565)抗がん剤による神経障害に対する補完療法

図:抗がん剤は中枢神経系(脳と脊髄)と末梢神経系(運動神経、感覚神経、自律神経)の両方の神経細胞にダメージを与えて様々な症状を引き起こす。抗がん剤による神経障害を軽減する補完医療として、メトホルミン、アセチル-L-カルニチン、カンナビジオール、アルファリポ酸、メラトニン、漢方薬、ビタミンB製剤などの有用性が報告されている。これらは様々なメカニズムで抗がん剤による神経障害を予防・軽減することが報告されている。神経障害の症状が現れてからでは治療は困難になるので、抗がん剤治療の初めから併用することが重要である。

565)抗がん剤による神経障害に対する補完療法

【抗がん剤による末梢神経障害とは】
神経とは体内の情報伝達を行う組織で、中枢神経系末梢神経系に分類されます。
中枢神経系は、神経系の中で多数の神経細胞が集まって大きなまとまりになっている領域で、脊髄が中枢神経系になります。
中枢神経系(脳と脊髄)から出て、手や足の筋肉や皮膚などに分布し、運動や感覚を伝える“電線”のような働きをするのが末梢神経系です。
末梢神経には、全身の筋肉を動かす運動神経、痛みや触れた感触などを感じる感覚神経、血圧・体温の調節や臓器の働きを調整する自律神経があります(下図)。

末梢神経がダメージを受けたり、働きに異常をおこした病態を「末梢神経障害」といいます。
運動神経が障害されると、「手や足の力が入らない」「物をよく落とす」「歩行や駆け足がうまくできない・つまづくことが多い」「椅子から立ち上がれない」「階段が登れない」などの症状が起こります。
感覚神経が障害されると「手や足がピリピリしびれる」「手や足がジンジンと痛む」「手や足の感覚がなくなる」などの感覚障害が起こります。
自律神経が障害されると「手や足が冷たい」「下半身に汗をかかない」「便秘や排尿障害」などの自律神経障害が起こります。
薬剤の副作用によって末梢神経障害が起こる場合があります。末梢神経障害を起こす医薬品として、抗がん剤(ビンクリスチン、パクリタキセル、シスプラチンなど)、抗ウイルス剤(抗HIV薬)、抗結核薬(イソニアジド、エタンブトール)などが知られています。
薬剤性の末梢神経障害の程度や症状は、薬剤によって異なりますが、通常は、医薬品を使用してしばらく経過した後に、手・足先のしびれ感・ほてり・痛み・感覚が鈍くなるなどの感覚障害が起こり、次第に上方(腕や脚)へ広がります。多くは両側性に起こりますが、片方だけのこともあります。さらに、筋肉に力が入らない、手や足が動きにくいなどの運動障害が起こります。

【抗がん剤による末梢神経障害は治療が困難】
神経細胞や筋肉細胞は細胞分裂を行わないため、抗がん剤や放射線治療を受けても、ダメージを受けにくいと思われています。
しかし、パクリタキセル(商品名タキソール)やドセタキセル(商品名タキソテール)などのタキサン製剤、ビンクリスチン(商品名オンコビン)やビノレルビン(商品名ナベルビン)などのビンカアルカロイド製剤、シスプラチン(商品名ランダなど)やカルボプラチン(商品名パラプラチン)やオキサリプラチン(商品名エルプラット)などの白金錯体製剤、プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ(商品名ベルケイド)では、高頻度に末梢神経障害による副作用(しびれや感覚障害や痛み)が発現します。
この末梢神経障害の原因として、神経軸索の微小管の傷害や神経細胞の直接傷害などが関連しています。
微小管は細胞骨格を形成する蛋白質であり、チューブリンというタンパク質が集まった長い直径約25nmの管状構造をもっています。微小管は細胞内の蛋白質の輸送や細胞内小器官輸送のレールとして機能しており、細胞分裂の時の染色体の移動に必要です。つまり、細胞分裂する際に、複製されたDNAは染色体と呼ばれる構造に凝集し、細胞の両極へと引き寄せられ二等分されますが、このとき染色体を分裂した2つの細胞に分離する働きをするのが微小管です。
近年、抗がん剤の標的の一つとして微小管が注目されています。がん細胞が分裂する時に、チューブリンから微小管が形成される過程を阻害すれば、細胞分裂を防ぐことができるからです。
しかし、微小管の形成を阻害することは、細胞分裂の阻害だけでなく、神経障害の原因にもなります。
神経の軸索(神経線維)は、神経細胞の細胞体から発する1本の長い突起で、他の神経細胞や筋肉に信号を伝達するケーブルのようなものです。軸索の中にある微小管は軸索の発育や物質の輸送に関連しています。神経軸索の中では、微小管は細胞体から神経軸索の先端に向かって伸びていて、微小管の上で、モータータンパク質の助けを借りて、神経軸索内でのタンパク質の輸送が行われます。

図:微小管は細胞が分裂する時に染色体の移動に必要なため、微小管の形成を妨げると細胞分裂が阻害される。また、神経細胞の信号を伝達する軸索の中にも微小管があり、軸索の発育や物質の輸送に関連している。したがって、微小管をターゲットにする抗がん剤は、その副作用としてしびれや感覚低下や痛みなどの末梢神経障害の副作用が問題になる。 

したがって、微小管をターゲットにする抗がん剤は、その副作用として神経細胞の軸索の働きを傷害し、神経の信号が正しく伝達出来なくなって、しびれや感覚障害や痛みなどの末梢神経障害の副作用を引き起こします。
タキサン系抗がん剤やビンカアルカロイド系抗がん剤は微小管を標的として作用することによりがん細胞の抑えるため、神経細胞の微小管も傷害され、神経障害を引き起こします。多くの場合、指先のしびれ感にはじまり、しだいに上の方に広がっていきます。進行すると筋力低下や歩行困難なども生じます。自律神経が障害されると便秘や排尿障害が起こることもあります。
またプラチナ製剤は、神経細胞に直接ダメージを与える結果、二次的に軸索障害をきたしていると考えられています下肢やつま先のしびれに代表される感覚性の末梢神経障害が主に起こります。
末梢神経障害を起こると、日常生活において、服のボタンがとめにくくなる、つまづきやすくなる、手や足の先がしびれる、温度感覚が無くなる、味覚が変わるなど様々な症状が発生してきます。強い痛みを感じる場合もあります。聴力障害や耳鳴りが起こることもあります。
抗がん剤による神経障害はいったん発現すると有効な対策が少なく、不可逆的になる場合もあります。したがって、症状が強い場合には、抗がん剤治療の中断や薬剤の変更を余儀なくされます。がん患者が治療を早期に中止する最も多い理由の一つです。
手足の冷感、しびれがある場合は、温かい手袋や靴下を身につけて保温し、血液循環の改善をはかります。低温時には皮膚を露出しないようにし、お湯で温めたりマッサージで血行を良くすることも効果があります。
薬物治療としては、しびれ症状の緩和のためにビタミンB製剤(B6, B12など)を用いたり、疼痛に対しては非ステロイド性抗炎症剤や副腎皮質ホルモン剤が使われることがあります。マッサージや鍼などの補完療法が利用されることもあります。
激痛に対してはオピオイド(麻薬性鎮痛剤)が必要になります。抗うつ薬や抗てんかん薬が試されることもあります。しかし、抗がん剤による末梢神経障害に対するこれらの治療法の有効性は立証されておらず、末梢神経障害の治療に使用される薬剤の中にはそれ自体に副作用がある場合もあります。すなわち、副作用が無く、抗がん剤治療の効果を妨げない方法が求められています。
副作用の少ないサプリメントとしては、アセチル-L-カルニチンαリポ酸メラトニンカンナビジオールの有効性が報告されています。糖尿病治療薬のメトホルミンの効果も報告されています。これらは、いずれも抗がん剤と併用して抗腫瘍効果を高める効果も報告されています。
漢方薬では、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)や芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の有効性が報告されています。
しかし、これらの個々の効果は弱く、単独で症状を改善することは限界があります。したがって、これらの複数の方法を組み合わせて、少しでも症状を改善することになります。

【抗がん剤による認知機能の低下(ケモブレイン)が増えている】
ケモブレイン(chemobrain)とは、chemotherapy(化学療法)の「chemo」と、brain(脳)を組み合わせて作られた用語です。「 化学療法後の脳機能障害」という意味で、抗がん剤治療中や治療後に起こる記憶や認知力の低下のことを指しています。
抗がん剤治療中あるいは治療後に、物忘れが強くなったという患者さんが多くいます。抗がん剤治療の進歩のおかげで再発率が低下し、生存期間が延長してくると、抗がん剤治療の後遺症の一つとして、記憶力や認知力の低下が問題になってきました。
命に関わることでは無いのですが、生活の質(QOL)を低下させる点で患者にとっては深刻な問題になっています。
とくにこの問題は乳がん患者の間で、1980年代後半から問題になってきました。乳がんの治療では、神経細胞の障害を起こしやすい抗がん剤が複数使用されることが多いことと、長期間延命する患者さん(乳がんのサバイバー)が多いためです。
記憶」というのは「忘れずに覚えておくこと」、「認知」というのは外界の情報を能動的に収集して処理する過程で、推理・判断・記憶などの機能が含まれます。したがって、記憶力や認知力の低下は、脳の活動の低下によって起こってきます。
記憶力や認知力が低下すると、物忘れ言葉がすぐに出て来ない物事に集中できない一度に複数の仕事や作業ができない新しいことを覚えられない、といった症状が出ます。倦怠感うつ症状も症状の一つとなる可能性があります。
このような症状が、抗がん剤治療を受けている乳がん患者の10~40%で見られると報告されています。
乳がんで抗がん剤治療をうけた70%くらいに認知機能の低下が認められたという報告もあります。自分では気づかなくても、記憶力や認知機能を検査すると低下があることが示されています。認知症の初期はほとんど自分で気づかないのと同じです。
ケモブレインの主な原因は、抗がん剤による神経のダメージ(神経毒性)です。
一般的には、細胞分裂を行わない神経細胞は抗がん剤によるダメージは少ないのですが、メソトレキセート、パクリタキセル、5-FUなど、神経細胞に毒性を示す抗がん剤も多くあります。
ケモブレインは末梢神経障害とはメカニズムが異なる可能性も指摘されています。メソトレキセート5−FUシクロフォスファミドのように末梢神経障害を引き起こすことが少ない抗がん剤治療が、神経系の炎症や神経細胞の新生(neurogenesis)を阻害して認知機能を低下させることが指摘されています。
シスプラチンなどの白金製剤でも認知機能の低下が問題になっています。 シスプラチンは脳の神経幹細胞を障害することが報告されています。
メソトレキセートは代謝阻害剤で、神経細胞の活動を低下させるので、倦怠感、睡眠障害の原因となる場合があります。
5-FUはプルキンエ細胞(小脳にある神経細胞)にダメージを与え、嚥下障害や不随意運動を起こす場合があります。さらに脳神経にダメージを与えて、言語障害、嗅覚脱失、歩行時のふらつき、舌のもつれなどの症状などの症状が出ることもあります。
ドセタキセルパクリタキセルは末梢神経にダメージをあたえて感覚障害を引き起こし、脳神経のダメージによって言語障害、健忘症、運動失調などもみられます。
症状が軽い場合には、抗がん剤の副作用なのか老化現象なのか判断が困難な場合が少なくありません。また、抗がん剤による神経のダメージだけでなく、治療に伴うストレスが関与している場合もあります。
さらに、抗がん剤によって卵巣機能が低下してホルモンバランスが障害されて、更年期症状として記憶力の低下が起こることもあります。
抗がん剤以外の服用している医薬品の副作用が関与している場合もあります。
いずれにしても、ケモブレインの症状は、老化に伴う記憶力や認知力の低下と似ているため、生活の質を悪化させる要因になっていることは間違いありません。さらにその症状の発症には複数の要因が絡んでいる場合も多いため、有効な治療法がないのが実情です。

【抗糖尿病薬のメトホルミンは抗がん剤誘発性末梢神経障害を軽減する】
糖尿病治療薬のメトホルミンはがん予防効果があり、さらに、抗がん剤治療の効き目を高めることが動物実験や臨床試験で報告されています。(561話参照)
さらに、抗がん剤の副作用の神経障害を軽減する効果も報告されています。以下のような報告があります。

The anti-diabetic drug metformin protects against chemotherapy-induced peripheral neuropathy in a mouse model.(抗糖尿病薬のメトホルミンはマウスの実験モデルにおいて抗がん剤誘発性末梢神経障害を軽減する)PLoS One. 2014 Jun 23;9(6):e100701.

【要旨】
手足の感覚喪失と痛みを特徴とする抗がん剤誘発性末梢神経障害は、多くの抗がん剤の主要な用量制限毒性である。現在、抗がん剤誘発性末梢神経障害に対するFDA(米国食品医薬品局)承認の治療薬はない。
抗糖尿病薬のメトホルミンは、世界で最も広く使用されている処方薬であり、糖尿病患者の血糖コントロールを改善する。
メトホルミンががん治療の有効性を高めるという証拠が幾つか示されている。この研究の目的は、メトホルミンが抗がん剤誘発性の神経障害性疼痛および感覚欠損を軽減するという仮説を検証することにある。
マウスに、メトホルミンまたは生理食塩水と共にシスプラチンを投与した。
シスプラチンは機械的刺激に対する感受性亢進(機械的異痛)を増加させることがフォンフライ(von Frey)試験で示された。このシスプラチン誘発性の機械的異痛はメトホルミンの同時投与によって、ほぼ完全に防止された。また、メトホルミンの同時投与は、パクリタキセル誘導性の機械的異痛を予防した。
マウスの後肢の接着したパッチを検出する能力は、抗がん剤誘発感覚欠損の新規指標として用いられた。
メトホルミンの同時投与は、シスプラチンによる接着パッチを検出する時間の遅れを予防した。これは、メトホルミンが抗がん剤誘発性の感覚欠損を予防することを示している
さらに、メトホルミンは、シスプラチン治療の結果として発生する足の表皮内神経線維の密度の低下を防止した
以上の実験結果から、抗がん剤誘発性神経障害のマウスの実験モデルにおいて、メトホルミンが疼痛および触覚機能の喪失を防ぐことを明らかにした
メトホルミンが末梢神経終末の喪失を減少させるという結果は、メトホルミンの有益な効果のメカニズムに神経保護活性を含むことを示している。
メトホルミンは2型糖尿病の治療に広く使用されており、安全性が高く、現在がん治療における補助薬として試験されているため、これらの実験結果を速やかに臨床応用の研究へとつなげなければならない。 

抗がん剤治療中に神経障害が発生しないようにすることが重要です。その目的では、抗がん剤治療と同時に服用して抗がん剤の末梢神経障害の発生を阻止する作用がメトホルミンに認められたことは意義が大きいと言えます。メトホルミンは抗がん剤治療と併用することによって抗がん剤治療の効き目を高めることが多くの研究で示されているからです。

【メトホルミンはケモブレインの予防にも有効】
前述の論文は米国のテキサス大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas M.D. Anderson Cancer Center)の研究グループからの報告です。以下の論文も同じ研究グループからの報告です。抗がん剤による認知機能の低下(ケモブレイン)の発症をメトホルミンが予防するという報告です。

Metformin Prevents Cisplatin-Induced Cognitive Impairment and Brain Damage in Mice(メトホルミンはマウスの実験系でシスプラチン誘発性の認知機能障害と脳傷害を予防する)PLoS One. 2016; 11(3): e0151890.

【要旨】
研究の根拠:抗がん剤誘発性の認知機能障害は「ケモブレイン」として知られており、がん治療の副作用としてしばしば認められ、がん生存者を長く苦しめている。
しかし、この抗がん剤治療誘発性の認知機能障害を予防または治療するために有効な薬剤はない。
この研究の目的は、シスプラチン誘発性認知機能障害のマウスモデルを確立し、抗糖尿病薬メトホルミンの予防効果を検討することである。
結果:C57 / BL6Jマウスにおけるシスプラチン(累積投与量34.5mg / kg)の投与は、新規の対象物および場所の認識課題ならびに認知障害を示す社会的識別課題において遂行能力の低下を認めた。
メトホルミンの同時投与は、これらのシスプラチン誘発認知機能障害を軽減した
解剖学的には、シスプラチンは帯状皮質の白質線維の結合性を低下させた。さらに、ゴルジ染色で定量化された樹状突起棘および神経分岐の数は、シスプラチン処置後に減少した。
メトホルミンを同時に投与すると、シスプラチン処置マウスにおけるこれらの解剖学的な異常の全てを防止した
ケモプレインの他の実験モデルで報告されているものとは異なり、我々はシスプラチン処置マウスの脳におけるミクログリアまたはアストロサイトの持続的な活性化の証拠を有していない。
最後に、メトホルミンの同時投与がシスプラチン誘発性末梢神経障害に対しても保護作用を示すことを示す。
結論:以上の結果をまとめると、シスプラチンの投与はマウスに認知機能の障害を引き起こし、それに関連する脳の解剖学的異常に引き起こすことを初めて示した。
さらに、我々は、広く使用され、安全な抗糖尿病薬であるメトホルミンが、このようながん治療の有害な作用に対して保護的に作用することを示す証拠を示した
がん治療を受けている患者の併用療法としてのメトホルミンの潜在的有効性を検討するための臨床試験が進行中であることを考慮すると、これらの結果は臨床応用に向けて速やかに考慮されなければならない。

メトホルミンは抗がん剤治療の効果を高めることが多くの研究で示されており、さらに抗がん剤による末梢神経および中枢神経のダメージを予防する効果が示唆されるので、臨床試験を行って評価すべきだと、この研究グループは主張しています。

【アセチル-L-カルニチンの神経保護作用】
アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)L-カルニチン(L-Carnitine)にアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。
L-カルニチンは、生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質で、アミノ酸から体内で生合成されます。L-カルニチンは脂肪酸と結合し、脂肪酸をミトコンドリアの内部に運搬する役割を担っています。L-カルニチンは脂肪燃焼を促進して抗がん剤治療に伴う倦怠感や抑うつ気分の改善に効果があります。 体内のL-カルニチンの一部はアセチル-L-カルニチンの状態で存在します。 

アセチル-L-カルニチンは中枢神経系や末梢神経系に広く存在し細胞内における脂肪酸の代謝に重要な役割を果たしています。 神経細胞のダメージの修復や再生を促進する効果が知られています。
アルツハイマー病の進展を遅らせる効果や、高齢者の認知能や記憶能を改善する効果が報告されています
さらに、様々な原因(糖尿病や薬剤など)で引き起こされる知覚過敏や神経性疼痛を改善する効果が報告されています。 
したがって、抗がん剤治療による末梢神経障害とケモブレインの予防と治療に効果が期待できます。


パクリタキセル投与によって発生する疼痛を伴う末梢神経障害に対して、アセチル-L-カルニチンをパクリタキセル投与と同時に使用すると末梢神経障害の発生を予防し、末梢神経障害が完成した状態で使用しても、その症状を軽減することが動物実験で示されています。

Acetyl-l-carnitine prevents and reduces paclitaxel-induced painful peripheral neuropathy(アセチル-L-カルニチンはパクリタキセルによる痛みを伴う末梢神経障害を予防し軽減する)Neurosci Lett 397:219-223, 2006

(論文要旨) 

パクリタキセル(商品名:タキソール)の副作用の末梢障害による痛みに対するアセチル-L-カルニチンの有効性について、ラットを用いた動物実験で検討した。 
ラットの腹腔内に2mg/kgのパクリタキセルを隔日で4回投与すると、機械的刺激に対して著明な痛覚過敏が現れる。
パクリタキセル投与開始から投与後14日間アセチル-L-カルニチン(50mg/kgと100mg/kg)を経口で投与すると、パクリタキセルで誘導された痛覚過敏の発生を抑制した。この効果はアセチル-L-カルニチン投与終了の3週間以上持続した。 

別の実験では、パクリタキセルで痛覚過敏を誘導したあと、アセチル-L-カルニチン(100mg/kg,10日間)を投与すると、痛みの軽減が認められた。この鎮痛効果はアセチル-L-カルニチンの投与を中止すると消失した。 以上の結果から、アセチル-L-カルニチンは抗がん剤によって引き起こされる末梢神経障害による疼痛の予防と治療に効果があることが示唆された

マウスで100mg/kgは人間では15mg/kg程度に相当します。標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、100mg/kgの7分の1の用量(14 mg/kg)が一つの目安となります。(293話参照)
前向き臨床試験でアセチル-L-カルニチンの有効性が報告されています。以下のような報告があります。 

A prospective study to evaluate the efficacy and safety of oral acetyl-L-carnitine for the treatment of chemotherapy-induced peripheral neuropathy(抗がん剤誘発性の末梢神経障害の治療としてアセチル-L-カルニチンの経口摂取の有効性と安全性を評価する前向き臨床試験)Exp Ther Med. 2016 Dec; 12(6): 4017–4024.

この論文では、抗がん剤によって誘発される末梢神経障害の治療のためにアセチル-L-カルニチンの有効性と安全性を評価する目的で、前向きのランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験を行っています。対象は抗がん剤誘発性末梢神経障害を有する239人の患者で、このうち118人は1日3gのアセチル-L-カルニチンを8週間経口摂取し、121人はプラセボ(偽薬)を服用しました。
主な評価項目は少なくとも1グレード以上の末梢神経障害の改善で、患者の状態は試験開始4週後、8週後、12週後に評価しています。
この論文の結論は「アセチル-L-カルニチンの経口摂取は抗がん剤で誘発はれる末梢神経障害の軽減に有効であり、さらに、がんに伴う倦怠感を軽減し、全身状態を改善する」となっています。 

アセチル-L-カルニチンには様々な健康作用が報告されています(557話参照)。抗がん作用も報告されています。抗がん剤治療にアセチル-L-カルニチン(1日に1〜2g程度)併用するメリットは大きいと言えます。

【R体αリポ酸の神経保護作用】
アルファリポ酸(α-lipoic acid、別名:チオクト酸)は、多数の酵素の補助因子として欠かせない体内成分です。特に、クエン酸回路のピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の補助因子として、ミトコンドリアでのエネルギー産生に重要な役割を果たしています。
植物と動物(人間も含む)の体内で少量産生されていて、動物では脂肪酸とシステインから肝臓で合成されます。1950年に牛の肝臓から分離され、かつてはビタミンB群のビタミンに分類されていましたが、体内で合成されるため、現在ではビタミンとは分類されていません。ビタミン様物質と認識されています。

抗酸化作用、糖代謝を促進する作用、体内の重金属を排出する作用、糖尿病の神経障害を改善する効果などがあり、糖尿病や動脈硬化関連疾患(虚血性心疾患や脳梗塞)、多発性硬化症、認知症などの疾患の予防や改善に効果があることが報告されています。
特に活性酸素などのフリーラジカルによる酸化障害が発症や病態進展に関連している疾患の治療に効果が認められています。

ドイツでは、アルファリポ酸は糖尿病による神経障害の治療薬として認可されています。
アルファリポ酸を1日量として600-1,200mg経口摂取あるいは静脈注射で用いたところ、3~5週間で糖尿病患者の末梢神経障害の症状を軽減したことが報告されています。
酸化ストレスや炎症によって活性化される転写因子のNFκBは、がん細胞の増殖や抗がん剤抵抗性を促進します。
アルファリポ酸は強い抗酸化作用によってNF-κBの活性を低下させ、がん細胞の増殖を抑え、抗がん剤が効きやすくする効果があります。

さらに、抗がん剤による神経障害や腎臓障害などの副作用の軽減作用や症状の改善効果が報告されています。ドキソルビシンの心臓障害を軽減する効果が報告されています。
抗がん剤(ドセタキセル+シスプラチン)による末梢神経障害を軽減する効果が報告されています。

Amelioration of docetaxel/cisplatin induced polyneuropathy by α-lipoic acid.(ドセタキセルとシスプラチンによって引き起こされる多発神経炎のαリポ酸による軽減)Annals of Oncology, 14: 339-340, 2003

(要旨) 

ドセタキセルは分裂している細胞のチューブリンに結合し、その重合を阻害することによって細胞分裂を阻止し抗腫瘍作用を示す。特に非小細胞性肺がんや頭頚部がんや乳がんに対して強い抗腫瘍作用を示す。

副作用としては、骨髄抑制(白血球減少)などの他に、末梢神経障害が問題になることが多い。神経障害作用のある他の抗がん剤(シスプラチンなど)と併用した場合、末梢神経障害が投与量を制限する原因となる。 

タキサン系抗がん剤による神経障害は、治療開始の早期から起こり、投与を中止すると軽減する。しかし、シスプラチンによって生じる神経障害は、ある程度投与が進んだ後に発生し、投与を中止してから1ヶ月くらい悪化することもある。 

アルファリポ酸は、糖尿病性神経症の改善効果があり、血液循環を良くし、酸化障害を軽減し、血管機能を改善する効果がある。糖尿病性神経症がαリポ酸の投与によって神経症の症状が軽減することが臨床試験で明らかになっている。
この研究では、進行した胃がん(5例)、非小細胞性肺がン(6例)、頭頚部がん(3例)の患者を対象に、ドセタキセルとシスプラチンの併用による抗がん剤治療に伴う末梢神経障害に対するαリポ酸の効果を検討した。
αリポ酸は週に1回600mgの静脈注射を3~5週間行い、続いて1800mgの1日2回の経口摂取を神経障害の症状が消失するまで継続した。 神経障害の程度はαリポ酸の投与によって軽減した

【メラトニンの神経障害改善作用】
メラトニンは脳の松果体から放出される体内時計を調節するホルモンです。暗くなると体内のメラトニンの量が増えて眠りを誘います。快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして評判になりましたが、最近の研究で抗老化作用や抗がん作用なども報告されています。

がん治療に関してメラトニンには以下のような効果・効能が報告されています。



1) メラトニンには抗酸化作用があり、活性酸素によるダメージから細胞を保護する。

2) メラトニンはがん細胞に対する免疫力を高める。 

3) メラトニンはがん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果が報告されている。

4) メラトニンは抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、さらに抗がん剤や放射線による抗腫瘍効果を増強して生存率を高める効果が多くの臨床試験で報告されている。
ホルモン療法(タモキシフェン)を受けている進行した乳がん患者において、1日20mgのメラトニンの服用に延命効果があることが報告されている。

手術不能の肝細胞がんの肝動脈化学塞栓療法(TACE)による治療前後にメラトニン(20mg/日)を服用すると切除手術の実施率と生存率を高める効果が報告されている。

5) 手術前後に服用すると、創傷治癒を早める効果や、免疫力を高めて感染症を予防する効果が報告されている。

6) 末期がん患者に投与して、生存期間を延ばす効果が報告されている。



さらに、抗がん剤治療による末梢神経障害を軽減する効果が報告されています。以下のような報告があります。

Melatonin, a promising role in Taxane-Related neuropathy (メラトニン:タキサン系抗がん剤による神経障害における有望な役割)Clinical Medicine Insights: Oncology 4: 35-41 ,2010年

【論文要旨】 

目的:メラトニンには神経細胞をダメージから保護する作用があることが動物実験で示されており、神経障害を含めて抗がん剤治療の副作用を軽減する効果が示唆されている。この予備試験(第2相試験)では、タキサン系抗がん剤で治療中の乳がん患者において、メラトニンが神経障害の頻度や重症度を軽減できるかどうかを検討した。 

方法:パクリタキセル(タイキソール)あるいはドセタキセル(タキソテール)による治療を受けた22例の乳がん患者を対象にし、副作用の程度や生活の質(QOL)を評価した。患者は抗がん剤治療開始と同時に1日21mg(3mgを7錠)のメラトニンを就寝時に服用した。メラトニンは抗がん剤治療後も28日間服用し、抗がん剤終了の28日後に神経障害の程度を評価した。 

結果:神経障害は22例中10例(45%)で見られ、グレード1の神経障害が5例(23%),グレード2の神経障害が5例(23%)で認められた。グレード3以上の神経障害は認めなかった。55%の患者は神経障害を訴えなかった。その他の副作用としては、グレード3の吐き気と嘔吐を3例、グレード3の倦怠感を1例に認めた。 

結論:タキソール(パクリタキセル)やタキソテール(ドセタキセル)のようなタキサン系抗がん剤の治療中にメラトニン(21mg)を服用すると神経障害の副作用を軽減できるメラトニンはタキサン系抗がん剤の神経障害の発生を予防し、副作用を軽減してQOL(生活の質)を良い状態で維持する上で有効である。抗がん剤による神経障害の予防や治療におけるメラトニンの有効性を検討するために大規模な臨床試験を行う価値がある。

この臨床試験は対照(プラセボ)群なしのオープントライアルであり、22例の予備的な臨床試験では、55%が神経障害の副作用がみられず、グレード3の強い神経障害も認められなかったので、メラトニンがタキサン系抗がん剤の神経障害を軽減する効果を示唆しています。

その理由は、この研究で投与されたタキソールやタキソテールの治療では、通常60~90%に神経障害が発生し、強い感覚障害が30%くらいに認められ、20%くらいの患者では、抗がん剤の投与量を減量せざるを得なくなると言うデータがあるからです。
このようなデータと比較して、今回の研究では45%の発生であったので、メラトニンに神経障害の軽減効果があると言っています。

プラセボ対照ランダム化試験の結果が出るまでは、その有効性は証明できません。しかし、抗がん剤治療や放射線治療にメラトニンを併用すると副作用の軽減や生存期間の延長が複数のランダム化比較試験で確かめられています。
したがって、タキサン系抗がん剤治療中にメラトニンを併用すると、神経障害を含めた副作用を軽減できる可能性はあります。
メラトニン単独では神経障害の軽減効果は弱いかもしれませんが、アセチル-L-カルニチンやαリポ酸と併用すると相乗効果が期待できる可能性があります。


【漢方薬】
漢方薬は、抗酸化作用や細胞保護作用によって抗がん剤によるダメージを軽減する予防効果や、組織の血液循環や新陳代謝を高めてダメージを受けた組織の回復を促進する効果があります。
また、神経の痛みやしびれに効果がある生薬もあります。抗がん剤によるしびれや痛みに対して効果が報告されている漢方薬に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)があります。

牛車腎気丸は地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・牡丹皮・茯苓・附子・桂皮・牛膝・車前子の10種類の生薬を組み合わせて作られた漢方薬です。
この10種類のうち、地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・牡丹皮・茯苓の6つは六味丸(ろくみがん)という処方です。六味丸は老化に伴う諸症状の改善に使用します。
六味丸に附子桂皮を加えたものが八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方薬です。附子と桂皮は共に血液循環を良くし、体を温めます。附子には鎮痛作用やしびれを改善する効果があります。したがって、八味地黄丸は老化に伴う諸症状に加えて冷えが強い場合に使用します。

この八味地黄丸に牛膝車前子を加えた処方が牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)です。牛膝は下肢の血液循環を良くし、車前子は利水作用によってむくみをとります。これにより、八味地黄丸の効能に加えて、むくみ、しびれ、関節痛に対する効果が強化されます。

表:牛車腎気丸は、腰痛や関節痛が強く、浮腫傾向の目立つ場合に用いられる。糖尿病性神経障害ほか、末梢血行障害の関与が疑われるものに頻用されている。抗がん剤の副作用による末梢神経障害の改善にも有効性が報告されている。

つまり、牛車腎気丸は血液循環を良くし、体を温め、鎮痛作用やむくみを軽減する効果のある漢方薬と言えます。通常、腰痛や関節痛が強く、浮腫傾向の目立つ場合に用いられ、座骨神経痛や糖尿病性神経障害ほか、末梢血行障害の関与が疑われるものに頻用され、有効性が示されています。

抗がん剤の副作用による末梢神経障害の改善にも使用され、多くの研究が報告されています。
例えば、乳がんにおけるパクリタキセルの末梢神経障害に対して牛車腎気丸のエキス製剤(ツムラ TJ-107)を使用すると80%以上の例でしびれ、疼痛など何らかの症状が緩和したという報告があります(大阪市立大学腫瘍外科 高島勉)。

卵巣がんや子宮体がんに対してパクリタキセルとパラプラチンを併用する抗がん剤治療に実施した場合にみられる末梢神経障害に対しても、牛車腎気丸の有効性が報告されています(三重大学婦人科 田畑務)

また、芍薬甘草(しゃくやくかんぞうとう)はこむらがえりや生理痛など様々な筋肉痛に対して使用される漢方薬ですが、パクリタキセルなどによる関節痛や筋肉痛に対して芍薬甘草湯の有効性を示す報告もあります。(近畿大学産婦人科 山本嘉一郎)

牛車腎気丸や芍薬甘草湯に使われている生薬に、さらにしびれや痛みに効果のある生薬(威霊仙など)や、血液循環を良くする生薬(桃仁、紅花、延胡索など)を加えた煎じ薬を用いるとさらに効果が高めることができます。

【カンナビジオール】
大麻草に含まれるカンナビジオールは抗がん剤の様々な副作用を軽減する作用があります。パクリタキセルによる神経性疼痛を緩和する作用が報告されています。

Cannabidiol inhibits paclitaxel-induced neuropathic pain through 5-HT(1A) receptors without diminishing nervous system function or chemotherapy efficacy. (カンナビジオールは、神経系の機能や抗がん剤の効果を減弱することなく、5HT1A受容体を介してパクリタキセル誘発性の神経性疼痛を阻止する)Br J Pharmacol. 171(3):636-45.2014年

【要旨】 

研究の背景と目的:パクリタキセルは末梢神経にダメージを与えて痛みを引き起こす副作用があり、これによって抗がん剤治療を中断せざるを得ない場合もある。我々は以前の研究において、精神変容作用を持たないカンナビノイド(大麻に含まれるある種の成分の総称)の一つであるカンナビジオールが、パクリタキセルによる機械的および温熱による疼痛感受性の亢進を阻止する作用を有することをマウスを使った実験で明らかにした。 抗がん剤による末梢神経障害を阻害するカンナビジオールの作用のメカニズムを明らかにし、カンナビジオールの作用が神経機能や抗がん剤の抗腫瘍効果を減弱させる作用がないかどうかを検討した。 

主な結果:マウス(C57Bl/6 mice)を使った実験で、パクリタキセルで誘発される機械的刺激に対する疼痛感受性の亢進はカンナビジオール(2.5~10mg/体重1kg)の投与によって阻止された。この効果は5−HT(1A)受容体のアンタゴニスト(拮抗薬、阻害薬)であるWAY100635の同時投与によって減弱したが、カンナビノイド受容体のCB1のアンタゴニスト(SR141716)やCB2のアンタゴニスト(SR144528)では減弱しなかった。
カンナビジオールの投与によってマウスの学習機能や認知機能などに低下は認めなかった。 培養乳がん細胞を用いた実験では、パクリタキセルとカンナビジオールの併用は、相加あるいは相乗的な抗腫瘍効果の増強を示した。 

結論:今回の実験結果より、カンナビジオールはパクリタキセルによって引き起こされる神経障害を予防する効果を示し、その作用機序として5-HT1A受容体を介する機序が示唆された。さらに、学習効果や認知機能などの神経系の働きに悪影響は及ぼさず、乳がん細胞に対するパクリタキセルの抗腫瘍効果を減弱させることはなかった。

以上のことから、パクリタキセルによる抗がん剤治療にカンナビジオールを併用することは、神経障害の発生予防や軽減において有効で安全な治療法と言える

カンナビジオールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しませんが、Ca透過性イオンチャネルのTRPV(transient receptor potential vanilloid type)やセロトニン受容体の5-HT1Aなど幾つかの受容体に作用することが報告されています。

この論文では、5-HT1A受容体の拮抗薬によってカンナビジオールの神経障害抑制効果が減弱(阻止)されたので、カンナビジオールの神経障害抑制作用はこの5-HT1A受容体の関与を示唆しています。 

5-HT1A受容体はセロトニン受容体の一種で、5-HT1A作動薬は抗不安抗うつ作用などの作用があります。7回膜貫通型のG蛋白共役型受容体で、アデニル酸シクラーゼ活性の抑制や、内向き整流性カリウムチャネルを活性化して神経活動を抑制(過分極)することが知られています。 

5-HT1A受容体は不安障害やうつ病の治療標的分子として長く研究されてきましたが、最近の研究によって統合失調症やパーキンソン病の新たな治療ターゲットとしても注目されるようになってきました。実際にカンナビジオールが統合失調症など精神疾患に有効であることが報告されています。 このような作用から、抗がん剤による末梢神経障害による痛みや感覚異常やしびれに対する効果が得られるのかもしれません。

【抗がん剤による神経障害の予防は早い段階から開始する】
抗がん剤の副作用の中で、吐き気や胃腸障害は抗がん剤投与が終了すれば起こらなくなり、白血球減少などの骨髄障害も、抗がん剤投与が終了すれば回復してきます。
しかし、末梢神経障害は、抗がん剤治療が終了したあとも長く続くことが多く、数ヶ月や数年間ほとんど症状が改善しない場合もあります。
抗がん剤による末梢神経系や中枢神経系のダメージを防ぐには、抗がん剤治療中から対処する必要があります。神経障害の症状が強く出てからでは、治療は困難です。
このような抗がん剤による末梢神経障害に対して有効性が証明された治療法はまだありませんが、動物実験や小規模な臨床試験で有効性が報告されているサプリメントとして前述のようにアセチル-L-カルニチン、αリポ酸、メラトニン、カンナビジオールがあります。これらはいずれもサプリメントで、副作用はほとんど無く、しかも抗がん剤治療の副作用軽減だけでなく、抗腫瘍効果を高める効果も報告されています。

また、糖尿病治療薬のメトホルミンは、抗がん剤の効き目を高める作用もあり、末梢神経系と中枢神経系のダメージを軽減する効果があります。

重要なことは、これらのサプリメントや医薬品は抗がん剤治療中から服用することです。神経のダメージが強くなってからでは、効果は弱くなります。

抗がん剤治療による末梢神経障害の予防と治療において、この5種類を組み合わせる方法は試してみる価値があると思います。抗がん剤による神経障害を軽減するだけでなく、倦怠感の軽減など全身状態の改善にも有効で、抗がん剤治療による抗腫瘍効果を高める作用もあります
さらに、神経の再生を促す働きがあるビタミンB1,B6,B12牛車腎気丸のような血液循環を良くししびれや痛みに使用される漢方薬や、芍薬甘草湯のように筋肉痛に有効な漢方薬を併用すると、症状を改善する効果を高めることができます。漢方薬の場合は煎じ薬を使用すると、さらに効果を高めることができます。

◎ 抗がん剤の副作用による神経障害を軽減する漢方治療とサプリメントの紹介はこちらへ

 

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