がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
306)がん治療に役立つ食材(18):アボカド(avocado)

図:アボカドにはオレイン酸、カロテノイド、ビタミンC、アミノ酸などの栄養素が豊富で、がん治療中の栄養補給に有用。アボカドに特異的に含まれる脂肪族アセトゲニンは、がん細胞の増殖・生存のシグナル伝達系であるEGFR/Ras/Raf/MEK/ERK経路の活性化を阻害する作用、脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼを阻害する作用が報告されている。アボカドは糖質が少なくオレイン酸を主体とする脂肪の含有量が多いので、糖質制限やケトン食療法において有用な果物と言える。
306)がん治療に役立つ食材(18):アボカド(avocado)
【アボカドは糖質が少なく脂肪が多い果物】
アボカドはクスノキ科の常緑果樹で、原産地は中央アメリカ(コロンビア、エクアドル)およびメキシコの湿潤地域です。現在では、熱帯、亜熱帯、温帯性気候の地域の世界各国で栽培されています。主要生産国はメキシコ、ブラジル、ドミニカ、アメリカ(カリフォルニア、フロリダ、ハワイ)、ハイチ、ペルー、インドネシア、イスラエルなどで、日本でも栽培されています。
日本ではなじみの薄い果物でしたが、欧米風の料理が浸透し、さらにアボカドの高い栄養価や健康作用が注目されるようになって、日本でも食材としての利用が増えています。
形が梨に似ていて表皮がザラザラしているので鰐梨(Alligator Pear)、果肉がバター状をしていることからバター・フルーツ(Butter-fruit)とも呼ばれています。
アボカドには脂質が果肉可食部100g中に15g以上含まれ、脂質に含まれる脂肪酸の約65%はオレイン酸です。オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれるn-9系の一価不飽和脂肪酸で、循環器疾患やがんの予防に効果がある脂肪酸です。善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やし、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減らし、動脈硬化を予防する効果があります。
さらに、多種類のカロテノイド(βカロテン、αカロテン、ルテイン、ゼアキサンチンなど)、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミンや、カリウムやマグネシウムやリンなど多くのミネラル、食物繊維、蛋白質などが多く含まれています。ギネスブックに世界一栄養価が高い果物として記載されているそうです。
原産地の中央アメリカでは「生命の源」と呼ばれるほど貴重な果実です。アーユルヴェーダなどの伝統医療にも使用され、月経過多、高血圧、胃の痛み、気管支炎、下痢、糖尿病などを良くする効能があると言われています。
また、アボカドは糖質が極めて少なく、他の多くの果物が100g当たり10~20g程度の糖質(食物繊維を省く炭水化物)を含むのに対して、アボカドは果肉可食部分100g中に含まれる糖質は1g以下です。(下表は100g当たりの含有量をgで示しています)
【アボカドに含まれる脂肪族アセトゲニンの抗がん作用】
このようなアボカドの健康作用が知られるにしたがい、消費量が増え、アボカドの健康作用に関する基礎研究も盛んになっています。がんの領域でも、アボカドのがん予防効果や抗がん作用に関する研究が行われています。他の果物や野菜には含まれずアボカドに特徴的な成分である脂肪族アセトゲニン(Aliphatic acetogenin)の抗がん作用に関する研究が幾つか報告されています。以下のような論文があります。
Aliphatic acetogenin constituents of avocado fruits inhibit human oral cancer cell proliferation by targeting the EGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2 pathway. (アボカド果実の脂肪族アセトゲニン成分はEGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2経路を標的とすることによりヒト口腔がん細胞の増殖を阻害する) Biochem Biophys Res Commun. 409(3): 465-469. 2011
【要旨】アボカド(Persea americana)果実は人間の食物の一部として消費され、その抽出エキスが様々なヒトがん細胞に増殖阻害効果を示すことが報告されているが、個々の成分の有効性やその作用機序はほとんど明らかになっていない。
アボカド果実の果肉を、活性を指標として成分を分け(分画)、クロロホルム可溶性抽出物(D003)が前悪性および悪性ヒト口腔がん細胞株に対し高い有効性を示すことを確認した。この抽出物から、既知の構造を持つ2つの脂肪族アセトゲニン、化合物1[(2S,4S)-2,4-ジヒドロキシヘプタデス-16-エニル酢酸]と化合物2[(2S,4S)-2,4-ジヒドロキシヘプタデス-16-イニル酢酸]を単離した。
本研究において我々は、このクロロホルム抽出物の増殖阻害活性がEGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2がん経路のEGFR(Tyr1173)、c-RAF(Ser338)、そしてERK1/2(Thr202/Tyr204)のリン酸化の阻害によることを初めて明らかにした。
化合物1と2は共にc-RAF(Ser338)やERK1/2(Thr202/Tyr204)のリン酸化を阻害した。化合物2のみ、EGFによって誘導されるEGFR(Tyr1173)の活性化(リン酸化)を阻止した。化合物1と2を組み合わせると、それらはc-RAF(Ser338)とERK1/2(Thr202/Tyr204)のリン酸化とヒト口腔がん細胞の増殖に対して相乗的に阻害した。本研究結果により、アボカド果実の抗がん作用が、EGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2がん経路の2つの鍵となる構成要素を標的とする特異的な脂肪族アセトゲニンの組み合わせによることが示唆された。
化合物1は[(2S,4S)-2,4-dihydroxyheptadec-16-enyl acetate] で化合物2は [(2S,4S)-2,4-dihydroxyheptadec-16-ynyl acetate]という物質で、この構造式は上の図に示すように炭化水素の鎖に水酸基がついた構造です。脂肪族アセトゲニンはアルカノール(Alcanol:アルカンという炭化水素鎖にOH基がついた化合物)とも呼ばれ、アボカド以外の野菜や果物には含まれていないアボカドに特徴的な成分だと記載されています。
この論文では、他の野菜や果物に含まれないアボカドに特徴的な成分の脂肪族アセトゲニンが、上皮成長因子(EGF)がその受容体(EGFR)に結合して活性化されるEGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2というシグナル伝達系を阻害してがん細胞の増殖を阻害する作用を報告しています。EGFRを標的とした抗がん剤としてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(イレッサ、タルセバ)や抗EGFR抗体(アービタックスなど)が使用され、その有効性が報告されています。EGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2シグナル伝達系は多くのがん細胞において活性化されているので、この経路を阻害する作用は抗がん作用が期待できます。
この脂肪族アセトゲニンが、細胞内での脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼを強力に阻害するという報告もあります。(Acetyl-CoA carboxylase inhibitors from avocado (Persea americana Mill) fruits. [アボカド果実に含まれるアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤] Biosci Biotechnol Biochem 65(7): 1656-8, 2001)
がん細胞では脂肪酸合成が亢進しており、脂肪酸合成を阻害することはがん細胞の増殖を抑える効果があります。
脂肪族アセトゲニンには抗炎症作用があり、紫外線による皮膚のダメージを防御する効果も報告されています。抗炎症作用はがんの予防や治療にも有用な作用です。
【アボカドはがんの中鎖脂肪ケトン食療法に有用な果物】
前述の2つの研究は培養がん細胞を使った試験管内での実験で、アボカドを多く食べて、どの程度の抗腫瘍効果が期待できるかは不明です。しかし、アボカドは糖質が非常に少ない果物で、増殖シグナル伝達経路や脂肪酸合成を阻害する作用が期待できるので、がんの中鎖脂肪ケトン食療法に非常に都合の良い食材と言えます。
野菜や果物はビタミンやミネラルが豊富で、さらに多くの抗がん成分が見つかっています。したがって、野菜や果物を多く摂取することは健康的な食事の基本であり、がんに予防や治療においても野菜や果物を多く摂取することは有用です。しかし、糖質はがんを促進するので、糖質の多い野菜(ジャガイモ、ニンジンなど)や果物の取り過ぎには注意が必要です。糖質が少なく栄養価が高いという観点から、アボカドはがんの予防や治療において有用な果物です。
アボカドはビタミン・ミネラルなどの栄養素が豊富で、糖質が少なく、オレイン酸を主体とする脂肪が多いなど、他の野菜や果物とは異なる特徴を持っています。アボカドには多彩なカロテノイドが豊富で、しかも脂肪が多いので、脂溶性のカロテノイドの吸収が良いことが報告されています。
アボカドのエキスが前立腺がん細胞の増殖を抑制し、その活性成分として、カロテノイド類の関与が示唆されています。(Inhibition of prostate cancer cell growth by an avocado extract: role of lipid-soluble bioactive substances. J Nutr Biochem 16(1): 23-30, 2005)
ただし、カロテノイドの含有量では、ニンジンやカボチャはアボカドの100倍以上含んでいるので、カロテノイドの摂取源としては、あまり有効ではありません。ただし、食用になっている果物の中ではルテイン(Lutein)の含量が最も多いとされています。アボカドに含まれる70%がルテインと報告されています。ルテイン以外に、αカロテン、βカロテン、ゼアキサンチン(zeaxanthin)、ネオクローム(neochrome)、 ネオキサンチン(neoxanthin)、βクリプトキサンチン(beta-cryptoxanthin)、ヴィオラキサンチン(violaxanthin)など多種類のカロテノイドが含まれ、カロテノイドの種類の多さではアボカドが一番だと記載されています。さらにビタミンEも多く含まれ、ビタミンEに関してはカボチャやニンジンよりも多いようです。食物繊維やフラボノイド類も多く含まれます。
カロテノイドは脂溶性なので、脂肪の多いアボカドを食べると、カロテノイドの吸収が良くなることが知られています。他の野菜や果物のカロテノイドやビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収も良くするので、サラダにアボカドを加えると他の野菜や果物に含まれるカロテノイドの吸収が2~4倍に良くなると記載されています。
ちなみに、アボカドを輪切りにしたとき、果皮の直下は緑色が濃く、内部ほど薄い色になっています。緑色の濃い部分にカロテノイドが多く含まれるので、果皮直下の部分をロスしないように食べることが大切です。カリフォルニア・アボカド協議会(the California Avocado Commission)では「nick and peel」という「切れ目を入れて皮をむく」方法を推奨しています。
アボカドは栄養価が高く、抗炎症作用や抗酸化作用や抗がん作用も期待でき、糖質が少ないので、末期がん患者の栄養補給にも最適な果物です。
可食部100g当たりアボカドは187kcalあり、バナナの2倍以上で、生食の果物では最もカロリーが高くなっています。アボカド1個(200g)の果肉可食部が70%とするとアボカド1個(200g×0.7×1.87=261kcal)は261キロカロリーになり、ごはん1膳140g(235kcal)の約1.1倍のエネルギーになります。ごはん1杯やバナナ1本を食べるよりアボカド1個を食べる方が栄養補給にははるかに勝っています。がん患者さんの栄養補充の目的でも、アボカドはもっと利用されてよい食材と言えます。
アボカドはカロリーの80~85%が脂肪に由来するので、「脂肪が極めて多い食べ物」といういわれのない非難(bad rap)を受けることもありますが、実際は極めて健康的な食材で、特にがんの糖質制限食やケトン食には、クルミ、亜麻仁(フラックスシード)、オリーブオイルと並んで非常に有用な食材です。
アボカドは熟してくると緑から黒や黒紫色になります。指で押すと少し軟らかく感じるくらいになると皮をむくように剥がすことができます。緑の段階では「nick and peel」はできません。まだ熟していない緑色のアボカドは室温に数日おけば熟してきます。熟すまでは冷蔵庫には入れないで、熟してから冷蔵庫に入れておけば、しばらくは保管できます。冷蔵庫に保管するのは果実のままの状態で、果肉をスライスして保存すると空気に触れて、変色し成分にも変化が起こるようです。(レモン汁をかけておくと、スライスした状態で冷蔵庫にいれても変色しないそうです)アボカドを使った料理は数が多く、しかも美味しいので、糖質制限食やケトン食によるがん治療や、がん患者さんの栄養補充には極めて有用です。
(注意:ラテックス・アレルギーの人はアボカドでアレルギー反応が起こりますので、アボカドを食べて蕁麻疹や口唇の腫れなどの症状が出る人はアボカドは食べれません。バナナやキウイでアレルギーが起こる人はアボカドも食べれません。ラテックスとは、天然ゴムの原料でゴムの木から採取されます。ラテックスアレルギー(天然ゴムアレルギー)は、天然ゴムを原料とするゴム手袋など天然ゴム製品に繰り返し接触することでアナフィラキシーなど即時型アレルギー反応を起こすアレルギー疾患です。歯科医師や手術に従事する医師や看護士などに多く発症しています。医療処理を受ける際に繰り返しゴム手袋に接触する患者さんにも発症する場合があるようです。
バナナ、アボカド、キウイなどの果物には、ラテックスと似た成分を含むため、ラテックス・アレルギーの人はこれらの果物でアレルギー反応を起こすので、ラテックス・フルーツアレルギー症候群と呼ばれています。症状は、口唇の腫れや口腔内の違和感、じんま疹やアレルギー性鼻炎、結膜炎などで、重症の場合はショックに陥ることもあります。)
ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する
今あるがんが消えていく「中鎖脂肪ケトン食」
(詳しくはこちらへ)
« 305)地中海式... | 307)「乳がん... » |