どの子も参加したくなる希望の授業作り
みなさんは、学校というところで毎日毎日授業を受けてきましたが、心に残っている授業は、どんなものだったでしょうか。
あの授業が良かったと心に残っているのもあれば、実に苦痛だったから残っている授業もあるでしょうね。
◎若い先生に贈る一冊
今、教育現場は、超多忙で授業の用意ができない、教えることが多すぎ、あれを教えてはいけない、これをせよなど管理され、しかも、それが評価されるので、成果を焦って結果だけ教えて、深く考えさせるていねいな授業ができない、授業以前の子どもの指導に追われて余裕がない…等、落ち着いて授業ができにくい状況にあります。
だからてっとり早く教える技術だけを手に入れて形を整えた授業になり、それでいて、これでいいのかと悩んでいる若い先生が増えました。
今、先生たちは、子どもが食いついてきて「わかった」「楽しかった」「賢くなった」と言ってもらえる授業をしたいと切に願っています。希望を紡ぎ合う授業作りです。
2年近くかけて、こんな授業作りが学べる本を若い先生方にプレゼントしたい、と共同で討議を重ね作成しました。
私自身ずいぶんたくさんの授業をしてきました。いや今も大学で教鞭をとっています。しかし、授業は生きもの。生徒がいて、生徒の集団があって、教材があって、教え方があるのですから、そうそう上手くはいきません。満足のいく授業など数えるほどしかありません。
だから若い方に上手い授業の仕方を教えます、などとよもよも思ってもいません。共同の執筆者で、なかなか上手くはいかなかった苦い話も失敗話もしながら、授業と言う生きものについて深く語り合いました。その中から、やはりこれは大切なことだということが整理され、一冊の本にまとめられました。
教えるテクニックのハウツー本にはしたくありませんでした。まずは、授業は子どもありきです。どんな子ども相手でも同じ授業というのは教育とは言わないのです。どんな暮らしをしている子どもたちなのか、子どもの願いや不安や悲しみに寄り添える授業でありたいのです。
わからない子のやりきれぬ気持ちがわかる教師でありたいのです。どの子も見捨てない努力を続ける授業をしたいのです。子どもたちの興味や関心をていねいに拾って、そこから組んでいく授業を作りたいのです。そして、教材研究を学年の先生やサークルの仲間などと集団で深めていけたらと思います。
授業のプロセスでは、子どもが食いついてくる導入の工夫や多様な考えが出る発問の工夫や板書の仕方、学習形態の工夫等も深め合いまとめました。
◎学び合い人格も豊かに
さらには、授業というのは、先生と生徒の一対一の関係でなく(これも必要な場面はあります)、学級の集団として仲間と一緒に学び合うところに大きな意味があるのです。
そのためには、何と言っても生徒と先生の信頼関係が土台になります。嫌いな先生の話は心に届かないし、言葉に重みがないのです。安心できない教室では、安心して学ぶこともできません。まちがってもいい、わからなくても大丈夫と言う安心こそ、学級の集団には必要なのです。
同時に、友だちとの関係が、ギスギスしていたり、不信感ばかりだと不安になって勉強どころではなくなります。みんなの知恵を集めて問題を解決したり、わからない時は教え合って、みんなで賢くなろうとする仲間がいてこそ、学びは本物になるのです。
人格もまた豊かになりながら、知の世界を獲得していく教室でありたいです。
そして、私たちは学びを地域や保護者と共同で作っていくという視点を大事にしました。参観日だって、保護者も参加するのです。地域の方の協力を得て、教材を作成したり、授業を展開することも大事にしました。
授業というのは、IT時代になっても、人間が創り、人間と人間が結び合って創造していくものなのです。あらためて、このことを確かめ合いながら本作りに熱を傾けました。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)