351)魚油サプリメントの抗炎症作用と抗がん作用:最近の臨床試験の結果から

図:ω6系(n-6系)多価不飽和脂肪酸のアラキドンサンはプロスタグランジンE2やロイコトリエンなど炎症性メディエーターを産生して炎症や組織のダメージを悪化させ、がん細胞の増殖を促進する作用を持つ。一方、ω3系(n-3系)多価不飽和脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヒキサエン酸)は代謝されて抗炎症作用を示す多様な脂質メディエーターを産生することによって、慢性炎症や組織のダメージを軽減する効果や、がん細胞の増殖を抑える効果を発揮する。この抗炎症作用や組織保護作用は抗がん剤や放射線治療による正常組織のダメージの軽減や悪液質の改善にも役立つ。食事から摂取したDHAやEPAは細胞膜に取り込まれ、細胞膜脂質二重層中のアラキドン酸と入れ替わるので、DHAやEPAの摂取が多いと炎症やがんの抑制効果が得られる。

351)魚油サプリメントの抗炎症作用と抗がん作用:最近の臨床試験の結果から

がんの治療に様々なサプリメントが利用されていますが、臨床試験での安全性や有効性が証明されたものはごく少数です。
がんの標準治療の副作用軽減や抗腫瘍効果増強の効果が臨床試験で示されているサプリメントとして、魚油DHA(ドコサヘキサンエン酸)EPA(エイコサペンタエン酸)プロバイオティクス(乳酸菌など)やプレバイオティクス(オリゴ糖など)、メラトニンシリマリンL-カルニチンなどがあります。これらは適切に使えば副作用はなく、がん治療の効果を高め、再発抑制や生存期間延長の効果が期待できます。
これらの中でも特に臨床試験の数が多いのが魚油のサプリメントです。最近の論文から魚油とがん治療に関する臨床試験の結果をいくつかを紹介します。

【魚油は炎症を抑え、体重減少を防ぐ】
以下のような論文があります。

Fish oil decreases C-reactive protein/albumin ratio improving nutritional prognosis and plasma Fatty Acid profile in colorectal cancer patients.(魚油は結腸直腸がん患者において、C反応性蛋白とアルブミンの比を低下させ、栄養状態と血清脂質組成を改善する)
Lipids. 48(9):879-88. 2013年
この論文は、結腸直腸がん患者11例を対象に、9週間の抗がん剤治療中に、魚油を1日2g(DHA+EPAは600mg/日)投与した群(6例)と、魚油非投与のコントロール群(5例)で、炎症反応の指標であるC反応性蛋白(CRP)や炎症性サイトカインやアルブミン値や血清脂質を、抗がん剤治療開始前と終了時で測定して比較しています。
魚油のサプリメントを投与された群の患者の血清脂質の値は、コントロール群に比べてEPAは1.8倍、DHAは1.4倍に増加し、アラキドン酸は0.6倍に減少しました。
CRP値およびCRPとアルブミン値の比はともに魚油を投与した群で有意に低下していました。
抗がん剤終了後(9週間後)の体重は、魚油投与群が平均1.2kgの増加に対して、コントロール群では平均0.5gの減少を認めました。
以上のことから、抗がん剤治療中に魚油を1日2g(DHA+EPAで600mg)摂取すると、炎症反応のCRPが低下し、CRP/アルブミン値が低下し、血清脂質の状態を良くし、体重減少を防ぐ効果があることが示されています

この臨床試験は投与群が6例でコントロールが5例と少ないのですが、CRPの値とCRP/アルブミン比の値に統計的に差が出ているので、魚油(DHAとEPA)の投与が抗炎症作用によって、体重減少などの抗がん剤治療による副作用の軽減に役立つことが示唆されます。
CRPとアルブミンは肝臓で産生されます。
C-反応性蛋白(C-reactive protein=CRP)とは、体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりした場合に、血液中に現れる蛋白質の一種です。このCRPは、もともと肺炎球菌という肺炎を起こす菌によって炎症がおこったり組織が破壊されたりすると、この菌のC-多糖体に反応する蛋白が血液中に出現することからC-反応性蛋白(CRP)と呼ばれていました。
しかし、肺炎以外の炎症や組織の破壊でも血液中に増加することがわかり、現在では炎症や組織障害の存在と程度の指標として測定されます。

CRPは炎症に対する生体反応として肝臓から産生されます。細菌感染症や自己免疫疾患(膠原病)、心筋梗塞、肝硬変、悪性腫瘍などにおいて、炎症や組織破壊の程度が大きいほど高値になり、炎症や破壊がおさまってくるとすみやかに減少します。そのため病気の活動度や重症度、あるいは病気の予後を知る指標として使われています。

手術後のがん患者や手術不能のがん患者などを対象に、CRPの血中濃度と予後との関連を検討した報告は多数あり、CRPの血中濃度とがんの進行度やがん患者の予後不良とは正の相関があることが示されています。すなわち、CRPが高いほど、予後が悪い(生存期間が短い)ことが多くの研究で明らかになっています。
CRPそのものは炎症の程度の指標ですが、CRPが高いということは炎症性サイトカインの産生が高い状態で、これはがん性悪液質の原因となり、その結果として低アルブミン貧血の原因になります。
血清アルブミン値が低下する状態を低アルブミン血症と言い、腎臓疾患(ネフローゼ症候群など)で尿中にアルブミンが漏れる場合、肝硬変などの肝機能低下をきたす肝臓疾患によってアルブミンの合成が低下する場合、慢性的な栄養失調などによって起こります。血液の浸透圧を維持できないので、むくみ(浮腫)が起こります。

進行がんや末期がんで低アルブミン血症の起こす原因としては、栄養失調と炎症が重要です。

がんの進行に伴い、正常組織の破壊などによって炎症が起こり、炎症性サイトカイン(IL-1, TNF-アルファ, IL-6など)が多く産生されます。この炎症性サイトカインは肝臓に働きかけてアルブミンの合成を抑制します。炎症性サイトカインは骨髄における造血機能を低下させるため貧血の原因にもなります。つまり、炎症性サイトカインが多量に産生されている状況では、栄養状態を改善するだけでは低アルブミンや貧血の改善は困難です。
がん患者において、CRPが高いほど、またアルブミン値が低いほど、予後が悪いと言えます。したがって、CRP/アルブミンの比が高いほど予後が悪く、低いほど状態が良いと言えます。
DHAやEPAは抗炎症作用によって、CRP/アルブミン比を低下させる作用があるので、抗がん剤治療中や進行がんの状態にDHAやEPAを多く摂取することはメリットがあるということです。
(がん患者の生命予後を決める血清アルブミン値と炎症反応(CRP)については242話参照)
低アルブミンや貧血の改善には、CRPが高い場合は炎症を抑えることが必要となります。その方法として魚油を多めに摂取することが有効だと言えます。

【魚油サプリメントは抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高める】
抗がん剤治療中にω3系(n-3系)多価不飽和脂肪酸のDHAとEPAを摂取すると、抗がん剤の副作用を軽減し、奏功率や生存率などの抗腫瘍効果を高めることができることは多くの臨床試験で示されています。そのような論文は多数あります。そのうち幾つかを以下に紹介します。

Effect of n-3 fatty acids on patients with advanced lung cancer: a double-blind, placebo-controlled study.(進行した肺がん患者におけるn-3脂肪酸の効果:二重盲検プラセボ対照試験)
Br J Nutr. 2012 Jul;108(2):327-33
魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸には抗炎症作用や抗酸化作用があり、がん患者の栄養状態を改善する効果が示されています。そこで、この臨床試験では、手術不可能な進行した非小細胞性肺がんで抗がん剤治療を受けている33例の患者を対象にして、患者の炎症状態や酸化ストレスの程度や栄養状態に対するEPAとDHAの効果を、多施設のランダム化プラセボ対照二重盲検試験にて検討しています。
患者は2群に分けられ、一方のグループには、抗がん剤治療中に510mgのEPAと340mgのDHAを含むカプセルを1日4カプセルを66日間投与し、もう一方のグループ(コントロール群)には850mgの偽薬(プラセボ)の入ったカプセルを投与しました。
抗がん剤治療開始日、8日後、22日後、66日後に炎症状態や酸化ストレスの状態や身体計測値など様々なパラメータ−を測定し、両群で比較しています。
治療開始日と66日後の体重の比較では、n-3脂肪酸投与群で有意な体重増加が認められました。
炎症状態に関しては、C反応性蛋白(CRP)とIL-6のレベルは66日後において両群で有意な差を認め、n-3脂肪酸投与群では抗がん剤治療中も経過とともに炎症所見が進行性に減少しました。これはn-3多価不飽和脂肪酸の抗炎症作用を示しています。
酸化ストレスの状態に関しては、抗がん剤治療が進むにつれて、n-3脂肪酸投与群に比べてプラセボ投与群(コントロール群)で血清の活性酸素種の量が増えました。
脂質過酸化生成物であるヒドロキシノネナール(Hydroxynonenal)の量はプラセボ群では抗がん剤治療の間増加したが、n-3脂肪酸投与群では増加しませんでした。
以上の結果から、EPAとDHAの抗炎症作用と抗酸化作用により、抗がん剤治療中にEPAとDHAをサプリメントで服用することは有用であると言っています。

Supplementation with fish oil increases first-line chemotherapy efficacy in patients with advanced nonsmall cell lung cancer.(魚油のサプリメントは進行した非小細胞性肺がん患者におけるファーストラインの抗がん剤治療の効果を高める)Cancer. 2011 Aug 15;117(16):3774-80. 
ファーストライン」とは、がんの化学療法において、最初に使う抗がん剤のことです。ファーストラインが効かなかったときに使う次の抗がん剤をセカンドライン、その次に使う抗がん剤をサードラインといいます。
進行肺がんにおいて、抗がん剤治療は延命や症状の緩和を目的に行われますが、非小細胞性肺がん患者に対するファーストライン治療の奏功率は30%以下です。
動物実験の研究では、魚油のサプリメントの投与が、副作用を強めずに、抗腫瘍効果を高めることが示されています。
そこで、この臨床試験では、進行した非小細胞性肺がん患者のファーストラインの抗がん剤治療(カルボプラチン+ビノレルビン or ジェムシタビン)に魚油のサプリメントを併用した場合の奏功率と臨床的有用性が、併用しなかった場合と比べてメリットがあるかどうかを比較検討しています。
進行肺がん患者56例が対象で、抗がん剤治療のみ(N=31)と抗がん剤に魚油(EPA+DHAが1日2.5g)を併用した群(n=15)に分けて検討しています。
奏功率(完全奏功CR+部分奏功PR)は魚油併用群が60.0%に対してコントロール群が25.8%で統計的有意(P=0.008)に向上が認められました。
また臨床的有用性(完全奏功CR+部分奏功PR+病状安定SD)は魚油併用群が80.0%でコントロール群が41.9%で、これも統計的有意でした(P=0.02)
1年生存率は魚油併用群で60.0%に対してコントロール群は38.7%でした(P=0.15)
副作用の程度には両群の間に差は認められませんでした。
以上の結果から、抗がん剤治療に魚油(EPA+DHA)を併用すると、抗腫瘍効果を高め生存率を高める効果が期待できるということです。

40例のステージIIIの非小細胞性肺がんの患者を対象に、がん治療中に、蛋白質とカロリーを補給するサプリメントと、それと同じ蛋白質とカロリーでDHA(0.9g/日)とEPA (2.0 g/日))を加えたサプリメントの効果を比べるランダム化試験では、DHAとEPAを含むサプリメントを投与された群は、対象群に比べて炎症性サイトカインのIL-6の産生が低下し、治療中の筋肉や体重の減少がより少ないという結果が得られています。(J Nutr. 140:1774-80, 2010年)
食道がんの手術を受ける53例を対象にして、EPA投与群(手術前5日から手術後21日間、1日2.2gのEPAを補充)28例とコントロール群25例のランダム化二重盲検試験では、EPAを補充した食事は食道がんの手術後の除脂肪体重の低下を防ぐ効果が得られています。手術侵襲によって挫滅した組織で炎症反応がおこり、炎症性サイトカインの産生などが原因となって筋肉や体重の減少が起こりますが、EPAは炎症性サイトカインの産生を抑える作用によって筋肉の異化を抑制し、体重減少を予防します。(Ann Surg 249:355-63, 2009年)
手術前からEPAやDHAを補充した食事の摂取が術後の経過を良くすることは、頭頸部がんや大腸がんなど他のがんでも報告されています。
このように多くの臨床試験の結果は、EPAやDHAのサプリメントはがん治療の効果を高め、副作用を軽減し、悪液質やがん治療に伴う体重減少を防ぐ効果があることを示しています。
DHAとEPAはω6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸と細胞膜への取込みにおいて競合することで炎症性メディエーター(プロスタグランジンE2など)の産生を阻害するだけでなく、DHAとEPAが抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)を生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があります。
炎症はがんの悪化や進展や悪液質を促進します。DHAやEPAは、炎症を悪化させる因子(プロスタグランジンや炎症性サイトカインなど)の産生を抑制し、炎症を収束させる因子の産生を増やすことによって、がんの悪化や進展を抑制する効果、正常組織や臓器をダメージから保護する効果、体重減少や栄養状態の悪化を防ぐ効果、免疫力を高め感染症を予防する効果、外科手術後の合併症を予防する効果などが発揮します。
このような多くの臨床試験の結果から、1日2~3グラム程度のDHAとEPAのサプリメントは、抗がん剤や放射線治療の治療中や、手術の前後に摂取して問題なく、栄養状態を改善する効果が期待できます。
ただし、食事からω6系不飽和脂肪酸を取り過ぎると、ω3系不飽和脂肪酸をサプリメントで補う効果が低下するので、日常の食事でもω6系不飽和脂肪酸を減らし、ω3系不飽和脂肪酸の多い食品を摂取することが大切です。
DHAやEPAは過剰に摂取すると、血液凝固能が低下して出血しやすくなる副作用があるので、手術や抗がん剤治療中の場合は、過剰摂取に注意が必要です。

【がん治療におけるサプリメントの役割とは】
抗がん剤治療の奏功率を高め、副作用を軽減する方法があれば、それはがん患者の生存期間を延ばすことができます。抗がん剤治療に限界や欠点がある以上、足りない部分をサプリメントなどで補ってみたら、ということはだれでも考え付く発想です。
治療を受けているがん患者さんや緩和ケアを受けている進行がんの患者さんの多くが、栄養素の不足、体力や免疫機能や抗酸化能の低下、血液循環や消化吸収機能の障害など多くの問題を抱えており、これらの問題を減らすことが、治療効果を高め、症状を改善してQOL(生活の質)を高め、生存率の向上に有用であることは常識的に納得できます。
抗がん剤や放射線治療は正常組織の障害や体力や抵抗力の低下を招く欠点があります。さらに、多くの抗がん剤や放射線はフリーラジカル(反応性が高まって他の物質を酸化する原子や分子)を発生し、正常組織にダメージを与え、DNA変異を引き起こすため発がん性があり、その結果、放射線治療と抗がん剤治療の晩期後遺症(副作用)として新たな別のがんが発生することもあります。これを2次がんと言います。体力や免疫機能の低下はがんの再発や転移のリスクを高め、感染症を引き起こす原因にもなります。
このようながん治療に伴う体力や免疫機能の低下を改善するために、栄養素の補充や滋養強壮・免疫増強・抗酸化などの作用を有するサプリメントの適切な使用は有用であると考えられます。
がん患者さんがサプリメントを使用する目的として、がん細胞に対する直接効果を期待する方が多いようです。腫瘍血管の新生を阻害したり、がん細胞を直接殺す効果を期待させるような「抗がんサプリメント」も販売されていますが、このような効果は培養細胞や動物実験での結果であり、人間での抗腫瘍効果や安全性が保証されたものは現時点では皆無といっても過言ではありません。
がん治療後の再発予防や、抗がん剤や放射線治療の副作用の軽減、食欲不振や胃腸障害や倦怠感などの自覚症状を改善する効果に関しては、臨床試験で有効性が認められたサプリメントは数多くあります。進行がんにおいても、栄養状態を改善し、体力や抵抗力を高め、体調の良い状態で延命させるという目的では、適切なサプリメントの利用は効果が期待できます。
手術や抗がん剤や放射線治療は正常な組織や臓器にもダメージを及ぼし、その結果、体力や抵抗力の低下、感染症などの合併症の原因になります。副作用が強いと治療を中止せざるを得ません。また体力や免疫力が低下すれば転移や再発を促進することにもなります。
体力や免疫力を高め、ダメージを受けた組織の回復を促進するサプリメントなどを利用すれば、副作用を軽減し、転移や再発の予防につながります。抗がんサプリメントは、それだけでがんを縮小させる効果を期待するのではなく、通常治療の欠点を補うことを目標にすることが大切です(下図)。

 

図:がん治療中のサプリメントの使用は、がんの通常治療の欠点を補うことによって、抗腫瘍効果を増強し、副作用を軽減し、感染症や転移や再発や2次がんの発生を予防することを目標にする。

 
【がん治療と併用して有効なサプリメントとは】
抗がん剤治療の副作用(食欲や体力の低下、倦怠感、免疫力の低下、骨髄抑制など)の緩和や、抗腫瘍効果の増強を目的にして、多くのがん患者さんが様々なサプリメントを利用しています。
昔は、「免疫力を高める」という宣伝でアガリクスやマシマコブやレイシなどのキノコの抽出物やその活性成分と考えられているβグルカンを使ったサプリメントが多く利用されていました。
最近は、「がん細胞にアポトーシスを誘導する」という宣伝で、フコイダンやレスベラトロールやクルクミンやプロポリスなどを使ったサプリメントが人気のようです。
しかし、これらには、臨床試験で有効性を証明したデータはほとんどありません。
医薬品として認可されているカワラタケ由来多糖のクレスチンの臨床的有用性は複数の臨床試験で示されているので、キノコやβグルカンのサプリメントもがん治療に併用して効果が期待できると考えられています。(ただし、臨床試験の結果の信頼性に問題があるという指摘はある)
βグルカンのような免疫賦活物質は、動物実験レベルでは抗腫瘍効果を示す研究結果は数多く報告されていますが、人間での有効性を示すデータは乏しいと言わざるをえません。抗がん剤の副作用軽減や再発予防効果などある程度の効果が報告されている製品はいくつかありますが、十分に質の高い臨床試験で有効性を示された製品はまだありません。
フコイダンレスベラトロールクルクミンに関しては、消化管からの吸収が極めて低いので、体内のがんに作用する可能性は低く、がん細胞にアポトーシスを誘導する臨床的根拠は全くありません。しかし、誇大広告によって、かなりのがん患者さんが利用しています。
抗がん剤治療にサプリメントを利用する場合は、臨床試験で安全性と有効性が確認されている成分や製品を選ぶことが大切です。
抗がん剤治療と併用して臨床的な有効性を示すデータがあるサプリメントとして魚油のDHA(ドコサヘキサエン酸)/EPA(エイコサペンタエン酸)、メラトニン、プロバイオティクス(乳酸菌など)、L-カルニチン、シリマリン(ミルクシスル)などがあります。
 
エイコサペンタエン酸(EPA)ドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω3系不飽和脂肪酸に関しては前述のように多数の臨床試験でがん治療との併用の有用性が明らかになっています。
 
プロバイオティクス(probiotics)は腸内細菌叢の善玉菌と悪玉菌のバランスを改善して生体に有益な効果をもたらす生菌添加物のことで、乳酸菌が代表です。乳酸菌はビフィズス菌やアシドフィルス菌、ラクトバチルス、ブルガリア菌など乳酸を産生する腸内細菌です。オリゴ糖や食物繊維など善玉菌の増殖を促進する物質のことをプレバイオティクス(prebiotics)と呼びます。このようなプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせると効果的な腸内環境の改善ができます。
臨床試験で、大腸がんの予防効果、大腸がんや膵臓がんなど腹部手術後の感染症の予防効果、抗がん剤による下痢や腹部不快感を緩和する効果などの有効性がランダム化比較臨床試験で明らかになっています。
膵臓がんで膵頭十二指腸切除を受けた64例を対象にしたランダム化比較試験では、プロバイオティクス投与群は、入院後から手術までの3~15日間プロバイオティクスを摂取し、手術後は術後2日目から再開し退院まで継続しました。手術後の感染症の発生率は、プロバイオティクス投与群は23%であったのに対して、対照群(非投与群)が53%であり、プロバイオティクス投与により手術後の感染症の頻度が低下しました。(Hepatogastroenterology 54: 661-663, 2007年)
大腸がん患者を対象にしたランダム化試験でも、プロバイオティクス投与群で術後の感染症の合併症が減少する結果が得られています。プロバイオティクスは腸内細菌叢の状態を良くし、腸管粘膜のバリアを強め、細菌感染症のリスクを低減させるためであると考えられています。
5-FUを含む抗がん剤治療を受けた150例の大腸がん患者を対象にしたランダム化試験では、抗がん剤治療中に発生したグレード3または4の下痢は、対象群が37%に対して、乳酸菌と食物繊維(グアガム)のサプリメントの投与を受けた群では22%と有意に低下しました。プロバイオティクス投与により腹部不快感は緩和し、入院期間も短縮され、腹部症状の副作用による抗がん剤投与量の減量の頻度も少なくなったという結果が報告されています。(Br J Cancer 97:1028-1034, 2007年)
ヨーグルトや、フルクトオリゴ糖の多いバナナ、タマネギ、アスパラガス、ニンニク、トマトなどを多く食べ、さらに乳酸菌やオリゴ糖や食物繊維を含むサプリメントを利用して、積極的に腸内環境を善玉菌優位にすることは、免疫力を増強し、解毒力を高め、胃腸の働きを良くする効果が期待できます。プロバイオティクスとプレバイオティクスは、抗がん剤との相互作用や手術前後の服用も全く問題無く、多く摂取しても胃腸ガスの一時的な増加以外に副作用は伴わないので、がん患者に日頃から摂取が勧められるサプリメントです。
 
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体の概日リズムの維持に関係しています。暗くなると体内のメラトニンの量が増えて眠りを誘います。快適な睡眠をもたらし、不眠や時差ぼけを解消するサプリメントとして利用されていますが、抗酸化作用や免疫増強作用やその他多彩なメカニズムによる抗腫瘍効果を示すことが基礎研究で示されており、臨床試験でも有効性を示す結果が得られています。
メラトニンには抗酸化作用があり、活性酸素によるダメージから細胞を保護します。メラトニンの抗酸化作用は、活性酸素だけでなく、一酸化窒素や過酸化脂質など様々なフリーラジカルを消去できることが特徴です。
さらに、メラトニンはがん細胞に対する免疫力を高めます。Tリンパ球や単球の表面にメラトニン受容体があり、メラトニンはこの受容体を介してリンパ球や単球を刺激して、インターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン(IL)1,2,6,12などの免疫反応を増強するサイトカイの分泌を促進する作用があります。IL-2の産生によってナチュラルキラー細胞が活性化されます。 
1日10~40mgの服用で、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、さらに抗がん剤や放射線による抗腫瘍効果を増強して生存率を高める効果が複数の臨床試験で報告されています。また、乳がんのホルモン療法の効果増強、悪液質の改善、多くのがんの生存率を向上させる効果などが複数の臨床試験で示されています。
抗がん剤治療や放射線治療にメラトニンを併用した臨床試験のメタ解析の結果が複数の論文で報告されています。メラトニンを併用することによって抗がん剤治療や放射線治療の奏功率が向上し、副作用の程度が軽減し、生存率が高まることが明らかになっています(下表)。
 
 表。左は固形がんを対象にした21件の臨床試験のメタ解析の結果を示し、右は8件のランダム化臨床比較試験(メラトニン20mg/日投与)のメタ解析の結果を示す。抗がん剤あるいは放射線治療にメラトニンを併用すると、奏功率と生存率が顕著に向上し、副作用もかなり軽減することが示されている。
 
シリマリンはミルクシスルというキク科の植物の種子に含まれるフラボノリグナンの総称です。ミルクシスルはヨーロッパでは2000年以上前から民間薬として肝機能障害などの治療に経験的に利用されています。ミルクシスル種子は4~6%のシリマリンを含有しており、このシリマリンがミルクシスルの肝機能改善作用の効果の活性成分で、1970年代からシリマリンを中心に研究がすすめられ、ミルクシスルおよびその活性成分のシリマリンの肝細胞保護作用や肝機能改善作用の効果が科学的に証明されています。

シリマリンは最も強力な肝臓保護物質の一つとして知られています。シリマリンのもつ肝臓保護作用は、肝臓の蛋白質合成を刺激する作用とともに、肝障害の原因となるフリーラジカルやロイコトリエンやプロスタグランジンを抑制することに起因します。シリマリンにはビタミンEより強い抗酸化作用があります。肝臓のグルタチオンの量を増やす効果も指摘されています。グルタチオンは肝臓の解毒能や抗酸化作用を高めます。
抗がん剤の多くは肝臓で代謝され、肝臓にダメージを与えます。このような抗がん剤治療による肝臓障害に対しても、シリマリンあるいはミルクシスルの有効性が報告されています。欧米では、抗がん剤治療を受けている患者さんが、自分の判断あるいは医師の処方としてミルクシスルのサプリメントを摂取しています。欧米では、ミルクシスルの肝臓保護作用が良く知られており、サプリメントとして多くの商品が販売されています。肝障害を予防できると、抗がん剤治療を予定通り行うことができます。 
肝機能障害を発症した急性リンパ性白血病の50人の子供を対象に、ミルクシスルのサプリメントの治療効果がランダム化二重盲検試験で検討されています。その試験結果によると、ミルクシスルの投与によって、肝機能が著明に改善し、副作用によって抗がん剤を減らす必要があった症例の率が低下し、抗がん剤の効き目には差はなかった(抗がん剤の効き目を妨げない)ことが報告されています。
ミルクシスルは肝臓保護作用の他にも、抗がん剤による腎臓や心臓のダメージを軽減する効果も報告されています。放射線による腎臓のダメージにもミルクシスルは保護作用を示します。
ラットを使った実験で、ドキソルビシンの心臓毒性と肝臓毒性に対して保護作用を示すことが報告されています。
ラットを使った実験ではγ線照射の1時間前にシリマリンを投与すると脾臓や肝臓や骨髄のダメージが緩和することが報告されています。脳転移の患者に放射線治療を行うときにω3不飽和脂肪酸とシリマリンを服用すると、副作用が軽減し生存期間が延びることが臨床試験で示されています。培養細胞や動物実験では、ミルクシスルは抗がん剤の効き目を高める可能性が示唆されています。

シリマリンには、がん細胞の増殖シグナル伝達系を阻害する作用や、抗酸化作用などによって転写因子のNF-kB活性を阻害する作用、がん細胞の浸潤や転移を抑制する効果など多彩な抗がん作用も報告されています。

 
L-カルニチンは、生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質で、アミノ酸から体内で生合成されます。脂質を燃焼してエネルギーを産生する際には、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリアに運ばなければなりません。脂肪酸をミトコンドリアに運搬する役目を担うのがL-カルニチンです。 
L-カルニチンが不足するとミトコンドリアでの脂肪酸の燃焼が障害されて、細胞におけるエネルギー産生が障害されてしまいます。脂肪酸はL-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができないからです。
L-カルニチンはヒトの体内で合成されますが、カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、がんの治療で体力が消耗したり、栄要素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。
抗がん剤治療中には、腸粘膜の障害で食事性カルニチンの吸収が低下し、肝臓や腎臓機能のダメージで体内での合成が低下し、尿中の排泄も増えることが指摘されています。がんの代替医療では菜食主義を徹底する治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事はカルニチンの不足を引き起こしやすくします。
L-カルニチンが抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつ気分を改善するという臨床報告があります。例えば、イタリアのUrbino病院の研究では、抗がん剤治療を受けた後、倦怠感を訴えた30人を対象に、L-カルニチン1日4gを7日間投与したところ、26人(87%)の患者で倦怠感が軽減しました。
(Br J Cancer. 86(12):1854-7.2002年)
抗がん剤のアドリアマイシンの心臓へのダメージをL-カルニチンが軽減したという報告もあります。進行がんにおける悪液質による体重減少を防ぐ効果に関しては複数の臨床試験で有効性が示されています。
アセチル-L-カルニチンは前述のL-カルニチンにアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。
体内のL-カルニチンのうち一部はアセチル-L-カルニチンの状態で存在します。アセチル-L-カルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達し、アセチルコリンの量を増やします。
体内でL-カルニチンに変換されるので、L-カルニチンと同様に、抗がん剤による倦怠感や悪液質による体重減少を抑制する効果もあります。
アセチル-L-カルニチンは中枢神経系や末梢神経系に広く存在し細胞内における脂肪酸の代謝に重要な役割を果たしています。神経細胞のダメージの修復や再生を促進する効果が知られており、様々な原因で引き起こされる知覚過敏や神経性疼痛を改善する効果が報告されています。抗がん剤治療に伴う末梢神経障害の改善作用が示唆されています。アセチル-L-カルニチンが抗がん剤の効き目を高める効果も報告されています。   
 
以上のサプリメントは副作用がなく、がん治療中や緩和ケアに使用して有効性が期待できます。これらを組み合わせて利用すると、相乗効果によってさらに有効性を高めることができます。がん治療との併用で推奨できるサプリメントと言えます(下図)。
 
図:がんの標準治療の副作用軽減や抗腫瘍効果増強の効果が臨床試験で示されているサプリメントとして、魚油のDHA(ドコサヘキサンエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)、プロバイオティクス(乳酸菌など)やプレバイオティクス(オリゴ糖など)、メラトニン、シリマリン、L-カルニチンなどがある。これらは適切に使えば副作用はなく、がん治療の効果を高め、再発抑制や生存期間延長の効果が期待できる。
 

【培養した微細藻類由来DHAが注目されている】
がんや認知症や循環器疾患の予防や治療にDHAやEPAが有効であることは確立しています。従って、DHAやEPAの多い脂の乗った魚を多く食べることが推奨されています。
しかし、魚のメチル水銀やマイクロプラスチックなど海洋汚染に由来する有害物質の魚への蓄積の問題は、魚食を安易に推奨できないレベルまで深刻になっています。
そこで、海洋でDHAとEPAを作っている微細藻類を培養して、培養した微細藻類からDHAとEPAを取り出せば、汚染物質がフリーのDHA/EPAを製造できます。(下図)

図:オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は微細藻類が合成している(①)。プランクトン(②)が微細藻類を食べ、小型魚(③)がプランクトンを食べ、大型魚(④)が小型魚を食べるという食物連鎖によって、魚油にEPAやDHAが蓄積している。人間は魚油からDHAとEPAを摂取している(⑤)。環境中の水銀(⑥)が魚に取り込まれてメチル水銀になって魚に蓄積する(⑦)。DHAとEPAを産生している微細藻類をタンク培養して油を抽出すると(⑧)、汚染物質がフリーで、植物由来のDHA/EPAが製造できる(⑨)。

最近の多くの研究で、がん治療におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の有効性が明らかになっています。植物油に含まれるαリノレン酸は人間の体内ではDHAにはほとんど変換されません。抗がん作用はエイコサペンタエン酸(EPA)よりドコサヘキサエン酸(DHA)の方が強いことが報告されています。
がん治療には1日3から5グラムのDHAの摂取が有効であることが多くの研究で示されています
。通常の魚油の場合、DHA含有量は10%から20%程度です。1日5グラムのDHAを摂取するには25gから50gの魚油の摂取が必要になります。
そこで、微細藻類の中でもDHA含有量が極めて多いシゾキトリウム(Schizochytrium sp.をタンク培養して製造したDHA(フランス製)を原料にした「微細藻類由来オイル(DHA含有量51%)」を製造してがん治療に使用しています。閉鎖環境での培養のため、汚染の心配がありません。しかも、植物由来なので、菜食主義者(ベジタリアン、ヴィーガン)も摂取できます。

詳細は以下のサイトで紹介しています。

http://www.f-gtc.or.jp/DHA/DHA-51.html


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