がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
223)レスベラトロールとガンマ・シクロデキストリン
図:ガンマ-シクロデキストリン(ガンマ-CD)は8個のグルコース(ブドウ糖)が環状に結合した環状オリゴ糖で、蓋と底がないカップ状の構造を持ち、その空洞の中に小さい分子を取り込むことができる。レスベラトロールをガンマCDに包接すると、レスベラトロールの溶解性や吸収効率の向上に役立つ。
223)レスベラトロールとガンマ・シクロデキストリン
レスベラトロール(Resveratrol)の寿命延長作用や抗がん作用については前回(222話)で紹介しました。
レスベラトロールは赤ぶどうの皮や生薬のイタドリ(虎杖)に多く含まれています。インド伝統医学のアーユルヴェーダでは、赤ぶどうを発酵させて作ったジュース(darakchasava)が心臓疾患の薬として古くから使用されています。赤ぶどうに含まれるレスベラトロールやその他のフラボノイドなどの成分による抗酸化作用や心臓保護作用が、薬効として利用されていたと考えられます。
聖書には、グレープジュースや赤ワインは「神様の贈り物(gift of god)」と記載されています。
また、フランス人はチーズやバターや肉類やフォアグラなど動物性脂肪を多く摂取しているのに、他の西欧諸国と比べて心臓病の死亡率が低いことが知られており(いわゆる「フレンチパラドックス」)、その理由として、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノール類による抗酸化作用が指摘されており、特にレスベラトロールの効果が言及されています。
レスベラトロールは植物体に病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質(生体防御物質)の一種で、人間に対する健康作用が注目され、多くの研究が行われています。(222話参照)
培養細胞や動物を使った基礎研究では、レスベラトロールががんや循環器疾患や神経変性疾患など様々な病気の予防や治療に効果が期待できることが示唆されています。
しかし、これらの薬効が人間の病気に有効かどうかはまだ十分な証拠はありません。現在、レスベラトロールの薬効や安全性に関する多くの臨床試験が行われています。
1日5gくらいまでの摂取は安全性に問題が無いと報告されていますが、1日2.5g以上では、軽度の胃腸症状が出るという報告もあります。幾つかの臨床試験では1日0.5~1.0gが投与されています。
レスベラトロールの抗がん作用を期待するには1日数グラム程度の摂取が必要です。食品で最もレスベラトロールを含む赤ワインでも1リットル当たり0.1~14.3mgというデータが報告されています。グレープジュースでも1リットルで数mgしか含まれていません。したがって、食品やワインからの摂取では1日数10mgの摂取が限界のようです。
現在、イタドリの根や赤ぶどうの皮から抽出された純度の高いレスベラトロールが製造され、サプリメントに使用されています。このような製品を利用すれば、1日数100mgから数グラムの摂取が可能です。
イタドリの根は生薬では「虎杖根(コジョウコン)」と言い、昔は生薬として流通していましたが、現在は日本では販売されていません。
虎杖根にはレスベラトロールが入っているので、当クリニックでは抗がん漢方薬の作成に利用していましたが、1日数10グラムの虎杖根を加えても、レスベラトロールの含有量は抗がん作用を期待できるほどではないようです。そこで、抗がん作用を目的とした漢方薬に、イタドリから抽出されたレスベラトロールを加えるというアイデアがあります。あるいは、1日1グラム程度のレスベラトロールを水に溶かして服用する方法も試してみる価値があります。この際、水の溶解性を高め、飲みやすくする方法としてガンマ・シクロデキストリンが有用です。シクロデキストリンについては、210話で紹介しています。
シクロデキストリン (cyclodextrin) は数分子のグルコースがアルファ-1,4結合で環状に連なった環状オリゴ糖の一種です(図参照)。一般的なものはグルコースが6個から8個結合したものです。グルコースが6、7、8個環状に結合したものを、それぞれアルファ-、ベータ-、ガンマ-シクロデキストリンと呼んでいます。
シクロデキストリンはフタと底のないカップ状の構造をしており、カップの内側は親油性(油になじみやすい)で、外側は親水性(水になじみやすい)を示します。この空洞に非常に小さな分子を取り込むことができ、シクロデキストリンの空洞に他の物質を取り込むことを『包接』と言います。空洞の内部が親油性であるため、水に溶けにくい疎水性(水になじみにくい性質)の物質をシクロデキストリンに包接させることできます。
水に溶けにくい成分を水に溶けやすくするために使われたり、不安定で分解しやすい成分を安定化する目的にシクロデキストリンが利用されています。例えば、ガンマ-シクロデキストリンでコエンザイムQ10を包接することで、コエンザイムQ10の腸管からの吸収性を高め、熱に対する安定化を促し、他の物質との反応を回避することができます。
レスベラトロールのようなスチルベノイド類(フラボノイドより炭素が1個少ない)はガンマCDが包接に適していると言われています。
ガンマ-シクロデキストリンは水溶性で、極めて安全性が高いのが特徴です。世界食品添加物合同専門会議(JECFA)では、ガンマ-シクロデキストリンは1日許容摂取量を特定する必要のない安全な物質であると判断しています。この包接効果によって、成分の安定性や吸収性が増すと同時に、苦味や渋味やえぐ味や臭いを低減することができます。
ガンマCDの分子量は1297、レスベラトロールの分子量は228ですので、単純に計算すると、レスベラトロール1g当たり5.7グラムのガンマCDを加えるとモル比が1:1になります。
レスベラトロール1gとガンマCDを10g程度を混ぜて、レスベラトロールをガンマCDに包摂させることによってレスベラトロールの溶解性と消化管からの吸収性を高めて、1日に数回に分けて服用する方法をがんの代替医療の一つとして行っています。この方法で1日分は500円程度です。レスベラトロールの安全性と多彩な抗がん作用、さらに動物実験における有効性を考慮すると、がんの代替医療の一つとして試してみる価値はあるかもしれません。
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