350)米国で膵臓がんが急増している理由:肥満と果糖?

図:米国では1980年代から肥満が年々増えており「肥満の流行(Obesity Epidemic)」と言われる状況にある(①)。肥満増加の原因の一つが1980年代から急激に摂取量が増えている高果糖コーンシロップ(high-fructose corn syrup: HFCS)と言われている(②)。肥満の増加に合わせて糖尿病の患者数も急激に増えている(③)。果糖はがん細胞の増殖を促進し、肥満によるインスリン抵抗性に起因する高インスリン血症と、糖尿病による高血糖はいずれも膵臓がんの発生リスクを高める。米国では年齢調整死亡率で比較すると、多くのがんが減少しているが、膵臓がんは男女とも増加している。現在、米国ではがん死の原因として膵臓がんは男女とも4位に位置するが、数年後には2位になると推定されている(④)。肥満や糖尿病や果糖の過剰摂取が膵臓がんの発生リスクを高めることと、治療成績が他のがんに比べて極端に低いことが主な理由である。

350)米国で膵臓がんが急増している理由:肥満と果糖?

【米国では多くのがんは減っている】
日本や米国のような先進国では、1年間のがんの発生や死亡の絶対数は増えています。これは、人口の高齢化が原因です。(日本人の女性の乳がんは高齢化とは関係なく、年齢調整罹患率も死亡率も増加しています。出産回数の減少や初潮年齢の低下、閉経年齢の上昇、不規則な生活など高齢以外の要因が乳がんリスクを高めているためと思われます)
日本の場合、数年前(2008年)から人口が減少しているので、いずれがんの発生や死亡の絶対数は減ってくるはずですが、それは30年くらい先の話です。総人口は減っても65歳以上の高齢者の絶対数は2045年頃まで増え続けると予測されているからです。
国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口』によると、65歳以上の人口は2013年の約3000万人から2043年の約3650万人まで増え続け、それ以降は減少するということになっています。
がんの種類による罹患率や死亡率の年次推移を比較するとき、年齢調整した罹患率や死亡率で比較されます。
年齢調整(age-adjusted)というのは、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせて補正した値で、年齢調整した(同じ年齢構成と仮定して計算した)数値を比較することによって、高齢化などの年齢構成の変化の影響を取り除くことができます。
日本では昭和60年の人口構成が基準にされることが多く、米国では2000年の人口構成が基準にされることが多いようです。
さて、年齢調整死亡率で比較すると、最近は日本も米国もがん死亡率は減少しています
日本の場合、年齢調整の罹患率(1年間にがんが発生する率)は、男性では「1990年代前半まで増加しその後横ばい、2000年前後から再び増加」、女性では「1990年代前半まで増加しその後横ばい、2000年前後から再び増加」となっています。このようにがんの発生数は増えていますが、検診や治療法の進歩によって、早期に見つかるがんが増えたことと、治療成績がよくなったので、年齢調整死亡率で比較すると、男性では「1980年代後半まで増加し、1990年代後半から減少」、女性では「1960年代後半から減少」しています。
米国では、全がんの年齢調整死亡率は下図に示すように、男性では1990年以降、女性では1991年以降、減少しています。
2000年から2009年の間のがんによる死亡率の低下は男性で年平均1.8%、女性で年平均1.4%です。全がん死亡率がピークの年(男性で1990年、女性で1991年)に比べて、最近では男性で20%程度、女性で15%程度の減少が見られている。この期間(2000年~2009年)の男性のがん全体の発症率は年間平均0.6%減少していますが、女性のがん発症率はほぼ一定です。 

 図:米国における全がんの年齢調整死亡率(10万人あたりの全がん死亡数)の年次推移。米国では1990年頃からがんの年齢調整死亡率は減少している。 

【がん死亡率が低下する理由】
がんの発生率があまり変化していない(あるいはわずかな減少)状況で死亡率が顕著に減少するのは、診断法の進歩で早期に見つかるがんが増えてきて根治率が上昇したことと、治療法の進歩によって治療成績が向上したことが主な理由と言えます。
例えば、全がんの5年生存率は1970年代は50%程度でしたが、最近では65%に向上しています。日本でも最近の全がんの5年生存率は65%という数字になっています。
また、男性におけるがん発生率の低下には喫煙率の低下も大きく関与しています。
1950年代に、喫煙が肺がんや心血管疾患のリスクを高めることが明らかになり、喫煙率を減らすキャンペーンがおこなわれました。すなわち、公共の場での喫煙制限や、たばこ税の引き上げ、たばこへのアクセス制限、たばこが健康に与える害に関する啓発などが精力的に実施された結果、米国では1日当たりのたばこ消費量は、男性では1970年代を、女性では80年代をピークにして、その後はともに減少の一途をたどっています。最近では喫煙率は男女とも20%前後で、1970年代の半分以下になっています。
その結果、肺がんは男性では19990年頃、女性では2000年頃をピークにして減少しています。(下図)
タバコという発がん要因が減ってから肺がんの減少という結果が現れるまで20年くらいかかっています。これは一般にタバコによる肺がん発生には20年以上かかるという事実とも一致します。

 

図:タバコの消費量は1970年ころをピークにしてそれ以降は減少している。タバコの消費量が減少して20年くらい経過してから肺がんの死亡率も減少している。 

【高フルクトース・コーンシロップと肥満と糖尿病】
米国ではこの30年間で肥満(BMIが30以上)は2倍以上、小児の肥満や成人の高度の肥満(BMI35以上)は3倍になっています。
米国の人口の3分の1が肥満(BMI30以上)、3分の1が過体重(BMIが25~30)です。(下図)

 

日本ではBMIが30以上は人口の3%程度で、日本肥満学会では、BMI25以上を肥満にしていますが、米国ではBMI25以上はオーバーウェイト(overweight:過体重)で30以上を肥満にしています。日本と同じ基準にすると人口の70%が肥満に分類されてしまいます。
この「肥満の流行」と形容される急激な肥満の増加の原因として最も可能性が高いのがフルクトース(果糖)の過剰摂取と言われています。とくに、高濃度のフルクトースを添加したコーンシロップ(高果糖コーンシロップ:High-Fructose Corn Syrup; HFCS)の摂取量が1970年代以降、急激に増えており、これが米国における肥満と糖尿病の増加の元凶だという意見が研究者の間ではコンセンサスになっています。
その事実が認識されるようになったため、最近は高フルクトース・コーンシロップの消費は減少傾向にありますが、しかし、業界団体の政治的圧力で、規制されるまでには行っていないようです。

 

【米国では膵臓がんが増えている】
喫煙率やタバコの消費量が1970年頃から急激に減少し、肺がんの死亡率は1990年頃から急激に減少しているので、タバコのような発がん要因が無くなって、それががんの発生率や死亡率の低下に反映されるのに20年くらいかかることを意味しています。
逆に、なにか新しい発がん要因が加わると、その影響(がんの発生率や死亡率が増えること)は20年後くらいしてから出てくるということになります
前述のように、米国では、1990年代に肥満や糖尿病が急激に増加しているので、肥満や糖尿病によって発生リスクが高まるがんの発生率は2010年ころから上昇する可能性があります
その代表が膵臓がんのようです。実際、米国では膵臓がんが少しづつ増えており、その状況を危惧する意見が増えています。
肥満や糖尿病では多くのがんのリスクが高まるのですが、多くのがんは診断法や治療法の進歩の恩恵を受け、発生率が上昇しても死亡率は減っています
しかし、難治性がんの代表である膵臓がんは、いまだに5年生存率は一桁(日米とも6%程度)という状況で、発生数と死亡数がほぼイコールというがんなので、特に膵臓がんの死亡率の上昇が目立ってくるというわけです。
米国における膵臓がんの発生率はがんの中では10番目ですが、死亡率では男女とも4番目です。男性では、肺がん(28%)、前立腺がん(10%)、結腸直腸がん(9%)、膵臓がん(6%)の順です。女性では、肺がん(26%)、乳がん(14%)、結腸直腸がん(9%)、膵臓がん(7%)です。
このうち、診断法や治療法の進歩やその恩恵によって、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、前立腺がんによる死亡率(年齢調整)は1990年以降確実に減少(20~40%程度)しています。
しかし、膵臓がんは、1980年ころから最近までほぼ一定でしたが、最近は年齢調整した発生率も死亡率も少しづつ上昇しています。そして、将来的にさらに上昇を続けることが予想されています。
2004年から2008年の間に膵臓がんの発生率は年平均で男性は1.8%上昇、女性で1.4%の上昇が認められました。
2010年から2030年の間に膵臓がんの発生率(罹患率)が55%増加するという推定があります。
そして、2015年には死亡率で肺がんに次いで2位になることが予想されています。
米国は、禁煙の達成によって肺がんを含め多くのがんの発生率を減らすことに成功しましたが、肥満の流行(Obesity Epidemic)によって、別のがんの発生が問題になってきたという事です。したがって、最近のがん研究の分野でも、メタボリック症候群や肥満や糖尿病とがんとの関連が重視されています。
がんの治療に糖質制限やケトン食が検討されている背景もそこにあります。

【膵臓がんは「難治性がん中の難治がん」】

日本も米国も最近のデータでは、がん全体の5年生存率は65%前後です。全ての臨床病期を合わせた平均の5年生存率は、前立腺がんや乳がんや甲状腺がんは90%を超えており、胃がんや大腸がんや子宮頚がんは70%程度、食道がんや肺がんや肝臓がんは30~40%程度、胆のう胆道がんは20%台、膵臓がんは6%程度となっています。(全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率の表より:http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/seizonritu.html)
現在日本で膵臓がんで亡くなる人の数は年間28000人を超えています。男性では肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんについで5番目に死亡数の多いがんです。
膵臓がんの罹患者数も死亡者数も年々増加していますが、その罹患者数と死亡者数がほとんど同じであることは、膵臓がんと診断された人のほとんどが数年以内に死亡していることを意味しています。
実際に、膵臓がんの生存期間中央値は局所進行癌では 8―12 ヵ月、転移癌では 3―6 ヵ月といわれており、他のがんに比較して非常に治療成績の悪いがんです。

15~20% の膵臓がん患者が根治可能ということで手術がなされていますが、残りの大半は局所で進行しているかあるいは転移している症例です。

切除できない場合は抗がん剤治療が行なわれますが、多くは2年以内に亡くなり、切除できても5年生存率は約10%と極めて低く、予後は極めて不良の「難治性がんの中の難治がん」と言われています。

ステージI(がんが2cm以内で膵臓内にとどまり、リンパ節転移の無いもの)にように早期の段階で見つかって手術を受けた場合は、50%前後の5年生存率が報告されていますが、このような早期の症例は膵臓がん全体の1割以下です。
膵臓がんの多くは、がんが近くの重要な血管や他臓器にも浸潤し、遠くのリンパ節や肝臓や腹膜に転移を認める進行した段階で見つかっており、このような場合は、5年生存率は5%以下と極めて悪い成績が報告されています。

乳がんの治癒率が高いのは、乳房の解剖学的特性から、自分で気づくことも多く、マンモグラフィーなど早期診断のために有効な検査法があるからです。
さらに、切除手術は比較的簡単で、ホルモン療法や分子標的薬や、奏功率の高い抗がん剤、放射線治療など、有効な治療法が多く用意されていることも、治癒率を高める要因になっています。

膵臓がんは全くその逆です。すなわち、解剖学的特徴によって早期診断と手術が極めて困難です。膵臓は胃の裏側にあって背骨に巻き付くように横たわり、小腸や大腸に近接して隠れているために、検診などで早期に見つけようとしても、超音波やCT検査などの画像検査による早期発見が困難です。

膵頭部癌では黄疸で発症するため腫瘍が比較的小さい段階で見つかる場合もありますが、膵体部や尾部では、かなり大きくなるまで症状がでないため発見が遅れます。

症状として腰痛や腹痛が自覚されるときには、かなり進行した段階であり、症状が出て見つかった場合は、余命1年以内というのがほとんどです。

さらに、大きな血管や神経や胆管と接しているため、切除するためには、複雑で高度な手術技術が要求されます。

がん細胞の性質としては、浸潤傾向が高いがんで、神経に沿って浸潤性に広がります。
胃腸管の場合は、粘膜層、固有筋層、奨膜と行った組織が、がん細胞が他の臓器や腹膜へ直接浸潤する際のバリアになっていますが、膵臓にはこのような臓器壁のバリアがないため、発生した膵臓がんはすみやかに連続性に膵臓内および周囲組織に進展・浸潤しています。
したがって、根治手術を行なったつもりでも、術後に、高率に局所・肝・腹膜などに再発転移を起こします。
膵臓がんは抗がん剤や放射線の感受性が低い(効果が弱い)ので、根治手術ができなければ、予後は極めて厳しくなります。

以上のような多くの理由で、膵臓がんは治療成績が極めて悪く、今後も改善する余地は少なく、発生数が増えれば、そのまま死亡率の増加に繋がります
米国では2013年の膵臓がんの発生数は約45000人で死亡数は約38500人です。2030年には膵臓がんの死亡数は88000人を超えることが予想されています。

【フルクトース(果糖)は膵臓がんの発生を促進する?】
果物に多く含まれる単糖の果糖(フルクトース)ががん細胞の増殖を促進する可能性については329話で解説しています。
果糖はグリセミック指数が低く、インスリン分泌を刺激しないので、グルコース(ブドウ糖)よりも健康的と考えられてきたのですが、細胞内で複数の経路で解糖系へ入り、グルコースと同様にエネルギー産生や物質合成に使用されます。
さらに、フルクトースはグルコースより核酸(DNAやRNA)と脂肪酸の合成を促進する効果が強いことが報告されています。
また、細胞内の糖タンパク質にフルクトースが取込まれると、その糖タンパク質の性状が変化し、がん細胞の浸潤や転移能が亢進するという報告もあります。
動物実験などで、フルクトースの摂取量を増やすとがん細胞の増殖が促進する結果が得られています。フルクトースはグルコースのインスリン分泌刺激を増強するという報告もあるので、果糖とグルコースを一緒に大量に摂取すると、肥満やがんの発生を促進する可能性が指摘されています。
したがって、果物に含まれる糖分(ブドウ糖と果糖と蔗糖が多い)は、デンプン(ブドウ糖が多数結合したもの)が主体のご飯やパンよりもがんを促進する作用が強いという意見もあります。
以下のような総説論文があります。要旨の部分を日本語訳しています。

Fructose consumption and cancer: is there a connection?(フルクトースの消費とがん:関連があるのか?)Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2012 Oct;19(5):367-74.
【要旨】
この総説の目的:がん細胞の代謝の特徴は、グルコースの取込みと嫌気性解糖系が亢進していることである。先進工業国では砂糖の消費量が急激に増加しており、米国では過去30年間に特に精製した果糖(フルクトース)の消費が非常に増えている。
フルクトースは解糖系においてグルコースの下流に入り、2つの律速段階をバイパス(迂回)することによって、解糖系においてグルコースに代わる炭素源になる。
解糖系ががん細胞の増殖に必要なエネルギーを供給する主要な代謝経路であることから、解糖系におけるグルコースとフルクトースの取込みや代謝調節に関してまとめ、さらに、フルコトースががん細胞の増殖を促進するメカニズムを支持する疫学的あるいは実験的なエビデンスがあるかどうかを考察する。
最近の知見:フルクトースの摂取は、膵臓がんと小腸がんの発生リスクの上昇と関連しており、他のがんについても関連する可能性がある。フルクトースはペントース・リン酸経路での代謝を促進し、タンパク質合成を亢進して、間接的にがん細胞の増殖を促進する。培養細胞を使った実験では、フルコトースの投与によってがん細胞の悪性度と転移が促進されることが示されている。
まとめ:細胞の増殖においてはグルコースが中心になるが、さらにフルクトースもタンパク質合成を促進するなどのメカニズムによってがん細胞の増殖や浸潤といった悪性の形質を促進する可能性がある。
フルクトースは我々の食事において摂取量が増えており、特に10代や若い成人において摂取量が最も多い。したがって、フルクトースの過剰摂取による健康上の問題点や、慢性疾患の発生における役割を明らかにすることが極めて重要である。

フルクトースの摂取量と膵臓がんの発生率との間に関連がある可能性が疫学研究のメタ解析で示唆されています。以下のような論文があります。

Dietary fructose, carbohydrates, glycemic indices and pancreatic cancer risk: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.(食事中のフルクトース、炭水化物、グリセミック指数と膵臓がんのリスク:コホート研究の系統的レヴューとメタ解析)Ann Oncol. 2012 Oct;23(10):2536-46.
食事からの炭水化物の摂取量やグリセミック負荷やグリセミック指数が膵臓がんの発症リスクに影響すると考えられていますが、その関係を検討した疫学研究の結果は必ずしも一致していません。
そこで、この論文では、2011年9月までに発表された論文の中から、膵臓がんのリスクと炭水化物の摂取量やグリセミック指数やグリセミック負荷の関係を検討した10件の前向きコホート研究(13の論文に報告)のメタ解析を行っています。
炭水化物の摂取量やグリセミック指数やグリセミック負荷と膵臓がんの発症リスクの間には関連は認められませんでした。しかし、フルクトースの摂取量が膵臓がんのリスクが高くなることが認められています。
すなわち、1日25gのフルクトース摂取につき膵臓がんのリスクが1.22倍(95%信頼区間:1.08-1.37)になるという結果が得られています。1日50g摂取で約1.5倍程度に発がんリスクが増える計算です。

現在、米国では、フルクトースの摂取量は一人当たり1日に100グラム近くを摂取しているようです。
(グリセミック指数やグリセミック負荷については310話を参照)
さらに、果糖が多いとがん細胞内でトランスケトラーゼという酵素が誘導され、解糖系から分かれて核酸(DNAやRNA)合成に必要はペントース・リン酸回路を促進するという報告があります。DNAやRNAの合成が促進することはがん細胞の増殖に有利になります。

Fructose induces transketolase flux to promote pancreatic cancer growth(フルクトースはトランスケトラーゼの活性を高めて膵臓がんの増殖を促進する)Cancer Res. 70(15): 6368-76, 2010
この論文の内容についてはMedical Tribune誌に記事になっています[2010年10月28日(VOL.43 NO.43) p.53]。この記事は以下のような内容です。

【Medical Tribune 2010年10月28日号】
果糖もエネルギー源
膵がん細胞の増殖を加速〔ロサンゼルス〕 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ジョンソン総合がんセンター内科・神経外科のAnthony Heaney准教授らは,膵がんは欧米の食事にごく普通に含まれている単糖類の果糖(フルクトース)を利用して,細胞分裂の発生に重要な分子経路を活性化し,がん細胞の増殖を加速させることが示唆されたとCancer Research(2010; 70: 6368-6376)に発表した。

 摂取量急増で問題が明らかに
筆頭研究者のHeaney准教授は「がんが単糖類のブドウ糖(グルコース)を用いて増殖を促進することは既に知られているが,果糖とがん増殖との関連が示唆されたのは今回が初めてである」と述べている。
さらに「現代の食生活では果糖を含めた精糖を大量に摂取することが肥満や糖尿病,脂肪肝など多くの現代病の隠れた危険因子となっている。このような中,今回の研究は,膵がんが増殖の促進にブドウ糖だけでなく果糖を積極的に利用する可能性を示した点で重要である」と指摘している。
欧米食ではショ糖(スクロース)や高果糖コーンシロップ(HFCS),トウモロコシ由来の甘味料(欧米では1970年ころから市販)などが果糖の摂取源となっている。このうち,HFCSは食品や飲料に添加され,カロリー摂取源となる甘味料の40%超を占めており,米国ではソフトドリンクにおける使用頻度が最も高い。
ルイジアナ州立大学Pennington生物医学研究センター(ルイジアナ州バトンルージュ)のGeorge A. Bray博士らがAmerican Journal of Clinical Nutrition(2004; 79: 537-543)に発表した論文によると,米国ではHFCSの消費量は1970年から1990年に1,000%以上増加している。果糖とブドウ糖の混合物であるHFCSを食品会社が好んで用いる理由は,安価かつ輸送が楽で,食品の乾燥を防止できるからである。また,HFCSは少量で強い甘味があり,より高価な甘味料や香料に代えることで,企業は費用効果を高めることができる。

 ブドウ糖と異なる機序で利用
今回の研究では,膵がん患者から摘出したがん細胞をシャーレ上で培養して悪性の腫瘍細胞を増殖させ,これに炭素の同位体で標識したブドウ糖か果糖を添加し,質量分析法により細胞内での糖利用を追跡。糖の使用目的と機序解明を試みた。
その結果,膵がん細胞はブドウ糖と果糖を容易に識別できることが分かった。この二つの糖は構造的に非常に似ているが,従来の説に反して,がん細胞はそれぞれの糖を異なる経路で代謝した。果糖の場合は,トランスケトラーゼが関与する非酸化的ペントースリン酸経路において,がん細胞にとって分化・増殖に必要なRNAとDNAの成分となる核酸の合成に用いられた。
Heaney准教授は「これまでブドウ糖と果糖は相互転換が可能な単糖類担体で,いずれも同様に代謝されると考えられており,ブドウ糖以外の糖はほとんど注目されていなかった。しかし,果糖の摂取量がここ数十年間で劇的に増加する中,細胞はブドウ糖と果糖の取り込みに異なる輸送担体を用いることが分かった。今回の知見は,がん細胞が積極的に果糖を代謝して増殖促進に利用することを示している。食事からの果糖摂取量からすれば,今回の知見はがん患者にとって非常に重要な意味を持つ」と述べている。
さらに「禁煙キャンペーンと同様,政府レベルで精糖摂取量の減量対策を打ち出すべきである。今回の論文は,公衆衛生上多大な意味を持つと考える。政府レベルで食事中のHFCS量を減らす努力がなされることに期待している」と付け加えている。
同准教授は「今回の研究は膵がんを対象に実施したものだが,ほかのがんにも当てはまる可能性がある」としており,今回の知見をさらに推し進め,微小分子を用いてがん細胞の果糖取り込みを阻害し,増殖に必要なエネルギー源の一つを取り除くことが可能か否かを細胞株とマウスで検討中である。

以上のように、果糖(フルコトース)の過剰な摂取は、肥満を促進してインスリン抵抗性を高めて高インスリン血症を引き起こしてがん細胞の増殖を間接的に促進するメカニズムの他に、果糖自体にがん細胞の増殖を直接的に促進する作用があるということです
果糖(フルクトース)はコストの低さと強い甘さによって、食品や飲料に多く使用されています。
果糖は天然に存在する糖の中で最も甘く、特に冷やすと甘味が増す特徴があります。米国では、多くの飲料や食品に甘味料として高果糖コーンシロップが使用され、その摂取量の増加が肥満や糖尿病やいくつかのがんの発生の原因になっている可能性が大きな問題になっています。

【がんに効く食事 がんに悪い食事】
がんの食事療法にはいろんな意見があります。食品とがんの関連を検討した臨床試験の結果も一致しないものが多くあります。最近の疫学研究や臨床試験の結果から、糖質(とくに精製した糖質や果糖)の摂り過ぎの問題が認識されるようになりました。また、脂質に関しては、ω3系不飽和脂肪酸のDHAとEPAが今まで考えられていた以上に、がんの予防や治療に有効であることが報告されてきました。
昔は、野菜を大量に摂取するとかなりの抗がん作用が期待できる様に考えられていましたが、最近の研究結果は、野菜を大量に摂取しても効果は限定的であると考えられるようになっています。
がんの患者さんの中には、砂糖は良くないからと甘い果物やドライフルーツを大量に食べている方が多くいます。しかし、甘い果物は砂糖以上にがんを促進する可能性が最近は指摘されています。
このようながんの食事療法に関する研究の最近の結果をまとめた書籍を出版しましたので、以下に紹介しておきます。

 

『がんに効く食事 がんを悪くする食事』

定価1470円(本体1400円+税)
ISBN978-4-88392-944-3 C0047 192頁 
(目次はこちらへ) 


(膵臓がんの補完・代替医療についてはこちらへ

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