膵臓がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進するという好ましくない結果を生む可能性があるという報告です。
幾つかの抗がん剤はがん細胞の酸化ストレスを高めてがん細胞を死滅させます。がん細胞を死滅させるだけの十分な酸化ストレスが与えられれば、がん治療に有効ですが、完全に死滅できなければ、逆にがん細胞を悪化させることになるということです。
このように、通常の高用量の抗がん剤投与を行うと、血管の増生やがん細胞の浸潤性や転移性が亢進することになり、そのメカニズムとしてケモカインCXCL12とその受容体CXCR4の関与が存在するということです。
CXCL12-CXCR4シグナル伝達系の他に、CCL2というケモカインとその受容体のCCR2もがん組織では発現が亢進し、がん細胞の増殖や生存に関与しています。
CXCL12はStrtomal derived factor 1(間質由来因子1)とも呼ばれ、本来は炎症などにおいてリンパ球や造血幹細胞の移動に関与しています。
CCL2は別名をmonocyte chemotactic protein-1(単球走化性タンパク質-1;MCP-1)と言い、創傷部位やがん組織にマクロファージや単球を動員する作用があります。
CCL2はがん関連線維眼細胞やがん細胞から分泌され、がん細胞に存在するCCR2に結合してがん細胞の増殖や生存や浸潤を亢進します。
がん関連線維芽細胞はCXCL12やCCL2のようなケモカインだけでなく、HGF(Hepatocyte Growth Factor)などの様々な増殖因子や活性酸素を産生することによってがん細胞の増殖や浸潤を促進しています。
そして、抗がん剤治療によって強いダメージを受けると、損傷を受けたがん組織のダメージを修復する目的でケモカインや増殖因子を産生して血管内皮前駆細胞やマクロファージを動員し、その結果、がん細胞の増殖や浸潤は促進され、がんはさらに悪化するという経過を辿ることになります。
これが、高用量の抗がん剤治療がうまくいかない理由の一つです。
抗がん剤治療のターゲットはがん細胞だけでなく、間質の細胞(線維芽細胞やマクロファージなど)とがん細胞の相互作用についても十分に考慮することが重要です。
図:抗がん剤治療によってがん組織はダメージを受ける。ダメージを受けた組織を修復するために、がん組織中の線維芽細胞からケモカインや増殖因子が産生され、がん細胞はケモカインや増殖因子に対する受容体の発現が刺激される。ケモカインや増殖因子は骨髄の血管内皮前駆細胞や炎症細胞(マクロファージなど)をがん組織に動員する。その結果、抗がん剤でダメージを受けたがん組織は血管の新生・増生や炎症性サイトカインの産生、酸化ストレスの亢進が起こり、その結果、がん細胞の増殖が促進され、浸潤や転移が促進される。
【シリビニンとインドール-3-カルビノールの相乗効果】
CXCR4-CXCL12シグナル伝達系を阻害できれば、抗がん剤治療によるがん細胞の増殖や浸潤の促進は抑制できる可能性があります。
がん細胞のCXCL12-CXCR4のシグナル伝達系の活性化を阻害する方法としてミルクシスルに含まれるシリマリン(シリビニン)の有効性や、低酸素誘導因子-1(HIF-1)の活性を抑制するジインドリルメタン、ジクロロ酢酸、2−デオキシグルコース、ラパマイシンなどの可能性を406話で解説しました。
実際にこのような化合物を組み合わせたがん治療の可能性が検討されています。
サプリメントの組合せとしてシリビニンとジインドリルメタンの組合せの抗腫瘍効果がマウスの移植腫瘍などの動物実験で示唆されています。次のような論文があります。
Enhanced inhibition of lung adenocarcinoma by combinatorial treatment with indole-3-carbinol and silibinin in A/J mice(A/Jマウスにおけるインドール-3-カルビノールとシリビニンの併用投与による肺腺がんの増殖抑制の増強)Carcinogenesis. Apr 2011; 32(4): 561–567.
インドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol, I3C)はブロッコリーやケールなどのアブラナ科の野菜や植物に含まれる成分で、シリビニン(silibinin)はミルクシスルの種子に含まれる成分です。どちらも抗がん作用が報告されており、欧米ではサプリメントとして市販されています。
この論文では、まず2種類の肺がん細胞株を用いたin vitroの実験系で、I3C(50 μM)とシリビニン(50 μM)の低用量の投与で、それぞれを単独で投与した場合は抗がん作用は認めなかったが、両者を同時に投与すると、がん細胞の増殖シグナル伝達系のERK(extracellular signal-regulated kinase)とAktの抑制と、がん細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導が認められました。
化学発がん剤で肺がんを発生させる実験系でシリビニン(7 μmol/g diet)とI3C(10 μmol/g diet)の投与は、それぞれを単独で投与すると肺がん発生は40%程度の抑制効果でしたが、両者を併用すると95%の抑制が認められました。
シリビニンの分子量は482g/mol、I3Cの分子量は147g/molです。7 μmol/g dietのシリビニンというのは、食餌1g当たり3374μg(0.3374%)、10μmol/g dietのI3Cは食餌1g当たり1470μg(0.147%)になります。
人間の1日の食事量を2000kcalとすると、乾燥重量で400g程度になります。これの0.3347%は約1300mg、0.147%は588mgになります。この服用量は市販されているサプリメントを少し多めに摂取すれば達成できる量です。
インドール-3-カルビノールは不安定で、胃の中の酸性の条件下でジインドリルメタンになります。ジインドリルメタンは消化管から容易に吸収され、体中の臓器や組織に移行することが知られています。ジインドリルメタンを体内に吸収しやすく製剤化したサプリメント(DIM-Pro)が欧米では販売されており、抗腫瘍効果を示す多くの実験結果が報告されています。ジインドリルメタンは多彩なメカニズムで抗腫瘍効果を発揮します(101話、275話参照)。
シリビニンはミルクシスルの種子の抽出エキスのシリマリンの主要成分です。これも欧米では安価に販売されています。抗がん剤の副作用軽減効果やがん細胞のワールブルグ効果を抑制する作用など多彩な抗がん作用が知られています(267話、270話、275話、406話)。
シリマリン(主成分はシリビニン)とジインドリルメタン(あるいはインドール-3-カルビノール)の抗腫瘍効果は多くの論文で報告されており、副作用はほとんどなく、比較的安価で販売されています。シリマリンとジインドリルメタンの2種類のサプリメントの併用を試してみる価値はあるようです。
【サプリメントを組み合わせたがん治療】
がん治療以外に使われている既存の医薬品や市販されているサプリメントの中にはがん細胞の増殖を抑制する効果が報告されているものが多数あります。
このような医薬品やサプリメントはがん治療薬として特許が取れないため(多くは物質特許が切れているため)、製薬企業が研究や開発に費用を出すことはあり得ず、多くは公的な研究費を使って細々と研究が行われています。
臨床試験を行うだけの研究費はないので、せいぜい動物実験の研究レベルで終わっています。
臨床試験で人間での有効性が証明されるまでは、本当に効くのかは判りませんが、研究費の関係でそのような臨床試験は極めて少数です。
培養細胞を使った実験(in vitro)で抗がん作用が得られても、体内(in vivo)で効くかどうかは不明です。消化管から体内に吸収されない場合や、すぐに肝臓などで代謝されて、培養細胞を使った実験で抗腫瘍効果が得られる濃度に達しない可能性があるからです。
臨床例での有効性が示されていることが最も重要ですが、ヒトでの検討がまだ行われていない場合は、動物実験で有効性が得られていることが最低条件になります。
このような動物実験で有効性が示されている投与量から人間での有効量が推測できます。
標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、マウスを使った実験で有効な服用量は体重換算で7分の1が目安になります。(マウスの実験で体重1kg当たり1000mgの投与量で有効の場合、人間での投与量は1kg当たり1000mg÷7=143mgになる)(293話参照)
特許が取れないと製薬会社は薬として申請しないので、このような物質は標準治療で使用されている抗がん剤より効果があっても、標準治療では使われることはありません。
自由診療でがんの代替医療を行っている医療機関で受けるか、あるいは自分で薬やサプリメントを入手して自分の意思と自己責任で使用するしかありません。
しかし、標準的な抗がん剤治療が効かなくなった進行がんの患者さんを、このような複数の安価なサプリメントや医薬品を使って、副作用がほとんど出さずにがんの進行を抑えたり、縮小させることができることを、最近多く経験するようになりました。
効果を高めるためには、動物実験や臨床例での効果が認められたものを選択し、相乗効果が得られるメカニズムが説明できる組合せを用いることが重要です。
【花ショウガ(白ウコン)のゼルンボンのCXCR4阻害作用】
ショウガ科の花ショウガ(白ウコン)に含まれるセルンボンという成分(下図)にがん細胞のCXCR4の発現を抑制して浸潤能を抑制する効果が報告されています。
次のような論文があります。
Zerumbone down-regulates chemokine receptor CXCR4 expression leading to inhibition of CXCL12-induced invasion of breast and pancreatic tumor cells.(ゼルンボンはケモカイン受容体CXCR4の発現を抑制することによって、乳がん細胞と膵臓がん細胞のCXCL12で誘導される浸潤を阻害する)Cancer Res. 68(21):8938-44. 2008年
【要旨】
ケモカイン受容体CXCR4は、初めは白血球の移動に関与するケモカイン受容体として見つかったが、最近の研究によって、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、胃がん、大腸がん、頭頚部がん、膀胱がん、脳腫瘍、悪性黒色腫を含む多くのがん細胞に発現していることが知られている。
このケモカイン受容体はそのリガンドであるCXCL12を産生している臓器にがん細胞を移動させる作用がある。したがって、がん細胞におけるCXCR4の発現を低下させることは転移を抑制することになる。
この研究では、亜熱帯のショウガ科植物である花ショウガ(Zingiber zerumbet)に含まれるゼルンボン(Zerumbone)がCXCR4の発現を抑制する作用があることを明らかにした。
このセスキテルペン(sesquiterpene)は、Her2を過剰発現している乳がん細胞において、用量依存的および時間依存的にCXCR4の発現を抑制した。
ゼルンボンによるCXCR4の発現抑制は乳がん細胞に限られたものではなく、白血病細胞、皮膚がん細胞、腎臓がん細胞、肺がん、膵臓がん細胞においても確認された。
CXCR4の発現量低下はタンパク質の分解亢進によるものではなく、mRNAの転写レベルでの低下であった。
ゼルンボンによるCXCR4の発現抑制は、CXCL12によって誘導される乳がんと膵臓がんの浸潤の抑制と相関を示した。
カルボキシル基を欠くゼルンボンの類縁体であるアルファ・フムレン(alpha-humulene)はCXCR4の発現を抑制する効果は認めなかった。
以上のことから、ゼルンボンはCXCR4の発現を抑制する新規の阻害剤であり、がん細胞の転移を抑制する効果が期待できる。
【川芎に含まれるテトラメチルピラジンのCXCR4阻害作用】
川芎(せんきゅう)は、中国北部原産で秋に白い花をつけるセリ科の多年草センキュウCnidium officinaleの根茎を、通例、湯通しして乾燥したものです。これに含まれるテトラメチルピラジンには血液循環を良くする効果などが報告されています。
次のような論文があります。
Inhibition of Angiogenesis, Fibrosis and Thrombosis by Tetramethylpyrazine: Mechanisms Contributing to the SDF-1/CXCR4 Axis(テトラメチルピラジンによる血管新生と線維化と血栓形成の阻害:SDF-1/CXCR4軸の関与する作用機序)PLoS One. 2014; 9(2): e88176.
【要旨】
背景:テトラメチルピラジンは、脳血管疾患や心血管疾患や呼吸器疾患や悪性使用などの漢方治療に広く使用されている川芎に含まれる活性成分の一つである。しかしながら、テトラメチルピラジンの作用機序については十分に解明されていない。以前の研究において、我々はテトラメチルピラジンによるグリオーマ(神経膠腫)の増殖抑制と神経細胞保護の作用において、ケモカイン受容体CXCR4の発現阻害が関与していることを報告した。SDF-1/CXCR4シグナル伝達系は多くの生理的あるいは病的プロセスにおいて基本的な働きを行っている。
この研究では、テトラメチルピラジンによる血管新生や線維化の阻害や、微小循環の改善にSDF-1/CXCR4シグナル伝達系の制御が関与しているかどうかを検討した。
方法と主な結果:スクラッチ-創傷アッセイ(培養細胞のシートを引っ掻いて傷を作り、細胞の増殖や移動をみる検査法)と用いた実験系で、テトラメチルピラジンはヒト臍帯静脈の内皮細胞株ECV304の移動と管腔形成を顕著に阻害した。テトラメチルピラジンの投与によってECV304細胞におけるCXCR4の発現量は著明に減少した。
さらに、ラットを用いたアルカリ溶液による角膜の傷害実験モデルにおいて、テトラメチルピラジンは角膜の血管新生を顕著に阻害した。
角膜の傷害を起こすと、角膜組織においてCXCR4の発現が亢進するが、テトラメチルピラジンを投与するとCXCR4の発現は抑制された。
さらに、ラットを用いたブレオマイシン投与によって誘導される肺線維症の発症はテトラメチルピラジン投与によって顕著に軽減され、テトラメチルピラジン投与群ではCXCR4の発現量の減少を認めた。Sらに、テトラメチルピラジンは血小板とリンパ球と赤血球におけるCXCR4の発現量を減少させた。血液の粘稠度と血小板凝集能はテトラメチルピラジン投与によって顕著に抑制された。
結論:これらの実験結果は、テトラメチルピラジンが病的状態における血管新生と線維化と血栓形成を阻害し、その作用メカニズムとしてケモカイン受容体のCXCR4の発現抑制が関与している可能性を示唆している。
がんの漢方治療において川芎は使用頻度の高い生薬です。その主な活性成分のテトラメチルピラジンには多彩な薬効が知られています。
サプリメントや漢方薬に使われる生薬成分の中にケモカインやケモカイン受容体に作用する成分が多く見つかっています。このような成分はがん治療の効果を高める手段として有用です。漢方薬やサプリメントの抗がん作用は、がん細胞に対する直接作用だけでなく、間質の細胞とがん細胞の相互作用に影響する作用も重要です。
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