がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
278)ワールブルグとセントジョルジと「体にやさしいがん治療」
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図:がん細胞ではグルコースの取り込みと嫌気性解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されている。これをワールブルグ効果と言う。グルコースの取り込みが増えると、アミノ酸や核酸や脂肪酸の合成に必要な中間代謝産物を増やすことによって、細胞の増殖に必要な細胞成分を増やすことができる。乳酸と水素イオン(H+)はがん組織を酸性化し、周囲正常組織にダメージを与え、がん細胞の浸潤や転移を促進する。ミトコンドリアの酸化的リン酸化が抑制されるとアポトーシスが起こりにくくなる。したがって、ワールブルグ効果はがん細胞の増殖に有利に働き、がん細胞のワールブルグ効果を阻害するとがん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスを誘導することができる。
がん細胞の増殖や代謝に関するオットー・ワールブルグとアルベルト・セントジョルジの二人の偉大な科学者の理論は、体にやさしいがん治療を考える上で非常に重要となっている。
278)ワールブルグとセントジョルジと「体にやさしいがん治療」
【オットー・ワールブルグ博士とアルベルト・セント-ジョルジ博士】
オットー・ワールブルグ(Otto Warburg:1883年~1970年)博士は呼吸酵素(チトクローム)の発見で1931年にノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツの生化学者です。細胞生物学や生化学の領域で重大な基礎的発見を次々に成し遂げ、呼吸酵素以外の研究でも何回もノーベル賞候補になった偉大な科学者です。そのワールブルグ博士が最も力を注いだのががん細胞のエネルギー代謝の研究です。学生時代からがん研究に関心をもち、がん細胞の異常な増殖を解明するためには、エネルギー生成の反応系を研究しなければならないということから、呼吸酵素を発見しています。そして、がん細胞ではグルコースから大量の乳酸を作っていること、がん細胞は酸素が無い状態でもエネルギーを産生できること、さらに、がん細胞は酸素が十分に存在する状態でも、酸素を使わない方法(嫌気性解糖系)でエネルギーを産生していることを見つけています。
がん細胞ではミトコンドリアにおける酸化的リン酸化によるエネルギー産生が低下し、細胞質における嫌気性解糖系を介したエネルギー産生が増加している現象はワールブルグ効果(Warburg effect)として知られていますが、このワールブルグ効果が発見されたのは80年以上も前(1926年)のことです。
アルベルト・セント-ジョルジ(Albert Szent-Gyorgyi:1893-1986)博士は、ビタミンCの発見で有名ですが、細胞の呼吸反応(後にTCA回路と呼ばれる)の研究を行い、細胞呼吸(生物学的燃焼)におけるビタミンCとフマル酸の触媒作用に関する発見で1937年にノーベル生理医学賞を受賞したハンガリー出身(1947年にアメリカ合衆国に移住)の生理学者です。(ちなみに1937年のノーベル化学賞は、ビタミンCの構造を決定したウォルター・ハースが受賞しています)
セント-ジョルジはその後筋肉の収縮の研究を行い、アクチンとミオシンとによる筋肉収縮のメカニズムを発見しています。さらに、1950年代末からはがんの研究を精力的に行っています。今では常識になっているフリーラジカルと発がんの関連を最初に指摘したのがセント-ジョルジです。
セント-ジョルジはがん細胞が異常に増殖するメカニズムに注目し、がん細胞の増殖を抑制する物質や促進する物質の研究を行っています。1960年代に妻と娘をがんで亡くしてから、がんの治療薬の開発に力をいれています。
セント-ジョルジ博士がノーベル賞を受賞した1937年は、酸素呼吸をする生物全般に存在するエネルギー産生のための生化学反応であるTCA回路(クエン酸回路やクレブス回路などとも呼ばれる)がドイツの化学者ハンス・クレブス(Hans Krebs)博士によって発見された年です。クレブス博士はこの功績によって1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。(クレブス博士は一時期ワールブルグ博士の研究助手として働いており、ワールブルグ博士の伝記を書いています。日本語訳は1982年に岩波書店から出版)。
このように1930年代は、細胞呼吸によるエネルギー産生のメカニズムが明らかになった時代です。その当時にがん細胞のエネルギー産生の研究を行いワールブルグ効果を発見したワールブルグ博士は、「がん細胞では酸素が十分にある状況でも、酸素を使わない嫌気性解糖系でエネルギー産生を行っている」ことが発がんの原因であると考えていました、しかし、これはがんの原因ではなく、酸素欠乏状態にある結果として仕方なくそうなるのだという考えが主流で、最近までこのワールブルグ効果はほとんど重視されていませんでした。
1950年代からがん治療の研究に没頭したセント-ジョルジ博士も、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える方法を見つけることを目標にしていました。しかし、当時のがん治療の考え方は、「がんはいかなるコストを払っても抹殺すべき」という考えが主流でした。
最初の抗がん剤はナイトロジェンマスタードで、第一次世界大戦に化学兵器として使われたマスタードガスのイオウ原子を窒素に置き換えた化合物です。DNAをアルキル化することによって核酸の合成を阻害して細胞の増殖を抑えます。白血病や悪性リンパ腫の治療薬として効果を認められましたが、その作用機序から明らかなように正常細胞に対する毒性による副作用が強いのが問題です。その後毒性を弱めたナイトロジェンマスタード誘導体が開発され、シクロフォスファミドやメルファランといった抗がん剤が現在も使用されています。これらはアルキル化剤という抗がん剤に分類されています。ナイトロジェンマスタードが最初にがん患者に使用されたのは1946年です。
つまり、セント-ジョルジががんの研究を精力的に行っていたころ(1960年代から80年代)は、強い毒性をもった化合物を使ってがん細胞を一掃するような治療法が主流になっていました。
セント-ジョルジはそのような抗がん剤治療の考え方には反対で、より安全な治療法の開発を目指しました。がん細胞を直接死滅させるのではなく、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える方法を見つけることを目標にしました。しかし、当時は「がん細胞を死滅させる細胞毒を見つけて抗がん剤にする」ような研究が重要と考えられていたため、セント-ジョルジが提唱する「がん細胞の代謝の異常を正常化させて増殖を抑制する」ような方法論に基づいた研究は次第に忘れ去られていきました。
【セント-ジョルジのがん研究と発酵小麦胚芽エキス(Avemar)】
ワールブルグもセント-ジョルジも偉大な科学者で、二人とも、がん治療においてエネルギー代謝の異常をターゲットにしたがん治療の有効性を認識していた点で注目されます。しかし、その考え方はつい最近まで重要視されていませんでした。
がん細胞におけるエネルギー代謝の異常(ワールブルグ効果)は、以前は、がん細胞が嫌気性環境に順応するための変化にすぎないと考えられてきましたが、最近の研究で、このワールブルグ効果はがん発生の原因として再び脚光をあびるようになってきました。そして、ワールブルグ効果の正常化をターゲットにした治療法として、TCA回路を活性化するジクロロ酢酸ナトリウムやαリポ酸、嫌気性解糖系を阻害するシリマリンやシコニンや半枝蓮などが検討されています。これらのついては、このブログでも何回も紹介しています。(69話、168話、175話、176話、265話、266話、267話、参照)
さて、セント-ジョルジ博士も、がん細胞の代謝の異常に注目して増殖を抑える治療法の研究の中で、小麦胚芽に含まれるキノンの一種ががん細胞の増殖を阻止する作用があることを見つけています。すなわち、2,6-dimethoxy-p-benzoquinone(2,6-DMBQ)などのメトキシ置換ベンゾキノン類(methoxy-substituted benzoquinones)といわれる物質が、がん細胞におけるグルコースの取り込みや嫌気性解糖系を阻害し、さらにDNAやRNAの合成に必要なペントースリン酸経路の酵素やリボヌクレオチド還元酵素(Ribonucleotide reductase)を阻害する作用が報告されています。
2.6-DMBQなどの抗がん作用のあるベンゾキノンを含有するサプリメントとして発酵小麦胚芽エキスのAvemarが有名です。発酵小麦胚芽エキス(Avemar)には、がん細胞に直接作用して増殖を抑えたりアポトーシスを誘導する作用のほか、免疫力増強、ナチュラルキラー細胞によるがん細胞の認識を助ける効果、がん性悪液質の改善、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する効果、再発を予防する効果など多彩な抗腫瘍効果が報告され、複数の臨床試験でも有効性と安全性が確認されているサプリメントです。
Avemarは「小麦胚芽に含まれるメトキシ置換ベンゾキノンの抗がん作用」に関するセント-ジョルジ博士の研究をもとに、セント-ジョルジの祖国のハンガリーで開発されたサプリメントです。
ハンガリーは第二次大戦後ソ連に占領されて、冷戦体制の中では東側の共産圏に属していましたが、1980年代のソ連のペレストロイカ、1989年のベルリンの壁崩壊についで、1989年の秋にはハンガリーも共産主義が崩壊しました。東西の冷戦が解け、医学の分野でも東西の壁が無くない、ハンガリーでも自由な研究が可能になりました。そのような社会状況で、アメリカで亡くなっていたセント-ジェルジの基礎研究が、彼の祖国ハンガリーの化学者のヒッドヴェギ(Dr. Mate Hidvegi)に見出され、発酵小麦胚芽エキスの抗がん作用の研究が再開されます。
しかし、ヒッドヴェギの研究も研究費不足で行き詰まり、中止せざるを得ない状況に追い込まれます。彼にはお金は無く、入る当ても無く、妻は研究を止めて生活費を稼ぐ仕事に就くように主張しました。そのような絶望的な状況になり、熱心なカトリック教徒で信仰心の厚かったヒッドヴェギは聖母マリアに助けを祈ります。すると、奇跡のようなことが起こり、翌日、見知らぬ人が10万ドルの小切手を渡してくれたのでした。その資金を使って研究を続け、ついにパン酵母を使った発酵小麦胚芽エキスの製造法の特許を取得し、製品を開発しました。そこで聖母マリアに感謝の意をこめて、その製品ににAvemar (Ave Maria)という名をつけたということです。(Aveは感謝するという意味で、「Ave Maria」は「聖母マリアで感謝する」という意味)
Avemar開発の経緯の話はネット上の情報ですので、どこまで本当の話か判りませんが、セント-ジョルジのベンゾキノンの抗がん作用に関する研究や、Avemarの基礎研究や臨床試験の結果などは、権威ある学術論文に発表されており、がん治療に利用されているサプリメントとしては、かなり有効性の高いサプリメントのようです。
Metatrolは発酵小麦胚芽エキス(Avemar® ) の活性成分のみを濃縮した製品です。AveULTRAの1包(5.5g)中の活性成分を濃縮して2カプセルに詰めています。
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米国, アメリカン・バイオサイエンス社(American BioSciences Inc)社製
60カプセル入り 価格:20,000円(税込み)
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