がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
315)超高齢者はがんにならない
図:がん細胞は遺伝子変異の蓄積によって発生するという「多段階発がんモデル」が一般に受け入れられている。遺伝子変異が蓄積し、数個から十数個のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に異常が起こるとがん細胞になる。一方、活性酸素やフリーラジカルから遺伝子(DNA)変異を防ぐ抗酸化力や、がん細胞を排除する免疫監視機構(免疫力)が体には備わっており、このような治癒力ががん細胞の発生を抑えている。加齢とともに遺伝子変異はどんどん蓄積し、免疫力や抗酸化力は20歳前後をピークにして加齢とともに低下していく。この相乗作用によって、人間では40歳を超えることからがんの発生が増え、年齢とともに指数関数的に増加していく。しかし、発がん率は80歳代をピークにして、以後は年齢とともに急速に減少することが明らかになっている。これは「80歳以降に急速に減少する発がん促進因子」の存在を示唆している。つまり、超高齢になると、細胞や組織の増殖活性が低下し、がんを促進する炎症応答も不活発になり、成長因子やホルモンの分泌も急速に低下することが、超高齢者でがんの発生が減る理由かもしれない。この現象は、「がんの休眠療法」や「がんの自然退縮」や「がんとの共存」を目指す治療法のヒントになる。
315)超高齢者はがんにならない
【がんは遺伝子変異の蓄積によって発生する】
DNA(デオキシリボ核酸)の遺伝情報には、細胞を形作り機能させるための蛋白質の作り方と、その発現の量や時期を調節するために必要なマニュアルが組み込まれています。したがって、この遺伝子情報に誤りが生じるとその細胞の働きに異常が生じます。例えば、正常な細胞であれば、止めどなく分裂増殖を繰り返すということはありません。それはDNAの情報によって、分裂増殖のペースや限度がコントロールされているからです。しかし、この細胞増殖をコントロールしている遺伝子に異常が生じると細胞は際限なく分裂を繰り返すがん細胞となるのです。
誤りを起こす原因は、DNAに傷がついて間違った塩基に変換したり、遺伝子が途中で切れたりするためです。これをDNAの「変異」と呼び、DNA変異を引き起こす物質を変異原物質とよびます。環境中には、たばこ・紫外線・ウイルス・添加物など変異原物質が充満しています。変異原物質は、体内でのエネルギー産生や物質代謝の過程でも作られます。
変異原物質の共通の性質は強い化学反応性を持ち、フリーラジカルを生成する点にあります。フリーラジカルとは反応性の高まって他の物質を酸化する原子や分子のことです。化学反応性に富むため、DNAと反応してDNA変異を生じさせるのです。一方、抗酸化剤やラジカル消去剤が、がんの発生や進展に対して抑制効果があるのは、フリーラジカルによるDNA変異の機会を減らすからです。
【組織の幹細胞の遺伝子変異の蓄積ががん細胞を発生させる】
『私たちの体内では毎日数千個ものがん細胞が発生しているが、これらのがん細胞は免疫細胞(免疫監視機構)によって排除されている』、だから『がんを発生させないためには免疫力を高めることが大切』、という趣旨の内容が、いろんな書物に記載されています。しかし、『毎日数千個のがん細胞が発生している』という記述は間違いです。
私たちの体は約60兆個の細胞から構成されています。成人では1日に約1兆個(1012)の幹細胞(stem cell)が細胞分裂を行っています。DNAが分裂するときに点突然変異が起こる確率は1.1 x 10-8と言われています。もし、がんが一つの点突然変異で発生すると仮定すると、1012 x 1.1 x 10-8 = 1.1 x 104となって、1日に1万個くらいのがん細胞が発生しているという計算になります。これが先ほどの「1日に数千個がん細胞が発生している」という記述の根拠になっています。しかし、がん細胞が発生するためには、通常、数個から十数個以上のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が蓄積する必要があります。したがって、1日に何百個とか何千個のがん細胞が発生しているというのは間違いになります。(この部分の計算の参考文献:Cancer Metastasis Rev. 31: 247-268, 2012)
組織の細胞には幹細胞(stem cell)と成熟した体細胞が存在します。
組織の幹細胞とは、組織固有の多分化能を有して各臓器・組織を構成する細胞の供給源となる細胞です。
組織幹細胞は自己複製によって幹細胞を維持すると同時に、不均等分裂により一部が自己複製のサイクルから逸脱して成熟細胞へと分化して、組織を構成する細胞(体細胞)を作り出しています(下図)。
例えば、大腸粘膜組織の幹細胞は陰窩の最低部、基底膜直上に存在しており、自己複製によって幹細胞を維持すると同時に、不均等分裂によって分化した粘膜上皮細胞を作り出しています。粘膜上皮細胞に分化した細胞は、消化管内腔側に向かって移動し、数日で細胞死(アポトーシス)を起こして消化管内に脱落します。
胃や食道や小腸でも、粘膜上皮の底部付近に幹細胞が存在し、粘膜上皮細胞が供給されています。
組織幹細胞は、分裂して自分と同じ細胞を作り出すことができ(自己複製能)、またいろいろな細胞に分化できる(多分化能)という二つの重要な性質を持ち、この性質により、限られた寿命のある体細胞を絶えず供給し、傷ついた組織を修復することができるのです。
体細胞のDNAに変異が発生しても、これはがん細胞にはなりません。
例えば大腸の粘膜上皮細胞は1週間程度で死滅して新しい細胞に置き換わっているため、このような短寿命の体細胞にがん化するほどの複数の変異が蓄積することは考えにくいと言えます。つまり、短期間でアポトーシスで死滅する運命の成熟(=分化)した細胞に遺伝子変異が生じても、がん細胞に変化するとは考えにくいのです。細胞ががん化するためには、複数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に異常が重なる必要があるからです。
そこで、「組織に持続的に存在する幹細胞の遺伝子に変異が蓄積することによってがん細胞が発生する」というのが、最も妥当な考えです。
実際に、がん組織の中には正常組織における幹細胞システムに類似した階層性が存在し、その中にがん幹細胞 (cancer stem cells)と呼べるような細胞が存在して通常のがん細胞を供給しながらがん組織を構成していることが明らかになっています。すなわち、無限に自己複製を行うがん幹細胞ががん組織中に少数存在し、不均等分裂により一部が自己複製のサイクルから逸脱して分化し通常のがん細胞となっているのです。
多くの場合、このがん幹細胞の起源は通常の組織幹細胞と考えられています。すなわち、組織幹細胞に遺伝子変異が蓄積して、がん幹細胞になるというわけです。がん幹細胞(cancer stem cell)は腫瘍始原細胞(tumor initiating cell)とも呼ばれ、がん細胞を生み出すもとになる細胞であり、がん組織中に少数(数%程度)存在しています。そして、がん幹細胞は正常な組織幹細胞と同様、特別な微小環境(ニッチ)中に存在し、ニッチより分泌される液性因子などによって、多分化能の維持や分裂増殖が制御されていると考えられています。
【がんの発生率は加齢とともに指数関数的に増加する】
上記の「多段階発がんモデル」や「がん幹細胞仮説」から、私たちの体の中では、遺伝子変異が蓄積した組織幹細胞が、加齢とともに増加していくことが理解できます。そして、複数のがん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が起こった幹細胞からがん細胞(がん幹細胞)が発生すると考えられます。
一方で、私たちの体内では、活性酸素やフリーラジカルの害を軽減する抗酸化力が遺伝子変異の発生を抑えるように働いています。また、免疫監視機構が正常に働いておれば、発生したがん細胞を排除してくれます。このような体に備わった発がんに対する抵抗力は、がん細胞の発生を防ぐ抑止力になっています。
しかし、抗酸化力も免疫力も20歳前後をピークにして、加齢とともに低下していきます。
つまり、加齢に伴って、組織幹細胞における遺伝子変異はどんどん蓄積し、抗がん力(抗酸化力や免疫力など)は20歳くらいをピークに年齢とともに低下していくので、この相乗作用によって、40歳以降、がんの発生が増え、加齢とともに指数関数的に増加するということになるのです。
【がんの発生率は80歳代をピークにして、以降は急激に減少する】
体内に持続的に存在する幹細胞の遺伝子に変異が蓄積することによってがん細胞が発生し、がん細胞の発生を防ぐ免疫力や抗酸化力は高齢になればなるほど低下するので、一般的には、100歳の人の発がんリスクは80歳の人よりも高いはずです。しかし、実際は、100歳の人の方が80歳の人よりもがんの発生率も罹患率も有病率も低いことが明らかになっています。例えば、以下のような論文があります。
Cancer suppression at old age (高齢におけるがん抑制) Cancer Res. 68(11):4465-78, 2008年
米国のハーバード大学の物理学部門からの報告です。
【要旨】
加齢とともにがんの発生率が高くなるが、最近の研究では、がんの発生率は80歳あたりで頭打ちになることが示されている。我々は、がんの部位や期間(年代)とは無関係に、より高齢になるに従い、ほとんどのがんの発生率は減少し、人間の寿命の限界に向かうにつれてゼロに近づいていくことを報告する。
男性と女性の主な臓器の全てに対して、1979年から2003年の間の米国の地域がん登録のデータ(Surveillance, Epidemiology, and End Results registry records:SEER)から、3つの期間(年代)において10歳間隔でのがんの発生率に関するデータを構築し、年齢と種別がんの発性率に関する129セットのデータを得た。
高齢者集団におけるがんの発生率は、国勢調査の結果とNIH(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)の生命表から推定した。
この論文では、地域がん登録(SEER)から85歳以上の高齢者のがんの発生率の推定値を提供する。
解析の結果、ほぼ全てのがんにおいて、その発生率は80歳でピークになることが示された。
一般的には、100歳を超えるような人では、臨床的ながんが発生することは無いように思われた。(この部分の表現は「Generally, it seems that centenarians are asymptomatic or untargeted by cancers.」「100歳を超える高齢者はがんのターゲットにならない、あるいはがんがあっても症状がでるようながんにはならない」という意味)
このような超高齢者でがんの発生率が減少するという現象は、老化の亢進とがん細胞の増殖能の低下の間に関連があると考えるのが妥当である。
これまでは、老化(senescence)というのは発がんを促進する要因(carcinogen)ととらえられているが、超高齢者にとっては老化は発がんを阻害する要因(anticarcinogen)として作用する可能性も示唆される。
良く知られたアーミテージ·ドール(Armitage-Doll)の多段階発がんモデルに直線的に減少させる要因を付加することによって得られるβ曲線が示すような、がんの発生率の上昇と下降を示すモデルを提示する。発がんを抑制している医療や食事や生活習慣が長寿とどのような関連があるかを調査すべきであることをこのβモデルは意味している。
Surveillance Epidemiology and End Results(SEER)は米国で1971年に制定されたNational Cancer Act(国家がん法)のもとに、1972年にNCI(National Cancer Institute:米国がん研究所)がスタートさせた地域がん登録制度です。がんの種類毎の罹患率や死亡率などのがんに関するデータを集めています。
アーミテージ・ドール(Armitage-Doll)の多段階発がんモデルというのは、Peter ArmitageとRichard Dollによって提唱された発がんに関する仮説で、がんは生涯にわたり幹細胞に蓄積する突然変異により発生するという考えで1954年に発表されました。この説では、がんは生涯にわたり年齢のベキ乗として増加するということになります。
90歳以上の人口割合が少ない時代では、疫学データも90歳も100歳も80歳以上で1つのグループにまとめられて処理されていたため、このアーミテージ・ドールのモデルで不都合は無く、最近まで誰も異議を唱えていません。しかし、先進国では90歳以上の高齢者は急速に増加しており、100歳以上の超高齢者も珍しくなくなりました。そして、80歳以上の人口を5年ごとに分けて解析するデータも利用できるようになりました。
上記の研究の解析で使われた米国の地域がん登録(SEER)は米国人口の8~26%に相当する人口のがん発生率や死亡率のデータを集めており、極めて正確な情報です。そして、このデータを解析すると、ほぼ全てのがんで、年代(1979-1983, 1989-1993, 1999-2003の3つの年代)にかかわらず、がんの発生率は80歳をピークにして、それ以降は急速にがんの発生率が低下することを明らかにしています。
同じ研究グループが2012年のCancerにさらに詳しい解析の結果を報告しています。
Peak and decline in cancer incidence, mortality, and prevalence at old ages.(高齢者におけるがんの発生率と死亡率と有病率のピークと減少)Cancer 118(5): 1371-86, 2012
この論文では、男性の23種類のがん、女性の24種類のがんに関して、米国の2000年の国勢調査と地域がん登録のデータを解析し、以下のような結果が得られています。
がんの有病率は90歳以降急激に減少する。がんの発生率は75~90歳でピークになり、90歳以降は急激に減少する。
そして、従来の多段階発がんモデルは85歳以下にしか当てはまらないことを示唆しています。
上記の論文以外にも、超高齢者では、発がん率が減少することを示す報告は複数あります。例えば、高齢者の解剖例での検討がイタリアから報告されています。
Cancer of the oldest old. What we have learned from autopsy studies.(超高齢者のがん:剖検例の研究から我々が学んだもの)Clin. Geriatr. Med. 13(1):55-68, 1997
これはイタリアのTrieste大学の病理部門からの報告です。
Autopsy(剖検)というのは死因を明らかにするために解剖して病理学的に検査することです。この研究では、507例の高齢者の剖検例を対象に検討しています。その結果、がんが見つかった割合は、75~90歳が35%、95~99歳が20%、99歳以上が16%、という結果が報告されています。
がんが死因になった割合は、75~90歳では約25%に対して、95~99歳では9.5%、99歳以上が7.1%になっています。
がんが見つかったうち、転移が認められたのは、75~90歳では63%に対して、95~99歳では32%、99歳以上が29%になっています。
剖検でがんが見つかったうち、死亡前にがんが診断されていた割合は、75~90歳では67.4%に対して、95~99歳では38.5%、99歳以上が29.4%になっています。
この報告は、95歳以上では、90歳以下に比べて、明らかにがんの発生率が低く、また、がんがある場合でも、95歳以上では、転移を起こす率が低く、さらに臨床的症状を起こしにくいので生前に診断されることが少ないことを示しています。つまり、95歳以上では、がんの発生率が低く、がんが発生しても、おとなしい(悪性度の低い)がんが多いので、臨床的ながんを発生することが少ないということです。
高齢者のがんが若い人のがんより一般的に悪性度が低いことは以前から報告されています。日本からの報告では、日本病理学会が発行している剖検集報(主な病理機関からの年間の剖検症例の病理診断要約を登録したもの)の1991~1996年のデータを解析した論文があります。
Cancer incidence in old age.(高齢者におけるがん発せ率)Mech Aging Dev 117 (1-3):47-55, 2000
この論文では、90~94歳の場合と比較して、100歳以上では、がんの転移率は4分の3に、がんによる死亡率は、3分の2に減少することを報告し、その理由として、高齢になるほど、がん細胞の悪性度が低くなる可能性を推測しています。がんの発生率が超高齢になって増えないことも確認されており、超高齢になるとがんの発生に対して抵抗性になる可能性を推測しています。
高齢者のがんは一般に増殖が遅く、転移をしにくいおとなしいがんが多いと言われています。したがって、がんは数年あるいは十年以上かけて徐々に大きくなるのですが、それが臓器の機能障害を引き起こすほど大きくなるまでは症状が出ないため、臨床的ながんと診断される事が少ないと言えます。
老衰で亡くなった方を解剖するとがんが偶然見つかることが少なくないといわれています。この事実は、たとえがんが体の中に存在していてもがんという病気が気付かれないまま天寿を向かえる事が多いようです。
【80歳以降に急激に低下するがん促進因子の存在】
さて、80歳以降、がんの発生率が低下し、悪性度も低下する理由として、いろんな可能性が考えられます。例えば、以下のような可能性があります。
1)高齢の人は検診を受けないので、がんが見つかりにくい
2)高齢になってくると食事の内容も変わってくるので、高齢者の食事は食事性発がん物質の少ない食事をしているかもしれない。あるいは、逆に、がん予防成分の多い食事をしているかもしれない。
3)高齢者は、タバコやアルコールなど発がん率を高めるものの摂取が減る。
4)環境中や職場で暴露される可能性のある発がん物質に接触する機会が減る。
5)高齢になると食事の量が減り、体重が減少する。カロリー制限や体重減少が発がん抑制に働く可能性がある。
6)100歳まで生きるような人は何かが違っている。例えば、がんになりにくい体質を持つ、がんに対する抵抗力が高い。つまり、がんになりやすい人は若いうちにがんになって死亡し、がんになりにくい人が天寿を全うできるという考え。
超高齢者でがんの発見率が少ない理由として、超高齢者はがん検診を受けないからだという推測に対しては、たしかに数十年前であればその可能性はあるのですが、最近では、病院で亡くなる高齢者が増え、CTなどの検査法も進歩しているため、高齢者のがんの診断率は上昇しています。したがって、超高齢者で生前にがんと診断されることが少ないのは、やはり、がんの発生率が低いことと、がんが発生してもおとなしいがんが多いことを反映しています。
また、食事や環境の違いだけでは90歳以降に急激に低下することは説明できません。
カロリー制限は寿命延長とがんの発生予防に関連しています。カロリー制限による長寿遺伝子のサーチュインやAMP活性化プロテインキナーゼの活性化は、寿命の延長と発がん抑制に効果が期待できます。超高齢になると食事摂取が少なくなるので、カロリー制限や体重減少の関与はあるかもしれませんが、全てを説明するには弱いように思います。
長寿になりやすくがんになりにくいという形質(体質)があるかもしれません。90歳以上まで生きるような人はがんになりにくい体質を持っている可能性はあります。
しかし、むしろ、超長寿になったときの体内環境が、がんの発生や発育を抑える方向で作用している可能性を想定する方が合理的のように思います。
人の寿命がつきる限界に近くなると、がん細胞の発生や増殖を抑える何らかの生物学的メカニズムが存在するように思います。
例えば、老化にともなって、細胞の増殖活性が低下すると、炎症が起こっても、あまり反応しません。慢性炎症はがんを促進することが証明されています。慢性炎症によって様々な炎症性サイトカインや炎症性物質が産生されるとがんが促進されますが、そのような炎症応答が低下するとがんの発生も増殖も悪性化も低下する可能性があります。
また、細胞や組織を成長させる成長因子や増殖因子やホルモンも、超高齢になると急激に減少します。これらはがん細胞の発生や増殖を促進しています。
寿命と発がんに関連する成長因子として、例えば、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1: IGF-1)があります。
体の成長を促進する成長ホルモンは肝臓に働きかけてインスリン様成長因子-1(IGF-1)を分泌させ、このIGF-1が標的組織の細胞分裂を刺激します。したがって、多くの臓器や組織の細胞にIGF-1の受容体があり、それらの細胞から発生するがん細胞の多くがIGF-1受容体を持っています。IGF-1は臓器や組織の成長や再生を刺激するので、抗老化(アンチエイジング)の領域では若返りのホルモンとして利用されていますが、がんを促進するという問題があります。実際、IGF-1の低い人ほどがんによる死亡率が低いという報告や、IGF-1の低下しているほうが長寿であるという報告もあります。またIGF-1の働きを阻害するIGF-1結合蛋白の高い人のほうが長生きであるという報告もあります。
高齢者男性で、血中のIGF-1の濃度が高い人はがんを発生するリスクが高いという疫学研究の結果が米国から報告されています。この研究では、50歳以上の男性633人を対象に、IGF-1値を測定したのち18年間の追跡調査を行った結果、試験開始時にIGF-1値が100ng/mlを超えていた男性のがん死亡のリスクはIGF-1値が低かった男性のほぼ2倍であったということです。(J Clin Endocrinol Metab. 95(3):1054-1059. 2010年)その他の研究でも、血清IGF-I濃度が高いほど、前立腺がん、乳がん、肺がん、大腸がん、膵臓がんの発生率が高くなることが示されています。
つまり、高齢になってIGF-1が低い人は、寿命が伸び、がんの発生が抑制される可能性があります。このように、体を成長させる成長因子や増殖因子やホルモンなどは、若い人には若返り効果があるのですが、高齢になるとがんの発生を促進し、寿命を短くするようです。
加齢は発がんに重要な役割を果たしていますが、その正確なことは不明な点が多くあります。
加齢というのは発がんメカニズムにおいては、「がんの原因」とまで言われていますが、加齢に伴って急激に減少する発がん促進要因もあるようです。IGF-1などの成長因子の減少や、炎症応答の不活性化などが、その候補として可能性が高いように思います。つまり、成長因子の抑制と抗炎症作用が、「がんの抑制や休眠」や「がんとの共存」のターゲットとして重要であることを示唆しています。
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