758)漢方治療はがん患者の生存率を高める

図:漢方治療は体力・免疫力を増強する効果と直接的な抗腫瘍作用(がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導など)によって、QOL(生活の質)の改善と延命効果がある。がん治療に使用される頻度が高い生薬として、体力・免疫力を高める生薬(黄耆・人参・霊芝・田七人参・甘草)、造血機能や血液循環を良くする生薬(当帰・丹参)、抗炎症や解毒や抗がん作用のある清熱解毒薬(白花蛇舌草、うこん、半枝蓮)などがある。

758)漢方治療はがん患者の生存率を高める

【台湾の医療ビッグデータを使った疫学研究】
通常、医薬品の有効性を確かめるためにはランダム化比較試験が必要だと考えられていました。これは、研究の対象者を2つ以上のグループにランダム(無作為)に分け(ランダム化)、治療法などの効果を検証することです。ランダム化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます。 
しかし、がんのように生命に関わる病気の患者に偽薬(プラセボ)を投与することは倫理的に問題があります。最近は、ランダム化比較試験より医療ビッグデータを利用した疫学研究の有用性が指摘されています。

ビッグデータというのは、分野を問わず膨大な量のデータの集まりのことです。量が多く、かつ多様性のあるデータの集まりです。IT技術の発展により大量のデータの管理や分析が可能になり、分析したデータを活用する例が増えています。たとえば、インターネットでの買い物や検索のデータを分析して、マーケティング活動に利用されています。
医療分野におけるビッグデータは、人の健康や病気、治療などに関する大量のデータを指します。これらのデータを活用することで、医療の質の向上や医療サービス提供の効率化、新しい分野の研究開発につながります。
病気の治療法の有効性の検証においても、医療ビッグデータを利用した疫学研究が増えています。
ある治療法を受けた群と受けなかった群の生存率を医療ビッグデータを解析すれば、その治療法の有効性が確かめられます。

台湾では、1995年に国民皆保険制度を実現しています。
台湾の医療制度は、「全民健康保険(National Health Insurance)」という台湾政府が管理するシステムで、台湾で戸籍を持つ全ての人に対して平等な医療ケアを提供するために作られました。国民全員を加入対象とした完全な社会保険制度で、国民全員が出生した時点で、平等に医療を受ける権利を享受できできます。
健康保険証はICカードで、医療事務の電子システム化が進んでおり、オンライン請求率はほぼ100%です。
このような状況で、台湾では国民全体の医療情報(年齢、性別、病名、治療内容など)がデータベース化されています。この「全民健康保険研究データベース(National health insurance research database; NHIRD)」を使った疫学研究が台湾から数多く発表されています。
がんの場合はNHIRDの中に「難治性疾患患者登録データベース(Registry for Catastrophic Illness Patients Database)」というデータベースもあります。
台湾の全民健康保険(National Health Insurance)では、がん患者は西洋医学の標準治療だけでなく、中医学治療(漢方治療)も保険給付され、それらの情報がデータベース化されています。したがって、漢方治療を受けたがん患者と漢方治療を受けなかったがん患者で、生存率や生存期間の比較も可能になっています。使用された漢方薬の内容も解析できます。
台湾におけるがん治療における中医薬治療の実態に関して多くの報告があります。

【漢方薬服用はがん患者の死亡率を30%くらい低下させる】
台湾の医療ビッグデータを使った疫学研究によって、漢方治療を受けたがん患者は漢方治療を受けなかったがん患者より生存率が高いことが多くの研究で明らかになっています。例えば、以下のような報告があります。

Use of Complementary Traditional Chinese Medicines by Adult Cancer Patients in Taiwan: A Nationwide Population-Based Study(台湾における成人がん患者による伝統的中医薬の補完的使用:全国民ベースの研究)Integr Cancer Ther. 2018 Jun; 17(2): 531–541.

【要旨】
研究の背景:がん患者の多くは、補完的な代替医療を求めている。台湾の成人がん患者による伝統的な中医薬(漢方薬)の使用を調査した。

方法: 台湾の難治性疾患患者登録データベース(Registry for Catastrophic Illness Patients Database)を調査し、国際疾病分類(第9改正)に基づいて、2001年から2009年までのがんと診断された全ての成人を対象にして、2011年まで追跡調査した。
このデータベースにより、中医薬使用者(n=74620)と非使用者(n = 508179)を分類できた。すべての人口統計学的および臨床的なデータが分析された。

結果:中医薬を使用していないがん患者と比較して、中医薬を使用しているがん患者は、より若く、女性とホワイトカラーの労働者(頭脳労働をする人)が多い傾向にあり、さらに高度に都市化の進んだ地域(highly urbanized areas)に住んでいる人が多かった。
がんの診断を受けてから中医学のクリニックに相談に行くまでの期間の平均は15.3ヶ月であった。
最も多いがんの種類は、中医薬使用者では乳がん(19.4%)であり、中医薬非使用者では肝内胆管がん(13.6%)であった。
中医薬使用者が中医学の診療所を訪れた主な理由は、内分泌系異常、栄養障害および代謝性疾患、免疫障害であった。
中医薬使用者の33.1%が年間に9回以上中医学診療所を訪問し、このような人たちががんの診断から最初に中医学治療の相談に行くまでの期間の平均は5.14ヶ月であった。
中医学的治療のうち最も多かったのは中医薬(漢方薬)であった。
がん患者が中医学的治療を求めた理由は、不眠、倦怠感・疲労、めまい・頭痛、胃腸障害、筋肉痛・筋膜炎、不安・うつ病であった。
年齢、性別、居住地の都市化、職業、医療期間への訪問回数、および非医療関係のセンターの訪問を調整後の解析で、中医薬非使用者に比べて中医薬使用者の死亡率は低く、その死亡率の調整ハザード比は0.69(95%信頼区間 = 0.68-0.70)であった。

結論:本研究では、台湾の成人がん患者における中医薬(漢方薬)使用の概要を提供している。中医薬の使用は、がんの種類の違いによって様々であった。がん患者を診療する医師は、患者が使用している補完的な中医薬(漢方薬)の使用にもっと注意を払うべきである。

ハザード比(Hazard ratio)というのは追跡期間を考慮したリスクの比です。この論文のリスクは死亡率です。
この報告において、漢方薬非使用群に対する漢方薬使用群の死亡率のハザード比が0.69というのは、追跡期間中に漢方薬を服用したがん患者は漢方薬を服用しなかったがん患者に比べて死亡率が31%減少したという意味になります。
95%信頼区間とは,仮に同様な試験を100回した場合に95回はこの値の幅の中に入るという意味です。95%信頼区間が0.24〜0.45というのは、同様な試験を100回行なえば、95回はハザード比が0.24〜0.45の間に入ることを意味します。つまり、漢方薬ががん患者を延命させる可能性は極めて高いという結果です。

漢方薬を使用する人は女性が多く、都市化の進んだ地域に住んでいる人が多いという結果が得られています。
都市の方が漢方薬などの中医学治療を行なっている医療機関が多いというアクセスの良さが理由のようです。田舎では中医学のクリニックが無いということです。
都市化が進んだ地域は、生活環境や医療環境も良いので、それが生存率に影響する可能性があります。また、女性は男性よりも寿命が長いので、女性が多いことが生存率の高さに影響する可能性もあります。
そこで、このような交絡因子(調べようとする因子以外の因子で、病気や死亡の発生に影響を与えるもの)の影響をさける目的で、年齢、性別、居住地の都市化、職業、医療期間への訪問回数、および非医療関係のセンターの訪問を調整後のハザード比を計算しています。
その結果、漢方薬服用はがん患者の死亡率を30%くらい低下させるという結果が得られたということです。 

がん患者が中医学的治療を求めた元々の理由は、不眠、倦怠感、胃腸障害、不安、うつ病などの症状の緩和を目的としています。しかし、漢方薬を服用すると、体力や免疫力を増強し、それらの付随的な効果ががん患者の治療効果を高め、生存率を高めると考えられます。

【症状を緩和する漢方薬ががん患者の生存率を高める】
一般的に、がんの漢方治療には、症状の緩和を目的にする場合と、抗がん作用を目的にする場合があります。
症状の緩和は、倦怠感や食欲低下や吐き気や下痢や不眠などの症状を緩和する処方が中心になります。この場合は、がん細胞に対する抗腫瘍効果は考慮していません。
一方、体力と免疫力を積極的に高めたり、がん細胞の増殖を抑制したり細胞死を誘導するような清熱解毒薬や抗がん生薬を多く使用した漢方薬は、がん細胞に対する効果が中心になります。
しかし、直接的な抗がん作用が期待できそうもない、症状改善が目標の漢方治療でも、生存率を高める効果があるようです。
以下のような報告があります。

Integrated Chinese Herbal Medicine and Western Medicine on the Survival in Patients with Colorectal Cancer: A Retrospective Study of Medical Records(結腸直腸がん患者の生存における漢方薬と西洋医学の統合医療:医療記録の後ろ向き研究)Evid Based Complement Alternat Med. 2020; 2020: 4561040.

535人の結腸直腸がん患者が対象です。147人が漢方治療を併用していました。
535人の患者全員の平均追跡期間は36.0ヶ月でした。
漢方薬(中医薬)非使用者の平均追跡期間は35.2か月(SD = 23.9)で、3.0から90.9か月の範囲でした。
漢方薬使用者の平均追跡期間は38.1か月(SD = 19.7)で、3.5〜91.4か月の範囲でした。両群の追跡期間の間に有意差はありません。
全体として、197人の死亡(36.8%)が研究期間中に発生しました。
漢方薬非使用群の死亡者数は156人(40.2%)、漢方薬使用群の死亡者数は41人(27.9%)でした。
カプランマイヤー生存曲線のログランク検定により、2つのグループの生存間に統計的に有意な差が明らかになりました(P = 0.006)(図)。漢方薬非使用者の1年目、3年目、5年目の生存率は、80%、62%、54%でしたが、漢方薬使用者の生存率は92%、75%、63%でした。

図:中国の漢方薬の使用による結腸直腸癌患者のカプランマイヤー生存曲線 (出典: Evid Based Complement Alternat Med. 2020; 2020: 4561040.)

この研究では、多変量Cox回帰分析の結果は、漢方薬の使用が生存率の向上と有意に関連していることを示しました。(調整済みハザード比= 0.54、95%CI = 0.38〜0.77)
ステージ別ではI期(P = 0.966)およびII期(P = 0.581)のがんの生存曲線に有意差が認められませんでした。しかし、ステージIII(P  = 0.027)とIV(P  = 0.003)のがんの生存曲線には有意差がありました。つまり、元々生存率が高いステージIとIIでは漢方薬を使って多少の効果があっても、生存率の差に統計的有意差は出にくいと予想されます。
しかし、生存率が低下するステージIIIとIVでは、漢方薬の使用群と非使用群では生存率に統計的に有意差がはっきり出るということです。

 図:漢方薬の使用によるステージ別の結腸直腸がん患者のカプランマイヤー生存曲線 (出典: Evid Based Complement Alternat Med. 2020; 2020: 4561040.)

この研究で漢方薬使用者と漢方薬非使用の生存率に、生存率の向上と有意に関連していた漢方薬処方としてJia Wei Xiao Yao San(加味逍遙散)、Zhi Bah Di Huang Wan(知柏地黄丸 )、Ping Wei San(平胃散)、Qui Pi Tang(帰脾湯)が挙げられています。

加味逍遙散は、女性向けで更年期障害や自律神経失調や月経前緊張症などに良く使われます。手足の冷え、のぼせ、生理不順や生理痛、頭痛、肩こり、けん怠感、不眠、神経症などに適応します。

知柏地黄丸は腎虚(精力や生命力が低下した状態)に使う六味地黄丸に知母と黄柏を加えた処方で口渇、疲れ・だるさなどの症状を伴う場合に用いられます。顔や四肢のほてり、排尿困難、頻尿、むくみに効果があります。

平胃散は胃腸の働きを良くし、胃腸の水分の停滞を改善し、消化不良による胃もたれや腹部膨満を改善します。

帰脾湯は気血両虚(気と血の両方が不足した状態)に用いる漢方処方で、体力がなく、胃腸虚弱な人で、疲れやすい、食欲がないといった「気虚(ききょ)」の症状や、顔色が悪いなどの「血虚(けっきょ)」の症状がある場合の、不眠症や不安、抑うつ気分、あるいは、貧血の治療などに用いられます。寝汗、動悸などの症状も処方の目安となります。

これらは、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を死滅するような成分の入った漢方薬ではありません。抗がん剤治療を受けているがん患者に良く見られる症状を緩和する漢方処方です。症状を緩和し改善することが抵抗力や治癒力を高めて、生存率の向上に寄与するのかもしれません。

【エキス製剤を使った日本の研究でも症状の緩和目的の漢方治療で生存率が向上する】
Can Kampo therapy prolong the life of cancer patients?』というタイトルの論文が発表されています。日本語に直訳すると『漢方治療はがん患者の生存期間を延ばすことができるか?』という意味です。

徳島大学医学部の竹川佳宏教授のグループからの2008年の報告です。放射線や抗がん剤治療を受けた子宮頚がん患者において、漢方治療を併用したグループと併用しなかったグループに分けて生存率を比較すると、漢方治療を併用したグループの生存率が有意に高いことを報告しています。

Can Kampo therapy prolong the life of cancer patients?(漢方治療はがん患者の生存期間を延ばすことができるか) J. Med. Invest. 55:99-105, 2008 

放射線治療や抗がん剤治療の副作用緩和や自覚症状の改善を目的として、1978年から漢方治療を行ってきたので、漢方治療を受けた群と受けなかった群に分けてretrospective(過去にさかのぼって「後向き」に調査する手法)に生存率を解析したら、漢方薬を服用した群の方が生存率が高いという結果が得られたという臨床研究です。
この研究では、徳島大学医学部附属病院で1978~1998年の間に、放射線治療に漢方を併用した子宮頚がん患者174例を解析しています。
同時期に同じ病院で治療を受けた子宮頚がん患者で漢方治療を併用しなかった231例をコントロール(対照)にしています。
漢方併用群と対照群は、年齢やステージで大きな差はありませんでした。
両グループの子宮頚がん患者は、低線量率小線源による腔内照射と、X線による外部照射を用いた標準的放射線治療法が施行されました。がんが進行した患者(ステージIIB,III,IV)の一部では放射線治療に抗がん剤治療が併用されました。
また、術後の補助化学療法として、内服の抗がん剤治療(フルオロウラシル、テガフール)、術後免疫療法としてクレスチンの併用なども行なわれています。
これらの標準的治療に加えて、漢方治療を受けたグループでは、株式会社ツムラのエキス顆粒製剤を、患者の証(体質や症状に基づいた漢方的診断)にしたがって処方されました。つまり、がんの再発予防を目的としたものでは無く、あくまでも症状の改善が目的です。

使用された漢方方剤は、十全大補湯(42.5%)、八味地黄丸(17.2%)、人参養栄湯(12.6%)、柴苓湯(11.5%)、補中益気湯(6.3%)、小柴胡湯(5.3%)、大柴胡湯(1.7%)など、補剤や和剤が中心でした。
補剤は体力や抵抗力や免疫力を高める漢方方剤です。和剤は、抗炎症作用と同時に体の抵抗力を高める薬を組み合わせた漢方方剤です。
「方剤」というのは「薬剤を調合すること、または調合した薬剤」のことです。漢方方剤というのは複数の生薬を組み合せて作成した漢方薬のことです。
漢方薬は放射線治療と同時に開始し、治療終了後も数年間服用を継続しました。20年以上継続した患者も数人いました。
放射線治療終了後、患者は再発の状況を検査するために定期的に受診しました。
生存率はKaplan-Meyer法、有意差検定にはBreslow-Gehan-Wilcoxon testを用いて、統計的に比較検討しました。
その結果、患者全体で漢方併用群(173例)と非併用群(231例)を比較すると、生存率は漢方併用群が明らかに高い結果でした。(下図)

図:子宮頚がん全例の生存曲線。漢方薬使用群の方が生存率が高い。

ステージ別に解析しても、いずれのステージでも漢方薬服用群の方が生存率が高い結果が得られています。(下図)

図:子宮頚がん患者のステージIIIとステージIVに分けた場合の生存曲線。いずれも漢方薬使用群の方が生存率が高い。

ステージ別に5年、10年、15年後の生存率は以下の表の如く、漢方治療を併用したグループの方が生存率は高いことが示されました。

この論文の著者らは、当初は、放射線療法や化学療法に伴う副作用軽減や、生活の質(QOL)を改善する目的で漢方を併用してきました。しかし、漢方治療を併用することによって著明な延命効果が得られることが明らかになったという結論です。


この臨床研究では、株式会社ツムラのエキス製剤の十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)といった補剤(体力や抵抗力を高める漢方薬)が主に使われています。
この研究では、治療後の補助療法としての内服の抗がん剤(フルオロウラシル、テガフール)や免疫増強剤(クレスチン)では延命効果は認められていません。

漢方治療の場合は、体力や免疫力を高めると同時に、血液循環や新陳代謝を良くして回復力や治癒力を高め、さらに、生薬に含まれる抗炎症作用や抗がん作用を有する成分の作用も加わって、総合的に延命効果を発揮すると考えられます。

再発予防や延命には、抗がん剤や免疫増強剤といった単一の効果でなく、複数の効果を組み合わせないと延命に結びつかないということかもしれません。

がんの治療後は、抗がん剤を主体とした補助化学療法よりも、適切な漢方治療を長く継続する方が勝っている可能性をこの論文は示唆しています。

一般的に、同じ処方であっても、煎じ薬の方がエキス製剤の2~3倍くらいの効力があると言われています。それは、インスタントコーヒーを作るときのように液体を粉末にするために水分を蒸発させる時に、精油成分のような蒸発しやすい成分が消失するからです。精油成分の中には、抗がん作用が高い成分が多く含まれています。


補剤は、病気や老化による体力や抵抗力や回復力の低下を高めることによって、寿命を延ばすことを目標に作られていますが、がん治療後の再発予防には、さらに工夫が必要です。

つまり、補剤で体力や免疫力を高めると同時に、血液循環や新陳代謝を良くする生薬、抗酸化作用や抗炎症作用や解毒力を強化する生薬、がん予防効果のある成分を含む生薬などを加えた煎じ薬は、もっと効果が期待できるはずです。

出来合いのエキス製剤でこれだけの延命効果が得られているのであれば、がん再発予防を目的にオーダーメイドで作成した適切な煎じ薬を服用すれば、もっと延命効果が期待できると思います。

【多くのがん種で漢方治療の併用が生存率を高める】
台湾の医療ビッグデータを使った研究で、漢方治療を受けたがん患者は生存率が高いことを報告する論文が多数発表されています。
膵臓がんや肺がんや乳がんや白血病など多くのがんで漢方薬(中医薬)の延命効果が報告されています。以下のような報告があります。

Complementary Chinese Herbal Medicine Therapy Improves Survival of Patients With Pancreatic Cancer in Taiwan: A Nationwide Population-Based Cohort Study.(台湾において補完的な漢方治療は膵臓がん患者の生存率を高める:全国人口レベルのコホート研究)Integr Cancer Ther. 2018 Jun; 17(2): 411–422.

【要旨】
背景:膵臓がんは治療が困難ながんであり、発見が遅れることが多く、予後は不良である。一部の患者は伝統的な中国医学の治療を受けている。我々は、台湾の膵臓がん患者における補完的な漢方薬治療の利点を調べることを目指した。

方法:1997年から2010年に台湾難治性疾患患者登録データベース(Taiwanese Registry for Catastrophic Illness Patients Database)に登録された全ての膵臓がん患者を対象とした。年齢、性別、膵臓がんと診断された年を一致させた1:1マッチング法を用いて、漢方治療を併用した386人と、漢方治療を併用しない386人を比較解析した。死亡リスクの危険率(ハザード比)はCox回帰モデルを用いて比較した。生存期間の差はKaplan-Meier曲線を用いて比較した。

結果:漢方薬の使用、年齢、性別、都市化レベル、他の病気の有無および治療に関して相互に調整されたCoxハザード比モデルによる解析で、漢方治療を受けた患者は死亡リスクのハザード比が低かった(調整ハザード比 = 0.67;95%信頼区間 = 0.56〜0.79)。 
漢方療法を90日間以上受けた患者は、漢方治療を受けなかった患者よりも死亡リスクのハザード比が有意に低かった。漢方治療を90〜180日間受けた群では、調整後ハザード比 = 0.56(95%信頼区間 = 0.42〜0.75)で、180日間以上漢方治療を受けた群では ハザード比= 0.33(95%信頼区間 = 0.24〜0.45)であった。 漢方薬併用群の患者の生存率は高かった。
患者が使用した生薬と漢方方剤で最も頻度が高かったのは、単一の生薬では白花蛇舌草で、漢方処方では香砂六君子湯であった。

結論:補完的な中国薬草療法(漢方治療)は、膵臓がん患者の死亡率を低下させる可能性がある。今後はさらに前向き臨床試験によってこの結果を確認する必要がある。

漢方薬(中医薬)治療を受けた期間が長いほど延命効果があるという結果です。効果に用量依存性があるので、漢方薬による延命効果を支持しています。生存曲線のデータは下の図に示しています。

図:台湾の医療ビッグデータを使用した疫学研究で、膵臓がん患者で漢方薬(中医薬)を使用した患者は、漢方薬を使用しなかった患者よりも生存率が高いことが報告されている。漢方治療の期間が長いほど生存率が高いという用量依存性も示されている。

漢方処方では香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)が多く、単一の生薬では白花蛇舌草の使用頻度が高いという膵臓がんの漢方治療の特徴を明らかにしています。

香砂六君子湯は、胃腸虚弱で消化管に水分が停滞しやすいタイプに用いる六君子湯(人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、生姜、半夏、陳皮)に、さらに胃腸の機能を高め、食欲を亢進し、気分の塞さがりを開く働きがある香附子、縮砂、藿香を加えた処方です。六君子湯に抗うつ作用を加えた処方といえます。
香附子(こうぶし)・縮砂(しゅくしゃ)・藿香(かっこう)は香りが良く、気の巡りを改善し、気うつの症状(気分が沈む、気分が塞がる、意気消沈する精神状態)を改善します。
膵臓がんでは胃腸の働きが低下し、食欲が低下します。さらにうつ症状を呈することが多く経験されます。したがって、進行した膵臓がん患者さんは香砂六君子湯の証が多くなるのかもしれません。
膵臓がん患者さんが抑うつ症状を呈することが多いことは569話で解説しています。

白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)は抗がん作用のある生薬です。白花蛇舌草の煎じ薬は、肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。多くのがんに広く使用され、良い治療効果が報告されています。 飲み易く刺激性が少ないので、食欲が低下した進行がんにも適しています。

【進行非小細胞性肺がんの補助療法としての中医薬治療の有効性】
ステージIIIからIVの進行した非小細胞性肺がん患者の抗がん剤治療に中医薬(漢方薬)治療を併用した場合の有効性を検討した24の臨床試験のデータをメタ解析した結果が報告されています。

The efficacy of Chinese herbal medicine as an adjunctive therapy for advanced non-small cell lung cancer: a systematic review and meta-analysis.(進行非小細胞性肺がんの補助療法としての中医薬治療の有効性:系統的レビューとメタ解析)PLoS One. 2013;8(2):e57604.

【要旨】
進行した非小細胞性肺がんの治療において、標準治療と補完・代替医療との併用、特に中医薬治療(Chinese herbal medicine)の併用に関して多くの研究が行われている。しかし、その有効性に関しては十分に検討されていない。
この研究の目的は、進行した非小細胞性肺がんの治療において、標準的な抗がん剤治療に中医薬治療を併用した場合の有効性を評価することにある。
11のデータベースを検索し、条件に合う24の臨床試験を選び出した。これらの臨床試験に含まれる2109人の患者のデータを解析した。2109人のうち、1064人は抗がん剤治療と中医薬の併用による治療を受け、1039人は抗がん剤治療のみを受けた。(6人の患者は脱落した)
抗がん剤治療単独群に比べて、抗がん剤と中医薬を併用した群は1年生存率が有意に向上した。(相対比 = 1.36, 95% 信頼区間 = 1.15-1.60, p = 0.0003)。
その他に、併用群では奏功率 (相対比 = 1.36, 95% 信頼区間 = 1.19-1.56, p<0.00001) や、カルノフスキー・パフォーマンス・スコア (Karnofsky performance score)で評価した全身状態の改善の率(相対比 = 2.90, 95% 信頼区間 = 1.62-5.18, p = 0.0003)も向上した
一方、副作用に関しては、併用群で著明な軽減が認められた。例えば、グレード3~4の吐き気や嘔吐の頻度は併用群で顕著に低減した (相対比 = 0.24, 95%信頼区間 = 0.12-0.50, p = 0.0001) 。ヘモグロビンや血小板の減少の頻度も併用群では低下した。
さらに、この研究では、非小細胞性肺がんに高頻度に使用される生薬が同定された。この系統的レヴューでは、進行した非小細胞性肺がんの治療において、中医薬治療は抗がん剤治療の補助療法として有用で、抗がん剤の副作用を軽減し、生存率を向上し、抗がん剤による腫瘍の縮小効果(奏功率)を高め、全身状態を良くする効果があることが示された。
しかしながら、今回検討したランダム化比較臨床試験の多くは小規模なものばかりで、大規模なランダム化試験は含まれていないので、今後はさらに大規模な臨床試験の実施が必要である。

このメタ解析の結果は下の表にまとめています。

表:ステージIIIとIVの進行肺がん患者の抗がん剤治療において、中医薬を併用した場合の効果を検討した24のランダム化臨床試験のデータをメタ解析した報告がある。抗がん剤治療に中医薬治療を併用すると、(1)毒性(副作用)を軽減し、(2)生存率を向上し、(3)奏功率を高め、(4)全身状態(KPS)を改善することが示されている。

1年生存率は抗がん剤単独群が40.5%に対して抗がん剤+中医薬併用群が55.7%で生存率は36%の向上です。
短期的な抗腫瘍効果の指標である奏功率(完全奏功と部分奏功)は、抗がん剤単独群が28.3%に対して抗がん剤+中医薬併用群が38.3%で、これも36%の向上を認めています。
患者の全身状態はカルノフスキーのパフォーマンスステータス(Karnofsky Performance Status:KPS)で評価していますが、このKPSが治療後に改善した割合は、抗がん剤単独群が10.9%に対して抗がん剤+中医薬併用群が35.2%で、全身状態の改善した割合は3.25倍に向上しています。
副作用については、吐き気や骨髄抑制(白血球・ヘモグロビン・血小板の減少)について比較されていますが、全ての検討項目において、中医薬を併用することによって副作用が軽減することが示されています。特に、グレードIII~IVの重度の副作用の発生率が低下することが示されています。
以上の結果から、この論文の結論は、「進行非小細胞性肺がんの抗がん剤治療に中医薬治療を併用すると、毒性(副作用)を軽減し、生存率を向上し、奏功率を高め、全身状態(KPS)を改善することが示された」となっています。「ただし、個々の臨床試験の規模が小さいので、大規模な臨床試験での確認が必要である」という条件もついています。
このメタ解析では、ステージIIIとIVに絞っています。早期の肺がんで行った臨床試験を含めると結果にばらつきが大きくなるのと、進行しているほど治療効果の差が出やすいので、進行がんに絞ったと記述されています。
また、ランダム化臨床試験の質を評価する指標としてJadad score(ハダッドスコア)があります。5点満点で3点以上あれば比較的質の高いランダム化試験となります。このメタ解析では、Jadad scoreが3点以上のもののみを集めて解析しています。したがって、この論文の結果はかなり信頼性が高いと言えます。

一般的に、メタ解析で有効性が示されれば、かなりエビデンスが高いという評価になります。しかし、大規模なランダム化試験で有意な結果がでなければ確定的とは言えません。このメタ解析の元になった臨床試験は全て中国で実施されたもので、24の臨床試験で2100人程度のデータを集めているので、一つの臨床試験の規模は平均で100人弱なので、小規模と言わざるを得ません。信頼のおける大規模なランダム化臨床試験が必要だというコメントです。
しかし、抗がん剤治療に漢方薬や中医薬を併用しても、悪い結果になる可能性は低く、むしろ良い効果が得られると言えます。
この中医薬(漢方薬)は基本的には煎じ薬です。患者毎に、その症状や治療の状況に応じて適した漢方薬が処方されるのですが、患者毎に薬が違うので、西洋薬のような単一の薬剤によるランダム化二重盲検臨床試験の実施は極めて困難なのが実情です。
漢方治療が肺がん患者の延命にも有効であることが報告されています。以下のような論文があります。

Characteristics of Chinese herbal medicine usage and its effect on survival of lung cancer patients in Taiwan.(台湾における肺がん患者における漢方薬使用の特徴と生存率に対する影響)J Ethnopharmacol. 2018 Mar 1;213:92-100.

 【要旨】
伝統医療との関連性:台湾では、肺がんは依然として最も致命的ながんの1つであり、肺がん患者の生存率は6%〜18%の低いままである。中国伝統医学の漢方薬が、がん細胞にアポトーシスを誘導し、抗炎症性活性を示すことが示されている。

研究の目的:本研究では、台湾における肺がん患者の漢方薬治療の頻度とパターンを調査し、肺がん患者の生存率に及ぼす漢方薬の影響を明らかにすることを目的とした。

材料と方法:6939人の肺がん患者を同定した。年齢、性別、治療期間、および治療法を一致させた264人の漢方薬使用者と528人の漢方薬非使用者を割り当てた。本試験では、カイ二乗検定、条件付き多変量ロジスティック回帰解析、カプラン - マイヤー法、対数ランク検定を用いた。

結果:漢方治療使用群は、追跡期間がより長く、高脂血症および肝硬変の症例がより多い特徴があった。他の疾患を調整した後の解析で、漢方治療使用群の肺がん患者は、漢方非使用群に比べて死亡率のハザード比が低かった(HR=0.48;95%信頼区間0.39〜0.61、p <0.001)。
累積生存確率も漢方薬非使用群よりも漢方薬使用群においてより高かった(p <0.0001、ログランクテスト)。
漢方薬処方のパターンを分析したところ、処方された漢方処方のトップ3は補中益気湯香砂六君子湯百合固金湯であった。生薬のトップ3は、貝母杏仁葛根であった。これらの中で貝母が中心となる生薬であり、桔梗と麦門冬湯が重要な生薬と漢方方剤であった。

結論:抗がん剤の補完療法として漢方治療を併用することは肺がん患者の死亡リスクを低下させる可能性がある。漢方薬処方のパターンの包括的な調査は、肺がん治療における漢方薬の有効性や安全性、および肺がんの従来の治療薬との潜在的相互作用を検討する将来の大規模無作為化臨床試験に役立つ。

がんの種類によって主要な症状が異なるので、使用される漢方方剤も異なってきます。
肺がんの場合は、症状として咳や痰が多くなるので、生薬として貝母、杏仁、桔梗などの使用が多くなり、方剤としては麦門冬湯が多くなることは理解できます。
貝母(ばいも)、杏仁(きょうにん)、桔梗(ききょう)は咳や痰の多い症状を軽減する作用があります。
補中益気香砂六君子湯は胃腸の働きが低下し、食欲や体力が低下して状態に使用します。香砂六君子は食欲が低下し気分が晴れないうつ症状のある場合に適しています。
百合固金湯(びゃくごうこきんとう)は、体液を増す生地黄 ・麦門冬 ・玄参に、熟地黄 ・当帰 ・芍薬・ 百合といった滋陰補血の生薬と貝母 ・桔梗といった去痰の生薬が配合されており、肺陰虚(肺の潤いが不足した状態) の症例に使用されます。
このように、肺がん患者の症状に応じた漢方処方によって体調や病状を改善することは、延命効果につながります、
この論文では、漢方治療を併用することによって、肺がん患者さんの死亡のリスクが半分くらいになるという結果です。
がん患者さんは、標準治療の副作用軽減や、症状の改善を目標とした漢方方剤に、さらに抗がん作用のある生薬(白花蛇舌草半枝蓮など)を組み合せた漢方治療を併用すると、生存率を高めることができることが、台湾の医療ビッグデータは示しています。
同様の結果は胃がんでも報告されています。

Complementary Chinese herbal medicine therapy improves survival of patients with gastric cancer in Taiwan: A nationwide retrospective matched-cohort study.(補完的な中医薬治療は胃がん患者の生存率を高める:全国規模の後ろ向きコホート研究)J Ethnopharmacol. 2017 Mar 6;199:168-174.

研究目的と方法は前述の論文と同様です。
胃がんで漢方薬治療を使用した1333例と使用しなかった44786例のコホートの中から、条件をマッチさせた962例づつを選択して比較しています。
その結果、漢方治療を使用しなかった胃がん患者と比較して、漢方治療を併用した胃がん患者の死亡のハザードリスクは0.55(95%信頼区間:0.48-0.62)でした。漢方薬を1年間に180日以上服用した胃がん患者の死亡リスクのハザード比は0.37(95%信頼区間:0.2-0.67)でした。
生薬として使用頻度の高いのは白花蛇舌草で、方剤では香砂六君子湯でした。
以下の論文は急性白血病の場合の結果です。 

Improved Survival With Integration of Chinese Herbal Medicine Therapy in Patients With Acute Myeloid Leukemia: A Nationwide Population-Based Cohort Study.(急性骨髄性白血病患者における中医薬治療の併用による生存率の向上:全国民を対象にしたコホート研究)Integr Cancer Ther. 2017 Jun;16(2):156-164.

1:1マッチング法で498例の急性骨髄性白血病患者を解析しています。
漢方治療(中医薬治療)を使用しなかった群に比較して、漢方治療を併用した急性骨髄性白血病患者の死亡率のハザード比は0.41 (95% 信頼区間= 0.26-0.65; P = .0001)でした。この効果は用量依存的で服用期間が長いほど死亡のリスクは低下しました。
使用頻度の高い生薬は、丹参(たんじん)、黄耆(おうぎ)、鶏血藤(けいけっとう)でした。漢方方剤では加味逍遥散(かみしょうようさん)、帰脾湯(きひとう)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)でした。

丹参(タンジン:Radix Salviae Miltiorrhizae)はシソ科のタンジンの根です。
丹参に含まれるSalvianolic acid Bやタンシノン類が、多くのがん細胞に対して、増殖抑制、アポトーシス誘導、血管新生阻害、浸潤や転移の抑制、抗がん剤に対する耐性獲得の抑制作用を示すことが報告されています。

黄耆(おうぎ)はマメ科のキバナオウギおよびナイモウオウギの根で、病気全般に対する抵抗力を高める効果があります。
漢方では生命エネルギーを「気」という概念で現し、気の量に不足を生じた状態を気虚(ききょ)といいます。気虚とは生命体としての活力である生命エネルギーの低下した状態であり、新陳代謝の低下・諸々の臓器機能の低下・抵抗力の低下した状態です。元気がない・疲れやすい・食欲がない、手足がだるいなどの症状が出てきます。気の量を高める生薬を「補気薬」と言い、オウギは代表的な補気薬の一つで、がんの漢方治療では、高麗人参と並んでも最も多く使用される生薬です。

鶏血藤(ケイケットウ)はマメ科のつる性植物の茎を用いますが、その基原植物は地域によって様々で、ムラサキナツフジ(昆明鶏血藤;Millettia reticulata)、白花油麻藤(Mucuna birdwoodiana)、蜜花豆(Spatholobus suberectus)、香花岩豆藤(Millettia dielsiana)などの植物が用いられています。このように基原植物は複数ありますが、赤い色素(樹脂)を含み、切ると赤い汁が出ることから「鶏血藤」の名があります。
血液循環の改善や鎮痛に用いられており、中国では月経不調、腰膝の疼痛、リウマチ、手足の麻痺などの症状に利用されています。

がん治療においては、抗がん剤治療や放射線治療による白血球減少を改善する効果が報告されています。鶏血藤を10~20g程度煎じて服用すると、3~4日すると白血球が増えてくると言われています。抗がん剤治療による白血球減少に対して非常に良い治療効果を示すことが報告され、中国医学や漢方で多く利用されるようになりました。

中医学で白血球減少の治療に使われている28種類の処方のうち、黄耆(おうぎ)は21処方、鶏血藤(けいけっとう)は20処方、丹参(たんじん)が13処方、補骨脂(ほこつし)が12処方、当帰(とうき)が11処方という報告があります。
10処方以下の生薬には、女貞子(じょていし)、大棗(たいそう)、枸杞子(くこし)などがあります。(Treatment of granulocytopenia with Traditional Chinese Medicine, Zhongyiyao Yanjiu 1994; 3: 63-64.)


このような生薬を使用した処方は、抗がん剤治療中の患者に使用すると、白血球減少の著明な改善が80%以上で認められるという報告があります。
鶏血藤は補血と駆瘀血作用によって造血作用(特に白血球増加)と血液循環を良くし、さらに鎮痛作用や抗がん作用もあるので、がんの漢方治療に使用頻度が高い生薬の一つです。
この論文の結論には「前向きの二重盲検試験のデータが必要ではあるが、この疫学研究は、急性骨髄性白血病患者における中医薬(漢方薬)治療の有用性に関して現実的な証拠を提供している。年齢や他の予後要因に関係なく、急性骨髄性白血病の標準治療に加えて中医薬治療を併用することによって患者の生存期間を延長できることを、本研究は示唆している。」と記述されています。
つまり、がん患者は、がんの種類や症状や病状に応じた漢方薬治療を併用すると、生存率が2倍以上に上がる可能性があると言えます
乳がんでも有効性が報告されています。

Adjunctive traditional Chinese medicine therapy improves survival in patients with advanced breast cancer: a population-based study.(中国伝統医学による補助的治療は、進行した乳がん患者の生存率を向上させる:集団ベースの研究)Cancer. 2014 May 1;120(9):1338-44

【要旨】
研究の背景:中国伝統医学は、乳がん患者の治療に使用される最も一般的な補完代替的な医薬品の1つである。 しかし、これらの患者にとって最も関心の高い、生存に対する中国伝統医学の臨床効果に関しては、大規模な臨床研究による証明が無い。

方法:著者らは全民健康保険研究データベース(National health insurance research database; NHIRD)を使用して、2001年から2010年までの進行乳がん患者を対象に、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した。患者を中医薬使用者と非使用者に分け、Cox回帰モデルを適用して 中医薬の使用と生存率との関連を解析した。

結果:タキサンを投与された進行乳がん患者729人が対象になった。 このコホートの平均年齢は52.0歳であった。このうち、115人(15.8%)の患者は中医薬の使用者であり、614人の患者は中医薬の非使用者であった。
追跡期間の平均は2.8年間で、10年間に277人の死亡が報告された。
多変量解析では、非使用者と比較して、中医薬の使用は全死因死亡率の有意な低下と関連していることが示された。中医薬の使用が30- 180日間のがん患者では、全死因死亡率の調整ハザード比は0.55 (95%信頼区間:0.33-0.90)であり、180日以上の使用者の全死因死亡率の調整ハザード比は0.46(95%信頼区間:0.27-0.78)であった。
使用頻度の高い生薬の中で、死亡率を減少させるのに最も効果的であることが判明したのは、白花蛇舌草半枝蓮黄耆であった。

結論:今回の観察研究の結果は、中医薬(漢方薬)療法が進行した乳がん患者の死亡リスクを低下させる可能性があることを示唆している。 これらの知見を検証するためには、将来のランダム化比較試験が必要である。

以下は慢性骨髄性白血病の例です。

Adjunctive Chinese Herbal Medicine therapy improves survival of patients with chronic myeloid leukemia: a nationwide population-based cohort study.(中国伝統医学による補助的治療は、慢性骨髄性白血病患者の生存率を向上させる:全国民を対象にしたコホート研究)Cancer Med. 2016 Apr; 5(4): 640–648. 

2000年から2010年の間に診断された慢性骨髄性白血病患者1371人のうち466人を対象に解析しています。年齢、性、都市化の程度、治療内容などをマッチさせた233人づつの1:1のマッチングで比較しています。
その結果、中医薬(漢方薬)治療を受けた群は受けていない群に比べて死亡率のハザード比は0.32(95% 信頼区間: 0.22–0.48,P < 0.0001)と有意に低下することを報告しています。
中医薬服用の効果は用量依存的で、中医薬服用の期間が長いほど死亡率のハザード比が低下することが示されています。
抗がん剤治療のみの群と抗がん剤治療+漢方治療を受けた群の生存曲線(Kaplan–Meier)が以下です。

図:出典論文のFig.2を日本語訳にして改変

この論文では、「十分な訓練を受けた医師によって処方された中医薬(漢方薬)治療は、慢性骨髄性白血病患者を延命させる効果がある」と考察しています。
漢方治療は患者さんの病状や症状や治療の状況に応じて、適切な漢方薬を処方します。したがって、漢方薬の内容は患者さん毎に異なり、また同じ患者さんでも病状や治療の変化によって処方内容を変えます。したがって、ある一種類の漢方薬を使ったランダム化比較試験は漢方治療の考え方からは馴染まないと言えます。

私自身は、がんの漢方治療を長く行なって、漢方治療は症状の改善効果だけでなく、延命効果があることは20年以上前から実感しています。常識的には余命が1年以内と思われるようなステージ4のがん患者さんで、漢方治療だけで数年以上延命することは比較的多く経験します。しかし、そのがん患者さんの余命は誰にも予測できないので、本当に漢方治療が延命に役立ったのかは証明できません。
私が行なっているがんの漢方治療は台湾の方法とほぼ同じです。使う生薬の種類も量もほとんど同じです。(元々が、台湾や中国の処方を真似て始めたので、似ているのは当然です。)
台湾の医療ビッグデータが示している「漢方薬を長く服用しているがん患者さんの死亡率のハザード比が半分以下になる」という結果は、私の20年以上の漢方がん治療の経験による実感と完全に一致するように思います。

なぜ日本ではがん治療の専門家(西洋医学)が漢方治療の併用を認めないのか、不思議としか言いようがありません。漢方治療を併用すればがん患者の生存率は向上するエビデンスは多くあるのですが、日本ではほとんど無視されています。

以下のサムネイルをクリックするとYouTubeの解説に移行します。

https://www.youtube.com/watch?v=WPEFP2LIhP4

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