22)抗がん生薬とは

図:植物に含まれるアルカロイドなどの成分の中には、細胞の働きを阻害したり、生理活性作用をもったものが存在する。これらの成分は毒薬にもなるが、上手に利用すると医薬品にもなる。西洋医学では、分離した成分を医薬品として利用するが、漢方治療では毒をもった植物そのものを利用する。

22)) 抗がん生薬とは

【植物毒が抗がん剤に使用されている】
多くの植物は、カビや細菌や昆虫などの外敵から自分を守るため、あるいは動物から食べられないようにするためにを持っています。このような植物毒を人間が食べると食中毒を起こしたり死亡することさえあり、毒薬として利用されてきたものもあります。
中にはがん細胞の増殖を阻害するために利用できるものもあり、世界中で植物から抗がん物質を見つけ出す研究が行なわれています。実際、現在使用されている抗がん剤の中にも、植物から見つかったものがあります
例えば、抗がん剤の分類の中に「植物アルカロイド」と言われるものがあります。
アルカロイド(alkaloid)という言葉は「アルカリ様」という意味ですが、窒素原子を含み強い塩基性(アルカリ性)を示す有機化合物の総称です。植物内でアミノ酸を原料に作られ、植物毒として存在しますが、強い生物活性を持つものが多く、医薬品の原料としても利用されている成分です。モルヒネ、キニーネ、エフェドリン、アトロピンなど、医薬品として現在も利用されている植物アルカロイドは多数あります。
抗がん剤として使用されている植物アルカロイドとして、キョウチクトウ科ニチニチソウに含まれるビンクリスチンビンブラスチン、イチイ科植物由来のパクリタキセルなどがあります。塩酸イリノテカンは中国の喜樹という植物から見つかったカンプトテシンという植物アルカロイドをもとに改良された誘導体です。
このように、植物毒と言われる成分の中には抗がん剤として利用できるものがあることから、漢方薬に使用される生薬の中にも抗がん作用のある成分があっても不思議ではありません。
漢方治療は体力や抵抗力を高める方法だけでなく、西洋医学のがん治療と同じように、「毒をもって毒を攻撃する(以毒攻毒)」という考え方も重視しています。

【抗がん活性のある生薬】
動物実験や臨床経験などで抗腫瘍効果が知られている抗がん生薬として、白花蛇舌草・半枝蓮・竜葵・七叶一枝花・蛇苺・蒲公英・山豆根・紫根・よく苡仁などがあります。
固形がんの場合、白花蛇舌草半枝蓮の組み合わせの有効例が多く報告されています。
白花蛇舌草は肝臓の解毒作用を高めて血液循環を促進し、白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高め、リンパ球の数や働きを増して免疫力を高めます。
半枝蓮 はアルカロイド・フラボノイド配糖体・フェノール類・タンニンなどを含み、抗炎症・抗菌・止血・解熱などの効果があって、中国の民間療法として外傷・化膿性疾患・各種感染症などに使用されています。この2つは、各種の腫瘍に広く使用され、特に消化管の腫瘍(胃がんや大腸がんなど)に対しては比較的よい治療効果が報告されています。
莪朮・三稜は強い駆お血の効能を持ち、血腫や凝血塊などを溶解・吸収して除き、抗がん生薬や免疫賦活性生薬の効果を高める目的で使用されます。
夏枯草牡蛎はしこりを軟化させる薬として用いられます。  
このような抗がん生薬の多くは感染症や炎症の治療にも用いられており、「清熱解毒薬」と言われることもあります。「清熱解毒」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用(清熱作用)と体に害になるものを除去する作用(解毒作用)に相当します。体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用、抗がん作用などがあり、がんの予防や治療に有用であることが理解できます。
免疫力を増強させて抗腫瘍効果を発揮するものとして常用される参・黄耆・茯苓などの補気薬の他に冬虫夏草・霊芝などが用いられます。
一般に、駆お血作用のある生薬には抗炎症作用やラジカル消去活性を有するものが多く、桃仁・紅花・丹参などには発がん抑制効果も報告されています。理気薬として使用される蘇葉・薄荷などのシソ科の植物には、その精油成分中のモノテルペン類に強い発がん抑制効果と抗腫瘍効果が報告されています。このような作用機序の異なる生薬を組み合わせることによって抗がん作用を高めることができます。

【がんとの共存に役立つ抗がん生薬】
抗がん剤の有効性の判断は、何よりも腫瘍サイズの縮小(奏功率)であり、それも50%以下にならないと有効と判定されません。QOL(生活の質)がいかに改善され、何か月にもわたって腫瘍サイズが不変のような薬剤があったとしても、現行の基準では無効と評価され、治療薬になる可能性はゼロです。
抗がん剤開発の過程では、生薬を始め多くの薬草の抗がん活性がスクリーニングされてきました。しかし生薬の抗がん作用のスクリーニングの過程ではがん縮小効果の強いことが選択の基準とされてきたため、がん縮小率は低くても延命効果という面から有用な生薬の多くが見逃されてきました。
抗がん生薬の多くは、腫瘍縮小率から評価すると、化学薬品の抗がん剤の効果に及ばないのですが、副作用が少なくしかも腫瘍の増殖を有意に抑制できるようなものは腫瘍の退縮につながります。腫瘍縮小率が0であっても、がん細胞を休眠状態にもっていけるものであれば延命効果は期待できます。このような薬剤は、従来の抗がん剤の評価法では無効と分類されるものですが、がんとの共存を目指す治療においては極めて有用と考えられます。
生薬には、毒性を示すアルカロイドだけでなく、抗酸化作用や免疫増強作用を有するフラボノイドサポニン多糖類など抗腫瘍効果を有する成分が多く含まれています。このような生薬を活用することによって、がん細胞の増殖を抑制し休眠状態に誘導することも不可能ではありません。

(文責:福田一典)

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