がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
111)漢方薬ががんの発生や再発を予防できる理由
図:漢方薬は、患者の体質や症状に応じて、多数の生薬を組み合せて作成する(①)。個々の生薬には、がん予防に効果がある成分が多数含まれており、がん予防物質の宝庫と言える(②)。体質や症状に応じて作成した漢方薬は、体の治癒力や抵抗力を高め、がん体質を改善する(③)。このように、漢方治療は、生薬に含まれるがん予防成分(抗炎症、抗がん作用など)と、がんを発生しやすい体質(免疫力低下、冷え、胃腸虚弱など)を改善する効果の2つの相乗効果によって、がんの発生や再発の予防に効果を発揮する(④)。
111)漢方薬ががんの発生や再発を予防できる理由
【食生活や生活習慣の改善でがん発生や再発のリスクを減らすことができる】
がんの予防には、食事や生活習慣の改善によってがんに罹らないようにする第1次予防、早期発見・早期治療によってがん死を免れる第2次予防、がんの治療後に再発を予防する第3次予防があります。
野菜や果物の豊富な食生活や、禁煙や適度な運動などで、がんの発生の3分の2は予防できると考えられています。
例えば、日本人の胃がんの発症率は近年減少していますが、その理由の一つは冷蔵庫の普及にあります。塩分の多い食生活は胃がんの発生を促進するのですが、冷蔵庫の普及によって、塩を使った食品の保存が必要なくなり、日本人の食卓から塩辛い食品が少なくなったのが、胃がんの発生率が減少した理由だと考えられています。
一方、大腸がんや乳がんの発生率が増えていますが、これは肉や動物性脂肪が多い欧米型の食生活が増えてきたことが関連しています。
熱すぎる食事は食道や口腔内のがんの発生を増やし、紫外線は皮膚がんや悪性黒色腫の発生を増やします。また、がんの3分の1はタバコが原因と考えられています。
このようながんの発生を増やすような要因を避け、理想的な食生活や生活習慣を実践すれば、がんの発生頻度を3分の1くらいに減らすことができると考えられています。
しかし、がんの発生をゼロにすることはできません。
それは、発がんの要因は、タバコのように避けられるものばかりではないからです。
人間は酸素呼吸をするかぎり、たえず体の中で活性酸素が発生し、遺伝子にダメージを与えています。宇宙線を避けることもできません。人間の体は毎日200分の1の細胞がアポトーシスで死に、それに相当する細胞が再生で補われています。このように細胞が分裂を行うたびに、遺伝子(DNA)の突然変異がある一定の確率で起こります。
老化とともに免疫力が低下し、がん細胞に対する抵抗力が次第に低下してきます。生まれながら、ある種のがんになりやすい遺伝子異常をもっている人もいます。
つまり、どんなに注意しても、がんの発生リスクをゼロにすることはできません。
しかし、食生活の改善、禁煙、適度な運動、ストレスを避ける生活などによって、がんの発生リスクを3分の1くらいまで減らすことができるという事実は重要です。
以上のような注意に加えて、がんの発生や再発のリスクをさらに低下させる手段として、漢方治療は有用です。
【漢方薬はがん予防成分の宝庫】
食生活や生活習慣ががんの発生に影響することは良く知られています。がんの発生や再発を促進する要因としては、糖質や動物性脂肪や赤味の肉の取り過ぎ、喫煙、飲酒、運動不足や肥満が上げられます。
一方、野菜や果物や豆類など植物性食品、精製度の低い穀物、魚油や紫蘇油や亜麻仁油に多く含まれるω3不飽和脂肪酸は、がんの発生や再発を予防する効果が指摘されています。
特に、野菜や果物には、免疫力を高める成分、活性酸素やフリーラジカルの害を防ぐ成分、発がん物質を不活性化する成分、がん細胞の増殖を抑える効果をもつ成分などが多く見つかっており、これらの成分を多く摂取することががんの発生や再発の予防に寄与すると考えられています。つまり、植物には、「免疫増強作用」「抗炎症作用」「抗酸化作用」「解毒作用」「がん細胞増殖抑制作用」などのがん予防に役立つ成分が多く含まれているのです。
植物に含まれるこのような薬効成分をファイト・ケミカル(phyto-chemical)と呼んでいます。Phytoは植物、chhemicalは化学を意味する言葉で、したがって、ファイトケミカルとは植物に含まれる化学成分を意味しています。
これらのファイトケミカルから、がん予防効果をもった成分が多くみつかっており、それらはサプリメントとしても利用されるようになっています。例えば、大豆のイソフラボン、ゴマのリグナン、トマトのリコピン、ブロッコリーのスルフォラファン、お茶のカテキン、緑黄色野菜のカロテノイド、ブルーベリーのアントシアニン、赤ワインのポリフェノール、キノコのβグルカンなどが有名です。
さて、漢方薬のがん予防効果のメカニズムも食品のがん予防効果と同じです。つまり、漢方薬を構成する生薬は植物由来で、がん予防に有効な多くのファイトケミカルを含むからです。
【漢方治療でがんになりやすい体質を改善する】
がんが一つ見つかるということは、別の場所に他のがんもできやすい状況にあることを示唆します。つまり、一つのがんを治しても、第2、第3のがんが発生する可能性が高いと言えます。
その理由は、がんが発生する原因には、免疫力や抗酸化力などの体の自己治癒力の低下や、体内における発がん要因の蓄積、食事の不摂生や老化やストレスなど体全体の異常が関与しているからです。
がんになりやすい体質(がん体質)もあります。風邪をひきやすいなど抵抗力や免疫力が低下した状態はがんが発生しやすい体質といえます。胃腸虚弱、血液循環の異常、体の冷えなどの体調不良も体の治癒力を低下させてがんの発生を促進します。気分が落ち込んだり、精神的ストレスを溜め込みやすい性格も、がんが発生しやすい体質と言えます。
このようながんになりやすい体質を改善することも、がんの発生や再発の予防には大切です。
漢方では、このような体質を気血水や虚実・寒熱・陰陽などの漢方的指標で評価し、その状態を改善するために生薬や治療のノウハウを蓄積しています。
例えば、胃腸虚弱というのは、漢方では脾虚や気虚の状態で、これを治すために漢方治療が用意されています。
気分が落ち込んだり、うつ状態になるのは気が滞っている気滞という病態で、気の巡りを良くする理気薬を使うことによって改善することができます。
冷えは陽気が減少した状態(陽虚)や、血液循環の低下(お血)が原因となります。したがって、体の代謝を活性化する補陽薬や、血液循環を良くする駆お血薬を使うことによって改善できます。
以上のように、漢方治療は、生薬に含まれるがん予防成分と、がんを発生しやすい体質(免疫力低下、冷え、胃腸虚弱、など)を改善する効果の2つの相乗効果によって、がんの発生や再発の予防に効果を発揮すると考えることができます。
(文責:福田一典)
画像をクリックするとサイトに移行します。
« 110)キノコに... | 112)手術後の... » |