瀬戸際の暇人

今年も休みがちな予定(汗)

異界百物語 ―第99話―

2009年09月05日 20時34分56秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい。
蝋燭も2本を残すばかりとなったが、怖気ずに来てくれて有難う。
辺りを見回せば、人の影すら判然としない、夜の闇。
転ばぬように気を付けて、各自席に着いてくれ給え。

さてこれまで98の怪異を語って来たが、改めて貴殿に質問させて貰おう。

貴殿は、この世に、妖が存在すると思うかい?

それとも起った不思議の全ては、「まやかし」或いは「偶然」等で片付けられると思うかい?
いやそもそも「偶然」こそが、人知を超えた最大のミステリーかも知れないが…。

こんな話が在る。




1664年の12/5、イギリス、ウェールズ北方に位置するメナイ海峡で、1隻の船が沈んだ。
81人乗りの客船だったのだが、助かったのはたった1人だけだったと言う。

それから百年以上が経った1785年の12/5、今度は60人乗りの客船が沈んだのだが、この時も1人だけ助かったのだと言う。

そして1860年のまたしても12/5、20人乗りの客船が沈み、やはり1人だけが助かったのだと言う。

助かった3人は年代から考えても全くの別人だが、1つだけ共通点が有ったのだそうだ。
3人共に、「ヒュー・ウィリアムズ」と言う、名前だったのである……




或る者は妖を見ると言い、或る者は見ないと言う。
両者の違いは、こういった話を聞いた時、影に潜んで思える何かを感じるかどうか、なのではないだろうか…?


…今夜の話は、これでお終い。
それでは蝋燭の火を吹き消して貰おうか……。

……有難う……遂に、1本だけとなったね……。


どうだろう?
最後の1話は貴殿に語って貰おうと思うのだが…

怪語らば、怪来たる。

最後の引き金を引く勇気を持って……さあ、皆待っている。

早く聞かせてくれ給え……




『ワールドミステリーツアー13(第12巻)―ワールド編― (編集部、著 同朋舎、刊)』より。
コメント
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