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757)抗がん剤治療中の新型コロナウイルス感染症の予防のためのイベルメクチン服用の有用性

図:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は心筋や血管内皮細胞を直接的に傷害し(①)、さらに過剰な免疫応答によるサイトカインストームが発生すると炎症性サイトカインなどによって心臓や血管に傷害を起こす(②)。心筋や血管内皮細胞にダメージを与え、微小血管や静脈に血栓を形成し(③)、多臓器不全を引き起こして重症化する(④)。加齢や高血圧や肥満や糖尿病も心臓血管病変を促進する(⑤)。抗がん剤治療は心筋や血管内皮細胞を傷害し(⑥)、免疫力を低下する(⑦)。免疫抑制はコロナウイルス感染を促進する(⑧)。イベルメクチンの予防投与は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を抑制してウイルス負荷を軽減する(⑨)。メラトニンとビタミンD3と漢方薬は免疫力を高める(⑩)。ミトコンドリア機能を高めるジクロロ酢酸、CoQ10、L-カルニチン、R体αリポ酸は多臓器不全への進行を抑制する(⑪)。これらの薬とサプリメントは抗がん剤治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強作用があるので、がん治療に併用するとCOVID-19の発症と重症化の予防にも役立つ。

757)抗がん剤治療中の新型コロナウイルス感染症の予防のためのイベルメクチン服用の有用性

【がん患者はCOVID-19が重症化しやすい】
新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)から分離されたコロナウイルスはSARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)と命名されています。
SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)は日本語では「重症急性呼吸器症候群」と訳されています。つまり、重症の肺炎を引きおこすウイルスです。
SARS-CoV-2に感染しても8割くらいは軽い症状で推移して自然に治癒します。症状が全く出ない人もいます。
しかし、2割くらいは肺炎を発症し、肺炎に進展した患者のさらに一部が、重症化して集中治療や人工呼吸を要する病状になります。
入院を要するような肺炎を約2割という⾼い確率で合併するのが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の特徴です。最近増えている変異ウイルスは、重症化率や死亡率が以前のウイルスより高くなっていることが問題になっています。

高血圧や糖尿病の基礎疾患を持っている人や、高齢者や肥満の人はCOVID-19が重症化しやすいことが明らかになっています。
抗がん剤治療中のがん患者や、抗がん剤治療を受けたことのあるがんサバイバーは、COVID-19が重症化しやすいことが指摘されています。その理由は、抗がん剤治療は免疫力を低下させてSARS-CoV-2感染に対する抵抗力が一般の人より低下していることと、抗がん剤によって心臓や血管にダメージを受けているので、SARS-CoV-2による血管内皮細胞傷害や血栓形成を起こしやすい状況にあるからです。

がん患者は、一般集団と比較して、SARS-CoV-2に感染するリスクが2倍程度増加していると言われています。COVID-19に感染した1,590人の中国人患者を対象としたコホート研究では、それらの1.13%ががん患者/がん生存者であり、中国の全体的な0.29%のがん発生率よりも高いことが指摘されました。
抗がん剤治療を完了して間近な時期に感染したCOVID-19患者は、死亡率が高いことが報告されています
中国の武漢からの研究では、COVID-19を発症した28人のがん患者が合併症について監視されました。それらの54%は重度の合併症を発症し、21%はICU(集中治療室)に入院し、38%は生命を脅かす状態になり、28%が合併症の結果として死亡しました。
がん患者とがん生存者は、免疫不全状態のために重篤な合併症を伴うウイルス感染を発症するリスクが高い可能性が強く示唆されています

【多くの抗がん剤に心臓や血管に対する毒性が認められている】
抗がん剤の副作用としては、白血球や血小板や赤血球が減少する骨髄抑制と、吐き気や下痢などの消化器毒性がよく知られていますが、その他に、心臓、肝臓、腎臓、肺、神経系、血管系などの主要臓器に障害をきたすこともあります。
多くの抗がん剤が循環器系(心臓や血管)に対する毒性を示します。がん治療が心血管系に及ぼす影響は多岐にわたり、心機能障害・心不全、冠動脈疾患、心臓弁膜症、不整脈、高血圧症、血栓塞栓症、末梢動脈疾患、肺高血圧症など、ほぼ全ての循環器疾患の発症あるいは悪化要因となります。

がん治療における心毒性の重要性は、1970年代にドキソルビシン(アドリアマイシン)などのアントラサイクリン系抗がん剤による心筋症の報告によって認識されるようになりました。
ドキソルビシンによる心毒性は、1)投与後数時間以内に発現し、可逆性の不整脈などが主体の急性毒性、2)投与の数日後から数週間以内に発現する心筋炎や心外膜炎などの亜急性毒性、3)投与後数週間から数ヶ月以上して発現する慢性毒性の3種類に分類されます。

一般的には、ドキソルビシンの心臓毒性とは3の慢性毒性を指し、心筋障害による致死的なうっ血性心不全を来すことが知られています。


心臓毒性を示す抗がん剤としては、ドキソルビシン(アドリアマイシン)などのアントラサイクリン系抗がん剤の他に、シクロホスファミド、5-フルオロウラシル、パクリタキセル、ハーセプチンなども心臓毒性の発現が報告されています。

細胞毒性の強い通常の抗がん剤に比べて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は心臓毒性が少ないと思われてました。しかし、このような新薬でも心臓への副作用が発症することが明らかになりました。
HER2受容体を特異的に阻害する抗体薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)の出現は、増殖性が強く難治性であったHER2陽性乳がんの予後を著明に改善しました。しかし、HER2受容体が心筋細胞にも存在しているため、投与前には予想されていなかった心不全が重大な副作用として明らかになりました。

オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬は多くのがん種で標準治療となりつつありますが、副作用として免疫関連有害事象(immnune-related adverse events)がさまざまな臓器で報告され、頻度は低いものの劇症型心筋炎による死亡例の報告もあります。
新しい抗がん剤が出現すると、さらに新しい作用に合わせた予想できない心毒性が出現する可能性があり、多くの抗がん剤で心臓に対する副作用が問題になってます(下図)。

図:多くの抗がん剤治療や放射線療法は循環器系に様々な毒性を示し、心不全や高血圧や虚血性心疾患や不整脈や心膜疾患や弁膜症などを引き起こす。

【血液は凝固する】
通常、血液は血管内で固まることはなくスムーズに流れています。しかし、いったん血管が破れると、血液が体外に流れ出てしまわないように止血機構が働いて急速に血液を固めてしまいます。
この止血機構で活躍するのが血液細胞の血小板と血漿蛋白質のフィブリノゲンをはじめとする凝固因子です。
血管が破れると、まず血小板が塊になって血管壁に付着します。凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下します。同時に、血漿中にある凝固因子やカルシウムが作用して血漿中のプロトロンビンをトロンビンに変換します。
さらに、このトロンビンが可溶性(水に溶ける)のフィブリノゲンを不溶性(水に溶けない)のフィブリンに変換します。
フィブリンは細長い線維状の分子で、集まって網目構造をつくり、そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊ができます。破れた血管壁が再生されるまで、この凝血塊が傷を塞いでくれます。血液が固まるまでの時間は通常2~6分です(下図)。

図:血管が破れて出血すると、血液中の血小板が出血部位に集まり、血小板血栓が形成される(一次止血)。血液中の凝固因子が活性化されて網目状のフィブリンができる。フィブリン網が血小板血栓と一緒になって血栓として傷口を塞ぐ(二次止血)。

血液が凝固する反応は、ある凝固因子を活性化し、活性化された凝固因子がまた別の凝固因子を活性するという、いくつかの反応が次々と連鎖的に起こります。血管破綻という引き金により凝固因子が連鎖反応のように次々と活性化されるのです(下図)。

図:止血の過程には、12種類の凝固因子が関与している。第Ⅳ因子はカルシウムイオンで、それ以外はタンパク質。これらの凝固因子は次々に反応を引き起こして、最後にフィブリノゲンからフィブリンの網の膜を作って血小板血栓を覆い固めて、二次止血が終了することになる。

【がん患者は血液凝固能が亢進している】
正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子のはたらきにより、血液は凝固しないような仕組みをもっています。
しかし、がん患者では血液凝固能が亢進し,血栓塞栓症を起こしやすくなっていることが知られています
がん患者は非がん患者に比べて、静脈血栓症の発生率が約6倍という報告があります。がんで死亡した患者の50%くらいに剖検で静脈血栓症が見つかるという報告もあります。
フランスの著明な神経内科医のトルーソー(Armand Trousseau)が1865年に悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳卒中症状(多発脳梗塞)を生じる病態を報告し、Trousseau 症候群と呼ばれています。
原因となる悪性腫瘍は固形がんがほとんどで,そのなかでも婦人科腫瘍が多く,ほかに肺がん,消化器がん,腎臓がん,前立腺がんなどが知られています。
組織学的には腺がん,特にムチン産生性腺がんが多いと報告されています。

がん細胞が血液凝固系を活性化させる機序としては
1)がん細胞が凝固促進物質を産生・放出したり、腫瘍細胞膜表面に露呈する
2)がん細胞の壊死により、凝固促進物質が放出される
3)がん細胞やマクロファージなどの炎症細胞がサイトカイン(IL-1,IL-6, TNF-αなど)を誘導し,血管内皮細胞における組織因子の産生を亢進させる
などが考えられます。

凝固促進物質としては組織因子(tissue factor)が最も重要です。
ヒト組織因子は分子量47kDの糖蛋白質で、脂質と複合体を形成して生理作用を発現する膜蛋白質として存在します。
組織因子は,血液凝固VII因子または活性化血液凝固VII因子と複合体を形成して血液凝固X因子や血液凝固IX因子を活性化し、血液凝固反応の開始機構において重要な役割を担っています。
生体内では、多くの組織に広く分布していますが、血管内皮と末梢血液細胞では認められず、血液は組織因子から隔離された状態にあります。
一方、出血時には血管外の常在性の組織因子が止血機序のトリガーとして作用します。
血管内皮細胞と単球・マクロファージはエンドトキシン、IL-1、TNFなどの刺激によって細胞膜表面に組織因子を発現します。
また、がん細胞や白血病細胞なども大量の組織因子を持っています。
がん細胞からは,組織因子のみならず,第X因子を直接活性化するプロコアグラントも放出されます。
さらに、抗がん剤治療は、血管内皮細胞のダメージや炎症性サイトカインの産生を亢進して、血液凝固能の亢進や血栓形成を亢進します(下図)。

図:がん細胞はムチンやシアル酸などの血液凝固を促進する因子を産生して血液凝固因子を活性化する(①)。がん組織内の活性化した単球やマクロファージは組織因子を産生して血液凝固因子を活性化する(②)。活性化した単球やマクロファージは炎症性サイトカインのIL-1, IL-6, TNF-αの産生を亢進する(③)。抗がん剤治療も炎症性サイトカインの産生を亢進する(④)。抗がん剤は血管内皮細胞を傷害する(⑤)。炎症性サイトカインは血管内皮細胞に作用し、組織因子の産生を亢進し血液凝固因子を活性化する(⑥)。活性化した血液凝固因子はトロンビンを活性化し(⑦)、フィブリノゲンからフィブリンを産生して血液を凝固させて血栓を形成する(⑧)。このように、がん患者では血液凝固能が亢進し、血栓ができ易い状況にある。

がん症例における血栓塞栓症増加の原因の1つに抗がん剤の進歩とその使用量の増加が挙げられます。
血栓塞栓症を多く併発する代表的薬剤として殺細胞性抗がん剤ではプラチナ製剤(シスプラチン)やタキサン系抗がん剤が知られています。
分子標的薬では多くの薬剤で血栓塞栓症を合併しますが、特に血管新生阻害薬や多標的チロシンキナーゼ阻害薬に多く合併します。血管新生阻害薬は、血管内皮細胞を標的としており血管内皮障害とともに血栓症を発症します。
また、多発性骨髄腫症は疾患そのものが血栓塞栓症を多く合併する上に,治療薬である免疫調節薬(サリドマイドやレナリドマイド)やプロテアソーム阻害薬にステロイド剤を併用することでその頻度がさらに増加します。
がん患者には播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の合併も多いことが知られています。
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、血液凝固反応系の過剰な活性化が生ずるため、全身の細小血管内で微小血栓が多発して臓器不全や出血傾向のみられる予後不良の病気です。
さらに、がん患者における血栓形成の亢進は 腫瘍の増殖・浸潤・転移にも影響を及ぼすことが指摘されています。
がん細胞は種々の血小板凝集物質を放出し、血栓形成や凝固亢進状態を促進し、がん細胞自らを巻き込んだ形で血栓を形成することにより、血行性転移を助長しています。

【がんサバイバーは静脈血栓症の発症率が高い】
がんから回復した患者(がんサバイバー)に、がん治療からかなり時期を経て静脈血栓症が多発することが指摘されています。
代表的ながん20種について英国の権威あるデータベースであるUK Clinical Practice Research Datalinkを用い、がんサバイバー約10万人と、年齢・性別をマッチさせた約52万人の対照(コントロール)において心血管疾患の発生を25年にわたって追跡した大規模疫学研究が報告されています。

Medium and long-term risks of specific cardiovascular diseases in survivors of 20 adult cancers: a population-based cohort study using multiple linked UK electronic health records databases(20種の成人がんの生存者における特定の心血管疾患の中長期リスク:複数のリンクされた英国の電子健康記録データベースを使用した集団ベースのコホート研究)Lancet. 2019 Sep 21; 394(10203): 1041–1054.

過去数十年で、がんの生存率は顕著に改善してきました。生存期間が延長するに従い、がんサバイバーの長期的な心血管リスクについての懸念が指摘されています。
この研究では、血液、食道、肺、腎、卵巣等のがんサバイバーで心不全や心筋症のリスクが増加することを明らかにしています。
静脈血栓塞栓症のリスクは、対照群と比較して、20種類のがんのうち18種のサバイバー群で増加していました。補正ハザード比(aHR)の範囲は、前立腺がん患者の1.72(95%信頼区間[CI]:1.57~1.89)から、膵臓がん患者の9.72(95%CI:5.50~17.18)にわたっていました。aHRは経時的に減少したものの、診断後5年以上増加が続いていました。
つまり、抗がん剤治療中だけでなく、抗がん剤治療を受けたがんサバイバーも数年以上にわたって静脈血栓症を起こしやすい状況にあるということです。

【COVID-19は血栓症の発生率が高い】
SARS-CoV-2感染は、全身性および呼吸器系の病変を誘発します。COVID-19の最も一般的な症状は、高熱、乾いた咳、匂いと味覚の喪失、喉の痛み、倦怠感、筋肉痛などです。重症化すると死亡する場合もあります。症状の発症から死亡までの期間は、患者の脆弱性に応じて6〜41日の範囲です。
COVID-19は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のため、最初は呼吸器疾患と見なされていました。実際、重症化したCOVID-19の症例では、患者は呼吸困難および低酸素血症を発症し、肺にはすりガラス状の陰影が観察されます。
しかし、最近の研究では、COVID-19は、心臓血管系、中枢神経系、消化器系などで炎症関連の合併症を引き起こす可能性があることが示されています
COVID-19の病状の進行に血管内皮の炎症と血栓形成の関与の重要性が明らかになっています。

COVID-19では炎症性サイトカイン、低酸素、補体活性化など複数のメカニズムを介して血管内皮細胞の活性化と傷害が惹起されます。凝固因子や血小板が活性化し、好中球やマクロファージが集積して炎症が悪化し微小血管血栓症を引き起こします。
さらに、サイトカインストームが発生してインターロイキン(IL)-6などの炎症性サイトカインが免疫細胞から過剰分泌され、マクロファージ由来の組織因子による凝固因子の活性化、血小板の活性化によって微小血栓が形成されます。
実際にCOVD-19の剖検では、高率に動脈・静脈血栓症が認められています。集中治療室(ICU)に入院したCOVID-19患者において全身の動脈・静脈血栓症を認める頻度は31%と高率であり、COVID-19の病態の特徴と考えられています。

Incidence of thrombotic complications in critically ill ICU patients with COVID-19(COVID-19の重症ICU患者における血栓性合併症の発生率)Thromb Res. 2020 Jul;191:145-147.

微小血栓による心筋傷害が死亡リスクの一因になっています。COVID-19による多量の血栓でショックを呈した急性心筋梗塞の症例が報告されています。一方、COVID-19に伴う心筋梗塞患者の約40%は緊急冠動脈造影で責任病変が特定できない微小血栓であるという報告があります。

ST-Elevation Myocardial Infarction in Patients With COVID-19: Clinical and Angiographic Outcomes(COVID-19患者におけるST上昇型心筋梗塞:臨床的および血管造影的転帰)Circulation 2020; 141: 2113-2116

COVID-19は、直接的および間接的に心臓に損傷を与え、微小血管と大血管だけでなく心筋内にも非閉塞性フィブリン微小血栓が高頻度で確認されており、心筋虚血の所見を認めなくても微小血栓は存在すると考えて治療すべきであることが指摘されています。

【抗がん剤治療はCOVID-19による心血管系の病変を悪化させる】
COVID-19患者の主要な予後リスク因子には、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血糖、凝固障害、喫煙、以前の心血管疾患、高血圧、以前の心毒性抗がん療法、および活動性がんが含まれます。さらに、COVID-19に感染したがん患者では、追加の危険因子には、化学療法、放射線療法、骨髄または幹細胞移植などのさまざまな積極的な抗がん治療が含まれます。 
つまり、がん患者あるはがん治療にCOVID-19の重症化と死亡率を高めます
以下のような論文があります。

Anti-cancer Therapy Leads to Increased Cardiovascular Susceptibility to COVID-19(抗がん剤治療は、COVID-19に対する心血管系の感受性を増強する)Front Cardiovasc Med. 2021 Apr 23;8:634291. doi: 10.3389/fcvm.2021.634291.

【要旨の抜粋】
抗がん剤治療は、その細胞毒性によって、急性および長期の心筋傷害を引き起こす可能性がある。
さらにがん患者は、抗がん剤による骨髄や免疫系細胞のダメージのために、免疫力が低下している。したがって、がん患者は一般的に感染症に対する抵抗力が低下し、重症化しやすい
心血管疾患を有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は高い致死率が報告されている。COVID-19は主に呼吸器疾患であるが、不整脈、心筋傷害および梗塞、心不全など、抗がん剤治療に関連する心毒性と同様の心筋傷害症状を示す。
広範な血管損傷と血栓形成により、COVID-19が実際に呼吸器疾患と同じくらい血管疾患である可能性が指摘されている
しかし、がん患者および非がん患者のCOVID-19誘発性心血管損傷を促進する根本的なメカニズムは不明である。
がん患者におけるCOVID-19誘発性心臓損傷と抗がん剤誘発性心臓損傷が、心血管合併症のリスクを相乗的に増加させる可能性がある。
抗がん剤治療と重複するCOVID-19の発症に関連する心臓損傷のメカニズムの解明は、COVID-19に感染したがん患者およびがんサバイバー生存者の治療に役立ち、予後を改善する可能性がある。
この総説では、抗がん剤で治療されたがん患者とがんサバイバーにおけるCOVID-19の有害な心血管リスクを要約する。このレビューは、心臓腫瘍学の分野におけるCOVID-19の影響に関する知識を向上させ、患者の転帰を改善する可能性がある。

【高リスク患者では、発症してからの治療では遅い】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発熱や咳などの症状の発症時には既にウイルス量がピークに達していると言われています。免疫応答が正常であれば、その後ウイルス量は減衰し、症状も改善します。
高齢者が重症化のリスクが高いのは免疫応答が遅く弱いので、ウイルスの増殖を止めることができず、ウイルスによる組織や臓器のダメージが急速に進むからです。
抗がん剤や放射線治療も免疫力を低下させるので、症状が出てから治療しても、有効な抗ウイルス薬が無い状況では、ウイルス量が進行性に増加して、重症化することになります。
また、集中治療室(ICU)に入院するような重症化した症例では、高率に後遺症が発生することが報告されています。つまり、COVID-19で死なないため、後遺症を残さないためには、感染しても重症化しないことが重要です。

免疫力や抵抗力が低下し、ウイルス感染に対する防御機能が低下した状況で重症化を予防するには、早い段階からウイルスの複製を阻害し、感染した個人のウイルス量を減らすことです。
つまり、感染して症状が出る前からウイルス複製を阻害する薬を予防的に服用することが有効です。この目的でイベルメクチンの予防的服用は効果が期待できます。

最近の臨床試験で、イベルメクチンはCOVID-19の初期および軽度の症例で特に有望であると報告されています。イベルメクチンの安全性は極めて高いので、SARS-CoV-2に対する予防的投与の有用性も指摘されています。
COVID-19に対するイベルメクチンの予防的投与の有効性と服用量の考察は前回(756話)解説しています。

【COVID-19の発症予防に漢方治療は有用?】
二千年以上前に記された『黄帝内経(こうていだいけい)』という中国医学の代表的古典の中に、「上等の医者は、既成の病気を治すということよりも、未病を治す」という記載があります。これは中国医学では二千年以上前に予防医学の重要性を認識し,「病気にならないようにする」ことを最高の医療としていたことを示しています。この書物では感染症の予防法も解説しています。
感染症の拡大を防ぐ戦略には2つの方法があります。
一つは「感染源から遠ざかる」ことで、もう一つは「体力や免疫力を高めて病気に対する抵抗力を高める」ことです。
前者の戦略は、感染者を隔離したり、多くの人が集まるところを避けたり、マスクや手洗いなどで感染の機会を減らす方法です。
後者に関しては、西洋医学では、ワクチンを開発して、ワクチンの接種によってウイルスに対する免疫力を高める方法があります。
漢方治療では、感染症に対する抵抗力を高める漢方薬を積極的に使って、感染症を予防する方法があります。

前述の2000年以上前の『黄帝内経』には、疫病(感染症)の予防の目的で「Xiaojin Dan (小金丹)」という処方が記載されています。これが、感染症を予防する目的の漢方治療の最初の記述だと言えます。
その後も、多くの書物で感染症の予防を目的とした処方が記述されています。
中国唐代の医者の孫思邈(そんしばく)は、中国ないし世界史上有名な医学者、薬物学者、薬王とも称され、『備急千金要方』30巻、『千金翼方』30巻の両大著が知られます。これらの書物には、感染症に対しては治療だけでなく予防の観点からの処方も記載されています。

それでは、近代医学において、漢方治療でウイルス感染症が予防できるというエビデンスがあるかということが問題になります。
過去にもウイルス感染症の大流行がありました。例えば、2002年から2003年にかけて中国南部の広東省を起源とした重症な非定型性肺炎の世界的規模の集団発生がおこりました。これは、重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)と呼ばれ、新型のコロナウイルスが原因です。
2009年から2010年にかけては、世界中でH1N1亜型による新型インフルエンザが流行(パンデミック2009H1N1)しました。豚の間で流行っていた豚インフルエンザのウイルスがヒトに感染するようになったことに起因するとされています。
このようなウイルス感染症に対して漢方薬(中医薬)が感染予防に有効かどうかを検討する臨床試験が行われています。
具体的には、感染源に接する(感染患者を診療している)医療従事者を対象にして、感染予防の目的で漢方薬を服用した群と、服用しなかった群で、感染率に差があるかを検討した臨床試験が中国で多数実施されているようです。このような研究によると、漢方薬には感染予防の効果があるという結果が得られています。
以下のような論文があります。

Can Chinese Medicine Be Used for Prevention of Corona Virus Disease 2019 (COVID-19)? A Review of Historical Classics, Research Evidence and Current Prevention Programs.(コロナウイルス病2019(COVID-19)の予防に漢方薬を使用できるか? :歴史的古典、研究エビデンス、現在の予防プログラムのレビュー)Chinese Journal of Integrative Medicine volume 26, pages243–250 (2020)

【要旨】
目的:2019年12月以降、コロナウイルス病2019(COVID-19)が武漢で発生し、中国のほぼ全ての地域に急速に広がった。これに対して、予防のために漢方薬を推奨する予防プログラムが行われた。漢方薬を推奨するための証拠を提供するために、伝統医学の古典的記述と臨床試験の研究をレビューした。

方法:中国伝統医学における感染症の予防と治療に関する歴史的記録、重症急性呼吸器症候群(SARS)およびH1N1インフルエンザの予防に関する漢方治療の臨床的証拠、およびCOVID-19の発生以降に中国の保健当局が発行した漢方治療による予防プログラムを、2020年2月12日までのさまざまなデータベースおよびWebサイトから取得した。
研究内容は、伝染性呼吸器ウイルス疾患の予防に漢方薬を使用した臨床試験、コホート研究、その他の集団研究のデータが含まれていた。

結果:伝染病の流行を防ぐための漢方薬の使用は、予防効果が記録された黄帝内経(Huang Di Nei Jing)で引用された古代中国にまでさかのぼる。 
SARSの予防に漢方薬を使用した3つの研究と、H1N1インフルエンザの予防に関する4つの研究があった。 漢方薬を服用した参加者は、3件の研究でSARSに感染しなかった。
H1N1インフルエンザに関する臨床試験では、漢方薬服用群でのH1N1インフルエンザの感染率は、非服用群よりも有意に低かった(相対リスク0.36、95%信頼区間0.24-0.52)
COVID-19の予防のために、中国の23の省が漢方治療プログラムを発行した。漢方薬使用の主な原則は、気(qi)を強化して外部の病原体から体を保護し、風を分散させて熱を放出し、湿を解消することであった。(The main principles of CM use were to tonify qi to protect from external pathogens, disperse wind and discharge heat, and resolve dampness.)
最も頻繁に使用された生薬には、Radix astragali(黄耆)Radix glycyrrhizae(甘草)Radix saposhnikoviae(防風)Rhizoma Atractylodis Macrocephalae(白朮)Lonicerae Japonicae Flos(金銀花)およびFructus forsythia(連翹)が含まれていた。

結論:歴史的記録とSARSおよびH1N1インフルエンザ予防の臨床試験の証拠に基づいて、中国伝統医学の漢方薬処方は、高リスク集団におけるCOVID-19の予防のための代替アプローチとして有効である可能性がある。漢方薬の潜在的な予防効果を確認するために、前向きで厳密な臨床研究が必要である。

上記の要旨の中の「気を強化して外部の病原体から体を保護し、風を分散させて熱を放出し、湿を解消する(to tonify qi to protect from external pathogens, disperse wind and discharge heat, and resolve dampness.)」は西洋医学的には意味不明です。中医学や漢方の理論・方法論になります。
前述のように、漢方医学的概念の気(=生命エネルギー)を高めて、体の防御力を強化し、入ってきたウイルス(邪)を発散させ、解熱し、体内の水分代謝を良くするというような漢方医学独特の考え方に基づいて治療法です。

SARSの予防に関する臨床研究は、症例対照研究(コントロール研究)が1件とコホート研究が2件報告されています。
症例対照研究は香港で実施され、SARS患者を診療する医療機関の医療従事者(医師、看護師、その他のスタッフ)16,437人(漢方薬投与1063人、非投与15,374人)が対象です。
使用された漢方薬は玉屏風散+桑菊飲+αのような処方です。
漢方薬を服用しなかった対照群では15,347人中64人(0.4%)にSARSが発症し、漢方薬を服用した群では発症者はゼロでした。この差は統計的に有意でした(P=0.035)

玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」は黄耆(おうぎ)・白朮(びゃくじゅつ)・防風(ぼうふう)の三種類の生薬からなるこの処方です。1465年に刊行された処方集の『医方類聚』で掲載されています。
「玉」は玉石をさし、珍しい・貴重の意味で、「屏風」は風邪(外来的な邪気)を防ぐ意味があります。
黄耆(健脾補肺・固表止汗)と白朮(健脾益気)は、胃腸の状態を良くし、栄養摂取を強化し、体力と抵抗力と免疫力を高める効果があります。
防風は表に行って、風邪(ふうじゃ)を駆除します。つまり邪を除く作用です。
黄耆・白朮の益気と、防風の去邪によって、「体の防御力を強化し、入ってきたウイルス(邪)を発散させる」という考えです。常に発汗しやすく、風邪にかかりやすい虚弱な体質の人に適します。

桑菊飲(そうぎくいん)の構成生薬は杏仁、連翹、薄荷、桑葉、菊花、桔梗、甘草、葦根です。風熱の邪が肺を侵犯し、咳嗽が生じ、微熱、軽度の口渇を呈する状態に使います。

2件のコホート研究はいずれも北京で実施され、サンプルサイズは3561人と163人でした。それぞれ、SARSの患者を治療している病院の医療スタッフが対象です。
予防目的での漢方薬の服用期間は1件が6日間、もう一つが12〜25日間でした。
使用した漢方薬は玉屏風散にいくつかの清熱解毒作用のある生薬を加えた内容でした。(classical formula Yupingfeng Powder plus some heat-clearing and detoxifying herbs.)
この漢方薬を服用した医療スタッフの中にSARSを発症したものはいなかったという結果でした。
H1N1インフルエンザの流行のときも、感染者の治療に従事する医療スタッフを対象に臨床試験が4件実施されています。ランダム化比較試験が3件、非ランダム化比較試験が1件です。
使用された漢方薬はSARSの場合とは異なり、いくつかの種類が使われていますが、これら4つの臨床試験をメタ解析すると、H1N1インフルエンザの発症率は漢方薬服用群がコントロール群に比べて有意に低い結果でした(相対リスク=0.36、95%信頼区間:0.24-0.52,)

イベルメクチンの予防投与は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を抑制してウイルス負荷を軽減できます。
さらに、漢方薬やメラトニンやビタミンD3は免疫力を高めることによって感染症に対する抵抗力を高めます。さらに、ミトコンドリア機能を高めるジクロロ酢酸、CoQ10、L-カルニチン、R体αリポ酸などの日頃からの服用は多臓器不全への進行を抑制します。
これらの薬とサプリメントは抗がん剤治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強作用があるので、がん治療に併用するとCOVID-19の発症と重症化の予防にも役立ちます(トップの図)。

再利用薬(転用薬)を使ったがん治療においてイベルメクチンは数年前から話題になっています(673話参照)。
当院でも2年くらい前からイベルメクチンをがん治療に使用しています。今まで100人以上に使用し、半年以上の長期服用者も10人以上経験していますが、副作用はほとんど経験しません。ある程度の抗腫瘍効果を経験しています。
新型コロナウイルスの治療薬としては1年くらい前から話題になっています。(695話参照)
有効性に関しては「まだ十分なエビデンスがない」ということで否定的な意見も多いのですが、最近の論文では、臨床試験で有効性を認めた報告が多いようです。(756話参照
私自身の経験(コロナ感染後に服用した患者さんからの情報)でも、効いているようです。
問題は、イベルメクチンは消化管からの吸収が悪い点です。薬が体内(血中)に入らなければ、ウイルスにもがん細胞にも効きません。吸収を良くする工夫を行うと、がんにもCOVID-19にも良く効きます。
吸収を良くする工夫は756話の最後の部分に解説しています。

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