がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
221)フィトケミカルと栄養素の宝庫「モリンガの葉」
図:モリンガは熱帯から亜熱帯に自生するワサビノキ科の樹木。その葉はビタミンやミネラルや蛋白質などの栄養素が極めて豊富で、さらに抗がん作用をもつ成分も見つかっている。動物実験で抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する効果も報告されている。
221)フィトケミカルと栄養素の宝庫「モリンガの葉」
【植物に含まれるフィトケミカルと栄養素】
漢方薬は、生薬(=薬草)に含まれる成分の薬理作用によって薬効が得られます。
フィトケミカル(phytochemicals:植物ケミカル)というのは、広い意味では植物が合成する成分全てを意味しますが、通常は、人間の生理機能に何らかの作用を示す薬効成分を言います。つまり、抗酸化作用を示すフラボノイドや、免疫力を高める多糖成分や、様々な生理機能(薬効)を示すアルカロイドやテルペノイドなどです。生体に必要な栄養素(蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル)は通常はフィトケミカルに含みません。
漢方薬はフィトケミカルによる薬効を得ることが主な目的で、栄養素の補給という目的はあまり重視していません。生薬にはビタミンやミネラルも豊富ですが、蛋白質や脂質や炭水化物はわずかしか含まれていません。しかし、漢方治療で体力や治癒力を高めるときは、食事からの栄養摂取が十分であることが必須条件になります。がんの漢方治療でも、漢方薬だけでは不十分で、食事からの栄養摂取も重要です。体の自然治癒力を高めるためには、栄養素とフィトケミカルの組み合わせが重要だと言えます。
薬膳は食物と薬草を組み合わせて、栄養と薬効の両方の効果を目的にしています。もし、栄養素が豊富でがんに対する薬効も持っているような植物があれば、一つで薬膳と同じような効果が期待できます。今回紹介するモリンガの葉は栄養素が極めて豊富で、さらに様々な健康作用や抗がん作用を持つフィトケミカルも豊富なので、体の治癒力を高める漢方治療に役立つ植物です。
【モリンガとは】
モリンガは、北インドを原産地とし亜熱帯・熱帯地方に自生するワサビノキ科の樹木で、学名(ラテン名)をMoringa oleifera Lamと言います。樹高10mくらいまでの落葉高木で、葉・花・樹皮・果実の鞘などに、ワサビに似た香味があるところから「わさびの木(Horse Radish Tree)」とも言われます。
現在では、アフリカ、中南米、スリランカ、インド、メキシコ、マレーシア、インドネシア、フィリピンなど広い地域で栽培されています。
種はピーナッツのような味で炒って食べ、果実は調理したり漬けて(ピクルスにして)食べ、葉と花は香味野菜として食べ、根は刺激があり香辛料として使用されているそうです。さらにインド伝統医学のアーユルヴェーダでは薬用としても利用されており、古くから現地の人々の間で、健康に役立つ植物として重宝されてきました。
蛋白質やアミノ酸、各種ビタミン・ミネラル、食物繊維などの栄養素を極めて高いレベル、しかもバランス良く含んでおり、さらに様々な健康増進作用があるフィトケミカルも多く含んでいるので、世界中で最も有用な木の一つと言われています。発展途上国では飢餓や低栄養を解決する重要な栄養源として利用されており、しかも病気を予防し治す効果もあるので、「生命の木(Tree for Life)」「緑のミルク」「奇跡の木(Miracle tree)」「完璧な植物」という呼ばれ方もされています。家畜の餌としても使用されています。
また、干ばつに強く、砂地でも良く生え、生育が早く、CO2を広葉樹の6倍吸収するため、水や土を綺麗にする特徴を持ちます。そのため、発展途上国を中心に、モリンガの植林が精力的にすすめられています。日本ではまだあまり知られていませんが、海外では非常に有名な植物です。
【モリンガの葉の薬効と栄養】
熱帯地方では、他の食品が乏しくなる乾燥期の終わりころにモリンガの葉は最も繁るので、食品としての利用度が高く、生あるいは料理して食べたり、乾燥して粉末にしてスープなどに入れて食べるそうです。乾燥した粉末は冷蔵庫に保管しなくても、高い栄養価を保持して数ヶ月は問題なく保存できるそうです。葉は栄養素の含有量が極めて多く、同じ重量で比較すると、タンパク質は牛乳の2倍、カルシウムは牛乳の4倍、鉄はほうれん草の3倍、ビタミンCはオレンジの7倍、ビタミンA はニンジンの4倍、カリウムはバナナの3倍と言われています。この数値は生の葉の場合で、乾燥して粉末にしたものはこの数倍になります。蛋白質や卵や牛乳に匹敵するほど良質でアミノ酸バランスが良く、多種類のビタミンやミネラルを高濃度に含み、食物繊維も豊富です。さらにフラボノイドなど抗酸化作用や抗炎症作用をもった成分も豊富で、がん予防効果や抗老化作用も報告されています。
抗腫瘍活性が報告されている成分(Niazimicin、thiocarbamate, isothiocyanates,beta-sitosterolなど)も含まれています。インド伝統医学のアーユルヴェーダでは古くから腫瘍の治療にモリンガが使用されていました。
貧血や高血圧、糖尿病、高脂血症、肝機能障害、リュウマチ、関節痛など様々な疾患を改善する効果が報告されています。下痢や消化不良、胃炎や胃潰瘍、大腸炎など消化器系疾患を良くする効果もあります。
さらに、抗菌作用や抗ウイルス作用があり、様々な感染症(呼吸器感染症、尿路感染症、風邪、ヘルペス、エイズ、寄生虫、など)にも有効です。解毒作用があるので、毒蛇やサソリによる咬傷の治療にも使用されています。
モリンガの葉を食べると出産後の母親の母乳の分泌を増やす作用があると言われています。
モリンガの原産地のインドは、世界最古の伝統医学「アーユルヴェーダ」発祥の地で、モリンガはアーユルヴェーダ医学で有用な植物とされています。
新生児や授乳中の母親の栄養補給に利用されるほど、栄養価が高く、しかも安全性の高い食品ですので、がん患者さんの栄養補給にも有用です。
多彩の栄養素を豊富に含み、諸臓器の働きを良くし、感染症の予防効果や、抗炎症作用や抗酸化作用があるので、栄養補助と抗がん作用の両方の目的で、がんの漢方治療に役立つように思います。
ただし母乳の分泌を促進するので、エストロゲン作用が懸念されるので、乳がん患者さんには適さない可能性があります
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