これから旅立とうとする時に、馬の鞍に手を置いて、オホクニは、しきりに スセリヒメに訴えるように
「鈍色の服も青色の服も、どうも私には似合わない。そこで今度は、あなたと一緒に山縣に行って摘んだ茜(阿多泥<アタネ>)を搗いて染めた布で、落度なくきちんと整えて拵えた服を着てみました。そして、この服を着て、沖つ鳥が水の上に浮いて頻りに羽ばたき見せる胸のように見てみると」
と歌います。
これも、また、古事記の原文で書いておきますので、読んでみて下さい。
“夜麻賀多邇<ヤマガタニ>麻岐斯<マギシ>阿多泥<アタメネ>都岐<ツキ>曾米来賀<ソメキガ>斯流邇<シルニ>
斯米許呂母遠<シメコロモヲ>麻都夫佐邇<マツブサニ>登理與曾比<トリヨソヒ>
游岐都登理<オキツトリ>牟那美流登岐<ムナミルトキ>波多多藝母<ハタタキモ>・・・”
と書かれております。原文を読んでみると、不思議ですが、その時々の様子が、辺りの風景までもが入り交じって、著名な役者が演じる演劇を見ているような心地さへしてきます。文字の中に秘められている不思議な力を感じずにはおられません。
話は別ですが、日本生まれの英国人「イシグロ氏」が今年度のノーベル文学賞をいただいたそうですが、其の書評を読んでみますと、彼の描く作品には、人間の心が読者に迫りくるとたたえられています。、まだ読んだことはないのですが、図書館にでも行って、まだ見ぬ書物への対面をしたいものだと考えております。