がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
222)レスベラトロールの抗がん作用
図:赤ぶどうやブルーベリーや赤ワインに含まれるレスベラトロールの寿命延長効果や抗がん作用が注目されている。
222)レスベラトロールの抗がん作用
【レスベラトロールはフィトアレキシンの一つ】
植物は、外敵(病原菌など)や過酷な外的環境(紫外線や熱や重金属など)に打勝つために、様々な生体防御物質を合成しています。そのような成分が、人間の病気の予防や治療に役立つ場合があり、これが、漢方薬やハーブの薬効となります。
フィトアレキシン(phytoalexin)は植物体に病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質(生体防御物質)のことです。すでに持っている物質を活性化することもあります。多くの化合物が知られていますが、レスベラトロールもフィトアレキシンの一つです。
レスベラトロール(Resveratrol)はスチルベン合成酵素(stilbene synthase)によって合成されるスチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種で、気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されます。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれています。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれます。
【レスベラトロールの寿命延長作用】
レスベラトロールは、その健康作用が注目され、特に抗老化のサプリメントとして人気があります。
例えば、マウスを使った実験でレスベラトロールが寿命を延ばす効果があることが報告されています。マウスに高脂肪・高カロリー食を与えると寿命が短くなります。このときレスベラトロールを摂取させると寿命の短縮が防げるという報告です。
カロリー制限が寿命を延ばすことが明らかになっていますが、食物不足(飢餓状態)の時に活性化される遺伝子に、サーチュイン(サーチュインファミリー)というNAD依存性脱アセチル化酵素群があります。
サーチュインは長寿に関連する遺伝子で、いわゆる長寿関連遺伝子(longevity related gene)と呼ばれています。そしてレスベラトロールはサーチュイン遺伝子を活性化する作用が確認されています。すなわち、レスベラトロールはサーチュイン遺伝子を活性化することによって、カロリー制限と同じ効果を及ぼし、寿命延長効果を発揮するということです。
現在の飽食の世の中で高カロリーな食事は寿命を縮めるのですが、レスベラトロールを摂取すると高カロリーな食事による寿命短縮作用が防げるという話です。そのため、レスベラトロールは、長生きポリフェノールとして、非常に注目されるようになったのです。
【レスベラトロールの抗がん作用】
レスベラトロールの発がん予防効果や抗がん作用を有することは1997年頃から報告されるようになりました。はじめは、マウスの発がん実験でレスベラトロールが発がん物質によるがんの発生を抑制することが報告されました。その後、多くの基礎研究で、レスベラトロールは多彩な抗がん作用を示すことが報告されています。その作用メカニズムは極めて多彩で、以下のような報告があります。
1)抗酸化作用:活性酸素やフリーラジカルの消去
2)抗炎症作用:シクロオキシゲナーゼ-2の発現抑制
3)細胞周期関連遺伝子(サイクリン、p53,Rb,p21など)の発現や活性の調節
4)細胞内シグナル伝達系や転写因子(NF-KB、AP-1など)への作用
5)アポトーシス関連遺伝子(Bax,Bak, Bcl-2, Bcl-Xなど)の調節
6)血管新生や浸潤・転移の抑制:血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やメタロプロテイナーゼの阻害など
7)Adenoshine Monophosphate (AMP)-acitivated protein kinase(AMPキナーゼ)の活性化:インスリン感受性の改善、がん予防効果
カロリー制限と同じ効果を発揮する薬として糖尿病治療薬のメトホルミンがあります。(216話参照)
メトホルミンはAMPキナーゼを活性化し、インスリン感受性を高めて糖代謝を改善しますが、AMPキナーゼの活性化は抗がん作用があります。
メトホルミンとレスベラトロールの組み合わせは、さらに寿命を延長させるという報告があります。カロリー制限は寿命の延長だけでなく、がんの発生や再発予防にも有効です。したがって、メトホルミンとレスベラトロールの組み合わせは、がんの発生や再発予防にも相乗効果が期待できるかもしれません。メトホルミン自体に直接的な抗がん作用が多く報告されています。(217話参照)
レスベラトロールも多くの抗がん作用が報告されています。がんの再発予防や進行がんの治療にレスベラトロールやメトホルミンの併用は効果が期待できるかもしれません。
また、レスベラトロール以外にも、植物に含まれるポリフェノールの中にはサーチュインやAMPキナーゼを活性化する成分が知られています。漢方薬の抗老化や抗がん作用には、サーチュインなどの長寿関連遺伝子やAMPキナーゼの活性化という観点からの検討が注目されています。
« 221)フィトケ... | 223)レスベラ... » |