140)薬効には用量依存的なものと至適用量のあるものがある

図:抗がん剤は投与量に比例して効果が高まるが副作用も強くなる。抗がん生薬の抗がん作用も用量依存的に効果が高まる。抗がん生薬の副作用は西洋薬の抗がん剤に比べると極めて軽いが抗がん作用も弱い。体力や免疫力を高めるような薬は至適用量がある場合が多く、投与量を増やせば効き目が高まるわけでは無い。がんに対する漢方治療では、生薬の薬効によって投与量を使い分けることがポイントになる。

140)薬効には用量依存的なものと至適用量のあるものがある


抗がん剤を含めほとんどの西洋薬の効果は用量依存的です。すなわち、投与量と効果は比例関係にあり、量が多いほど効果が高まります。しかし、量が増えれば副作用も強くなるため、副作用が耐えられるレベルの服用量が薬効量になります。薬の量と薬効および副作用との関係を図で示すと、用量依存的な薬は用量(投与量)に比例して効果と副作用が上昇します(図左)。
実際には、抗がん剤の効き目はS字状を呈します。副作用の程度も同様にS字状に増加しますが、薬効と副作用の間に多少の開きがあるため、がんの治療に使用できます。
抗がん剤も量を増やせば、がんを全滅させることができるのですが、正常細胞へのダメージによる副作用が出るために、がんを全滅できる量を投与できないというジレンマがあることがこの図から理解できます。

漢方薬の
抗がん生薬は、がん細胞の増殖を抑えたり、細胞死(アポトーシス)を誘導するような成分を含み、その効果は用量依存的で、服用量が増えると効き目も高まります。正常細胞に対する毒性が低いので副作用は極めて軽いのですが、がん細胞を死滅させる効果は抗がん剤に比べると弱いと言わざるを得ません。(図中央)しかし、このような抗がん生薬はがんを大きくしないことを目標にがんとの共存を目指す場合には極めて有効です。

一方、体力や免疫力を高めるような漢方薬の効き目は用量依存的とはいえません。丁度よい量があって、少な過ぎても多過ぎても効き目は弱まります。このような至適用量のある薬は釣り鐘型のグラフになります(図右)。
免疫力や治癒力を活性化する場合には、過度な刺激はかえって免疫細胞の疲弊や臓器の負担を高めて、逆効果になることもあります。
例えば、免疫力を高める丸山ワクチンと放射線療法の併用による221人の進行期子宮頸がん患者さんを対象とした2重盲検臨床試験で、低用量(0.2μg)の丸山ワクチンと放射線療法併用の場合の5年生存率は58.2%で、高用量(40μg)の丸山ワクチンと放射線療法併用では41.5%であったという報告があります。高用量の丸山ワクチンと放射線治療を併用したグループの生存率は放射線照射単独の場合とほぼ同じ成績でしたが、低用量の丸山ワクチンを併用したグループでは死亡率が30%程度減少することが示されています。
(ASCO annual meeting,,2007年 , 要旨番号5029)つまり、丸山ワクチンの効果は用量依存性でなく、効果が最も高くでる至適用量があることを示しています。
漢方薬の免疫増強作用も同じです。
服用量を増やせば効果が高まるわけではなく、ほどよい免疫組織の活性化が最大の効果を発揮します。
がん患者さんの中には、体力や免疫力を高めるサプリメントや、がん細胞を死滅させるというサプリメントを片っ端から摂取している方もおられます。
がん細胞に直接作用して増殖を抑えるような作用は、服用量に比例して効果が高まります。しかし、がんに効くものであれば、副作用も服用量に比例して増えてきます。
免疫力や治癒力を高める漢方薬やサプリメントの場合は、むやみに多く摂取しても効果が高まるわけではなく、逆に弱める場合もあることに注意が必要です。体力や免疫力を高める漢方治療の場合は、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということです。
適度に体を刺激するように使うのが、漢方薬で治癒力や抵抗力を高めるコツです。
したがって、がん患者さんに漢方薬を処方するときは、がん細胞の増殖を抑える抗がん生薬は、副作用のでない範囲でできるだけ多い量を使い(1日数十グラム)、体力や免疫力を高める生薬は至適用量(1日数グラム)というように、使い分けることがポイントになります。
(文責:福田一典)




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