がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
139)ロディオラ(Rhodiola:イワベンケイ)の寿命延長効果
図:ロディオラ・ロゼア(Rhodiola rosea)やその仲間の紅景天(Rhodiola sachalinensis)は高地に自生する多年生植物で、強力なアダプトゲン作用(様々なストレスに対する体の抵抗力を高める作用)を持ち、抗老化作用や寿命を延ばす効果が報告されている。
139)ロディオラ(Rhodiola:イワベンケイ)の寿命延長効果
【寿命には限界がある】
人間が生まれてから死ぬまでの時間を寿命と言います。その長さには非常に個人差がありますが、不慮の事故やがんなどの生命に関わる病気に罹らなければ、現在の日本では80歳以上の寿命が期待できる状況です。
厚生労働省から最近公表されたデータでは、日本人の2008年の平均寿命は女性が86.05歳、男性79.29歳で、いずれも3年続けて過去最高を更新しています。女性は24年連続で長寿世界一となり、男性はアイスランド(79.6歳)、香港(79.4歳)、スイス(79.4歳)についで第4位です。
平均寿命が延びた理由について厚生労働省は、医療水準の向上などにより三大死因(がん、心臓病、脳卒中)の死亡率が下がったことが大きな要因で、交通事故の死者数が減ったことも影響した、と分析しています。
三大死因が克服されれば平均寿命は男性で8.10歳、女性で7.00歳延びると推定されています。
平均寿命の伸びに伴い100歳以上の高齢者数も急激に増え、1963年には153人に過ぎなかったのが、1981年には1,000人を超え、1998年には10,000人を超え、2008年には36,276人と発表されています。
世界一の高齢者は、過去には122歳164日生きたフランス人女性(ジャンヌ・カルマン)や、男性では120歳238日の日本の泉重千代さんがいますが、現在では113歳~114歳が世界一になっています。人間の寿命の限界は120歳前後だと考えられています。
一般的に、多細胞生物には寿命がプログラムされています。例えば、ほとんどの昆虫類は産卵すると一生を終えます。魚類ではサケは排卵後にあるホルモンを分泌して死ぬようにプログラムされています。
ほ乳類や鳥類の場合は、子供を産んでもすぐ死なずに子育ての期間を生きますが、子育ての期間を終了するころには死を迎えるようになっています。これは、固体が無制限に増えると食料の確保などで生存が困難になることや、変化する環境に適するように種を進化させて繁栄させるためには、子孫(新しい種)を残したら親(古い種)は消滅させた方が有利だからです。
したがって、成長に必要な内分泌系や免疫システムも、子育てが終わる頃、あるいは生殖能力を失うころ(更年期)には、体を壊す方法に作用しだします。
たとえば、女性ホルモンや男性ホルモンは乳がんや前立腺がんの発生や進展を促進し、様々な成長因子はがん細胞の増殖を促進し、免疫細胞は自己の細胞を攻撃して自己免疫疾患を起こすようになります。
また、細胞には分裂の回数に限界を設けるテロメアが存在し、酸素呼吸をすることにより発生する活性酸素が遺伝子や脂質や蛋白質を酸化し、がんや動脈硬化の原因となります。したがって、年令とともに老化が進み、がんや心臓病などの病気に罹らなくても、多くは90~100歳で老衰で亡くなる運命にあります。
老衰で亡くなるまでの期間(寿命)は個人差があり、遺伝的な要因も関与していますが、生活環境や食生活や医療によって寿命を延ばすことは可能です。
その生物が実際に生活している場で見られる寿命を生態的寿命と言い、条件を整えてやった場合に実現する寿命を生理的寿命といいます。つまり、生態的寿命を生理的寿命に近付けることが医療の一つの目標になります。
動物園の動物の寿命が長いのは、生活環境や餌や医療によって、寿命を延ばす条件が整っているためだと言えます。生態的寿命の平均が5年くらいの動物でも、条件を良くすれば、20年以上生きることもできます。
人間も、開発途上国よりも先進国の方が寿命が長いのは、生活環境や食事や医療の恩恵によることは確かです。寿命の延長に漢方治療の効果を示唆する報告もあります。
【寿命延長作用をもつロディオラ属の薬草】
『Rhodiola:A Promising Anti-aging Chinese Herb』というタイトルの論文があります。(Rejuvenation Research, 10: 587-602, 2007)
日本語に訳すと「イワベンケイ:有望な抗老化の中国ハーブ」という意味です。
米国のカリフォルニア大学の薬学部などの研究グループからの報告です。
この論文では、ショウジョウバエを用い、餌に混入させてロディオラ・ロゼアを投与すると、統計的有意に寿命が延びることを報告しています。その作用機序として抗酸化作用や、その他不明の機序の可能性を言及しています。
Rhodiola(イワベンケイ)属の植物でハーブや生薬として薬効が利用されているものにロディオラ・ロゼア(Rhodiola rosea)と紅景天(Rhodiola sachalinensis)があります。
ロディオラ・ロゼア(Rhodiola rosea)は、主にシベリア東部やヨーロッパの一部の北極圏地域の標高が高い砂地に自生するベンケイソウ科の多年性植物です。
黄色くバラのような香りがある根茎から、ゴールデンルート、またはローズルートとも呼ばれています。強力なアダプトゲン作用(様々なストレスに対する体の抵抗力を高める作用)を持ち、北の人参(Nordic Ginseng)と呼ばれています。
紅景天(Rhodiola sachalinensis)は中国やチベットの高地に分布しています。中国の明の時代の薬草辞典「本草綱目」にも記載があります。古来から一部の地域では高山病の予防と防止のため、生活の中で摂取されていました。
どちらも根茎を薬用に利用し、滋養強壮、抗疲労、身体耐久力向上、生殖機能改善、鎮静、抗炎症、抗酸化、免疫増強などの効果が報告されていて、最近では、抗老化作用や抗がん作用が注目されています。
例えば、ラットを使った強制水泳の実験では、ロディオラ・ロゼアの投与によって溺れるまでの時間が対象群の135~159%に延長するという研究結果が報告されています。
抗がん剤を投与したラットの実験では、ロディオラ・ロゼアの投与による肝臓障害を軽減する効果が報告されています。
臨床試験でアダプトゲン作用を証明した報告も数多く発表されています。
スウェーデンやデンマークでは疲労改善・精神疲労改善を目的とした植物由来医薬品として使用を認めています。
さらに、 様々なストレスに対し、心身が対応できるようにサポートするアダプトゲン(適応促進)作用が注目を集め、アメリカでは精神的・肉体的ストレスに対する抵抗力をサポートするためのハーブサプリメントとして人気を集めています。
紅景天もロディオラ・ロゼアも、激しい自然環境(極寒、低酸素、少雨、強い太陽光線)に順応し、進化してきた植物で、自らを防御するために植物が生産した成分が、人間にもアダプトゲン作用を示すと考えられています。
成分は、フラボン配糖体、テルペン配糖体、アミノ酸類、青酸配糖体、芳香族配糖体、各種ミネラル類、ビタミン類などで、様々な薬効成分や栄養素を含んでいます。
体力や抵抗力を高め、抗老化と寿命延長の目的に、紅景天やロディオラ・ロゼアの服用は効果が期待できそうです。
(アダプトゲンについてはこちらへ)
(文責:福田一典)
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