がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
60) 心身一如と漢方:心が治癒力を左右する
図:心と体は密接に関連し、免疫力や回復力などの体の自然治癒力に影響する。期待感や暗示など気持ちの持ち様を変えるだけでも自然治癒力は高まる。
60) 心身一如と漢方:心が治癒力を左右する
ある医薬品の効き目を確かめるためには、「試験薬(本物)」と「試験薬に外見を似せた効果のない成分(偽薬)」を、被験者に判らないように服用してもらい、試験薬の効果が偽薬の効果よりも高いことを示す必要があります。
偽薬を「プレシーボ(placebo)」といい、偽の薬であっても薬を飲んだという暗示によって治癒効果が現われる「プラシーボ効果」という現象があるため、プラシーボ(偽薬)よりも効果が高くなければ、薬として効果があるとは言えないのです。試験内容によっては3割くらいの人にプラセーボ効果が表れる場合もあります。
これは、こころ(期待感や暗示など)が治癒力を誘発することを意味しています。プラシーボ効果の存在は心理効果や暗示作用が人間の身体の状態にいかに重要な影響を与えるかを示しており、気持ちの持ち方が治癒系に強く影響することを証明しています。「病は気から」という言葉があるように、自然治癒力はこころと切り離して考えることはできません。
不安は最大のストレスであり、特に自分の運命に対する無力、自分の将来を自分で支配できないという不安感は、強い精神的ストレスを与え、癌の進行にも促進的に作用します。したがって、期待感や安心感を持たせるだけでも効果はあるのです。
笑いとユーモアが無用の不安や緊張を解きほぐし、心と身の健康を守るということは常識になっています。精神神経免疫学の領域では、笑いというプラスの精神活動が、癌細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞などの働きを活性化して、癌に対する抵抗力を強化することが、多くの実験にて確かめられています。
癌に真っ向から立ち向かい、希望を失わなかった人は、そうでない人に比べて生存率が高くなるという結果が報告されています。不安や抑鬱や絶望といったネガティブな感情を持たないように助け合うような心理的サポートが、体の免疫力など自然治癒力を向上させ、生存期間を延ばすことも報告されています。
人は孤立していると病気になりやすいことはよく知られています。癌患者でも結婚している人は独身者より長生きするという報告があり、患者同士で励ましあい、また人間の絆を強くすることは、人々を孤立から救い、癌の延命にも役立つようです。
西洋医学では心と身体を分けて考える生命機械論を基盤にしています。
一方、東洋医学では、心と身体の働きは密接に関連するという「心身一如(しんしんいちにょ)」の観点から治療法を発展させてきました。
さて、癌が進行してもう治療法が無いというとき、西洋医学の立場の多くの医師は、患者に生を諦めることを勧めてしまいます。しかし、東洋医学を行っていると、最後まで生きることを諦めないで、体の治癒力や生命力の可能性を引き出すことを行います。その理由は、相手に安心感や期待感を持たせるだけで、症状の改善や延命効果が得られるという「心身一如」の考え方を大切にするからです。
がん治療においては、まったく方法がない、頼るものがないという不安感があると、がんの進行は早まることが知られています。このような不安感や絶望感は免疫機能を弱めることが精神神経免疫学の研究で証明されています。ひょっとしたら自分には劇的にきいてくれるかもしれないと、期待をもてる薬があることはそれだけで、QOLを高め、免疫力を高めることになるのです。
信じられる薬ほど、薬理作用以上の効果を発揮することができます。漢方薬は、2000年以上の経験の重みをもっており、まだ解明されていない未知の作用もあります。人によって効き目は異なりますが、薬が合った場合には劇的によくなることも知られています。このような漢方薬を上手に使えば、成分による物質的な薬効以上の効果を得ることができるのです。
ただし、期待感を持たせることを悪用して、「わらにもすがる」思いの癌患者さんに全く効果のない商品を高額で販売している業者が絶えないという点には注意が必要です。希望を捨てないことは大切ですが、騙されないような自分を見失わない注意も必要です。
(文責:福田一典)
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