がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
200)丹参のシクロオキシゲナーゼ-2阻害作用
図:丹参はシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を抑制し、さらに強い抗酸化作用を持つので、がん細胞の増殖や悪性化を抑制する効果が期待できる。
200)丹参のシクロオキシゲナーゼ-2阻害作用
タンジン(丹参:Radix Salviae Miltiorrhizae)は、シソ科のタンジンの根で,その薬効は約2000年前の神農本草経にすでに記載されており、中医学や漢方で古くから使用されている生薬です。抗炎症作用や抗酸化作用や血液循環改善作用や線維化抑制効果などがあるので、慢性肝炎や心筋梗塞や腎臓疾患の治療に使用されています。さらに近年は、丹参の抗がん作用が注目されており、丹参に含まれる抗がん成分や作用機序の報告が増えています。
前回の199話では、丹参の主要成分であるSalvianolic acid Bが上皮-間葉移行を阻止して、がん細胞の浸潤や転移を抑制する効果があることを紹介しました。
丹参は、多くのがん細胞に対して、増殖抑制、アポトーシス誘導、血管新生阻害、浸潤や転移の抑制、抗がん剤に対する耐性獲得の抑制作用を示すことが報告されています。
今回は、丹参の主要成分であるSalvianolic Acid Bがシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を抑制し、低用量のCOX-2阻害剤(celecoxib)との併用で、頭頸部がん細胞の増殖を相乗的に抑制する結果を報告した論文を紹介します。
Combination effects of salvianolic acid B with low-dose celecoxib on inhibition of head and neck squamous cell carcinoma growth in vitro and in vivo.(培養細胞および動物移植腫瘍の実験における、頭頸部扁平上皮がん細胞の増殖抑制に対する、Salvianolic acid Bと低用量のcelecoxibの相乗効果) Cancer Prev Res (Phila). 2010 Jun;3(6):787-96. |
【論文要旨】 頭頸部のがんの発生には慢性炎症の関与が大きく、頭頸部のがん細胞はCOX-2活性が高くなっていることが報告されている。したがって、選択的なCOX-2阻害剤であるcelecoxibは頭頸部がんの予防や治療に効果があることが知られている。しかし、COX-2阻害剤の長期間の服用は副作用(心臓に対する障害など)も問題になる。 丹参に含まれるsalvianolic acid Bはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を抑制する効果があることが報告されている。したがって、Salvianolic acid Bとcelecoxibを併用すると、副作用の出ない低用量のcelecoxibでも十分に抗腫瘍効果が期待できる可能性がある。 この論文では、移植腫瘍を使ったマウスの実験で、celecoxibとSalvianolic acid Bをそれぞれ単独で投与した場合に比べて、両者を半分の量で併用した場合の方が、抗腫瘍効果が著明に増強することを報告している。このマウスの実験では、celecoxibは体重1kg当たり1日2.5mg、Salvianolic acid Bは体重1kg当たり1日40mgを併用している。両者を併用すると、がん細胞の増殖が抑制され、アポトーシスで死滅するがん細胞が増加した。 |
がんの発生要因の約20%は感染症や慢性炎症が関与していると言われています。ウイルス性肝炎による肝臓がん、ピロリ菌感染による胃がん、潰瘍性大腸炎に合併する大腸がん、その他多くのがんで慢性炎症の存在は発がんを促進し、再発や転移にリスクを高める重要な要因となっています。
慢性炎症によって活性酸素や一酸化窒素ラジカルの発生や、COX-2の発現増加によってプロスタグランジンの産生が高まることが発がん過程を促進する原因となります。したがって、活性酸素や一酸化窒素ラジカルを消去する抗酸化作用と、COX-2阻害作用などの抗炎症作用は、がんの発生や再発の予防に有効であると考えられています。
丹参は、強い抗酸化作用とCOX-2の発現抑制作用の両方を持っているので、がんの治療や再発予防に効果が期待できます。
さらに、Salvianolic acid B以外にも、丹参に含まれるタンシノン類(tanshinones)の, クリプトタンシノン(cryptotanshinone)、タンシノンIIA(tanshinone IIA) 、タンシノン I(tanshinone I)が、様々ながん細胞のアポトーシス誘導や増殖抑制の効果が報告されています。
Salvianolic acid Bは丹参の主要成分で生の根に約1~7%含まれています。
中国の基準では、生薬として流通させるためには、Salvianolic acid Bを生の根の3%以上含むことが条件になっています。
乾燥した丹参には10%以上のSalvianolic acid Bが含まれていると考えられますので、体重1kg当たり1日40mgのSalvianolic acid Bの摂取は、60kgの人で丹参を20~30g程度摂取する量に相当します。COX-2活性が高いがん(頭頸部がん、大腸がん、乳がん、肺がん、前立腺がんなど)の治療や再発予防には、1日200mg程度のcelecoxib(商品名セレブレックス、セレコックス)と20g程度の丹参を含む漢方薬は試してみる価値があると思います。
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